住宅医の改修事例No,99 築33年の改修~平群のすまい

Ms建築設計事務所 三澤文子


1987年に建設(築年33 年:今回リフォーム工事完成時)のこの住宅は、住宅開発された当時のニュータウンの中にありますが、そのニュータウンも、今は空き家が目立ちます。「不便なうえに寒い地域なので、高齢化でこの街を離れていく人も多いです。」と依頼者からも聞きました。
住まい手は、共に60歳代の兄妹で、依頼者は妹です。耐震も心配ですが、何しろ寒い家を何とかしたいということが大きな目的とのこと。長らくその気持ちがあったのですが、決意できず時が過ぎ、2018年、関西を襲った大型台風で瓦が一部飛んでしまったことが、この家を何とかしなければと、背中を押すきっかけになったそうです。

2018年の8月28日に初めて訪問しました。そこでひととおりお話を聞き、その上で詳細調査をお勧めし、即座に承諾をいただきました。
そして、詳細調査は10月10日ということで、日程が決まりました。
 

調査は、Ms事務所の設計スタッフ全員と学生アルバイト2名で行いました。
右下写真は調査開始前、9:00AM 依頼主に挨拶をしている場面です。この日は16:30PM
までには調査を完了し撤収しました。
 

その後、1か月ほどかけて調査結果をまとめるのですが、築年数が浅いので、基礎はRC造(有筋)でありますが、金物無しの筋交いでした。さらに2階の乗り方が大変悪いことも把握できました。

省エネ基準の気候区分はⅣ地域(2019年秋の法改正でⅤ地域に変わりました)で、同じ関西でも大阪に比べて寒さを感じます。
床下調査では、断熱材は入っているのですが、床の断熱材は【写真左上】のように脱落している個所が多くみられました。断熱材が入っているのにも関わらず、「底冷えがして寒い。」という依頼者からのヒアリングの裏付けがとれました。
33年前、断熱材がまだ今ほど普及していないこの時期は、断熱材の施工方法も今からみればお粗末であることが良く解ります。
 

6つの性能を分析し、左のレーザーチャートにまとめることができました。それを
右手のレーザーチャートのように性能向上を目指します。
勿論、詳細調査の報告日2019年1月18日時点では、右手のグラフはまだできていません。
(いつも完成後まとめることになります。)
 

プランニングは、まず軸組の問題点であった2階の外壁ライン下に耐力壁・柱を落とすことを必須としましたので、おのずと構成が決まっていきました。玄関室をつくり、その南壁(図面に赤い点線が入っています)が2階の外壁ラインになります。もともと大きなリビングだったので、キッチンを広くすることで問題なく解決しました。そもそもキッチンを大きくしたい主義なので、好都合です。
 

住まい手は、定期的にメンテナンスを行っていたこともあって外部の劣化は比較的少なく、外壁補修をして再吹付を行うことで、外壁モルタルはそのままにして、内部から耐力壁を設けることとしました。
耐力壁は構造用合板12㎜を真壁張り、大壁張りと使い分けています。
 

勿論、合板を張る前に壁内にはPFB(パーフェクトバリア:ポリエステル)100㎜を充填します。今回外壁をそのままにしますので、「内部結露があってはならない。」ということで、透湿抵抗の高い合板を張るものの、合板下にしっかり気密シートを貼っています。
 

天井も、PFBを200㎜載せています。今回気密検査を工事途中で行うこととしたため、「気密の成績をあげよう!」と監督さん、大工さんも意識して気密シートを貼ってくれました。
天井も野縁の下から貼り上げます。
 

今回、床下エアコン使用の【パッシブ冷暖】を採用したことで、床の断熱はミラフオーム厚50㎜を全面敷きこみます。
 

開口部は、1階の主な窓を、サッシを付け替えてLow-Eガラスのアルミ樹脂複合サッシに。2階などシングルガラスのアルミサッシを残す窓は、内側にインナーサッシを設けます。
また、トイレの窓など、今回木製の断熱障子を試みました。(後ほど完成写真に姿が見えます)
そして、断熱性能は、UA値0.4W/㎡K、 Q値は2.01 W/㎡Kに向上させています。
 

さて、解体してみると、2階床梁に鉄骨が入っていたことが解りました。2階外壁が座敷の上にまたぐ格好の箇所です。
また、基礎には換気扇があることと、有筋基礎であるのに無意味にアラミド樹脂の基礎補強がなされていました。依頼主の話では、高齢の母親が200万円以上の代金を支払ったとのことでした。
 
