住宅医の改修事例№110 小さな町家の改修~岐阜ふくまちや

三