 

まずは基礎補強ですが、今回、新規耐力壁を数箇所つくることで、その下に新規の基礎を設けることになります。また壁耐力が上がり、HD金物が必要となる箇所(特に隅部)は基礎の工夫が必要になります。そこで、隅部に三角柱の補強基礎を設けました。今回初めての試みです。
 

出隅部三角補強基礎の施工手順です。施工性は悪くなく、コストパフォーマンスを今後検証したいと思います。
また、今回は地盤も良いことからべた基礎ではなく、防湿コンクリート基礎としています。
 

2階梁の補強は3箇所ありました。
右下の写真はプラン的に浴室と脱衣室を区切る個所に耐力壁を設けたため、梁が必要にった箇所、写真左下は、鉄骨梁の下にh120の梁を抱かせて、下屋を水平構面とするための小梁を受けている箇所です。
 

そして、①の補強箇所は、プラン的に柱を撤去した部分。
キッチンからの見通しを良くするためです。そこで、補強梁を入れましたが、後付けの金物を構造のTE-DOK田畑さんから指示もらい取り付けています。
 

小屋補強は必須です。
大きなブロックをスチールブレースで。ブレースが入れにくい、細々した個所は鋼製火打ちを取り付けました。この方法が合理的なようです。また住宅医協会開発のSAPJブレースはなかなか使い勝手が良いです。
 

そしてとうとう、気密試験の日、工事途中で行うことが肝心ということで、Msの温熱設計コーチの中野弘嗣さん(水の葉設計社)に測定していただきました。
結果は C値3.3c㎡/㎡ ということで、「改修物件ではこのくらいの数値で仕方ない。」という中野さんの言葉に、「頑張ったのに、、、」と監督さんは少し気落ちの様子でした。
 

そしてようやく、2月末に完成しました。外観はほぼ、以前のままですが、玄関アプローチの軒下部分のみ、板張りとしています。毎日の出入りで良く目につくところが、一新すると気持ちも晴れやかになるものです。
 

玄関室は、漆塗りの敷台や建具があり、落ち着いた空間です。天井は柿渋紙を貼っています。左写真の正面の壁は2階外壁の下の耐力壁になっています。
 

【左写真】リビングの入り口、右手が新規の耐力壁、左手の柱は栗八角柱です。
【右写真】手前左側に 栗八角柱が見えます。リビングからキッチンをのぞいたところです。

キッチン空間にはキッチンテーブルをつくりました。広々とした空間にしたかったために、柱を撤去した部分です。柱が無いお蔭で正面の壁が活きてきます。
依頼主から、「お気に入りの絵を掛けてほしい。」と頼まれました。
 

階段室には不思議な三角の棚(左写真)その真下のトイレにも同じ位置に斜めの壁(右の写真)。これは、2階トイレの配管スペースなのです。既存は2階から外部配管露出だったのですが、台所の勝手口の直ぐ脇にあったことがどうしても気になり、内部パイプスペースをこのようにつくったのですが、意外にも、この斜め壁が「ステキ。」との依頼者の感想でした。
2つの写真とも木製の断熱障子が見えます。室内側に樹脂ガラス、単板アルミサッシ側にタフトップ、その中身はPFBです。なかなか見栄えも良い建具になりました。

かつての8帖座敷は、4畳半の客間にかわりました。耐力壁をつくるために、柱が乱立して良い和室にならないのでは、と心配しましたが、丹念に細部に気を使い、意外にも自分自身、気に入った和室になりました。
 

【左写真】依頼主のご希望で、南に浴室を移動しました。今後大型犬を飼う予定ということで、犬のための勝手口も設けています。
【右写真】また、かつて浴室だった北東の角はランドリー室に。特に寒いこのエリアでは内部に物干しが必須だ。とのことです。
 

1階床は栗板、2階は杉板です。リビングの天井は杉板(赤味)で温かい木の空間になりました。
庭は清野陽介さん(プランタ)にお願いしました。

竣工写真 畑拓


床下エアコンも入り、ほかほかと、暖かい家になりました。
来年の冬、丁度1年メンテナンスを前には、温湿度の計測を行い、引き続き、住まいの改善のお手伝いに努めたいと思っています。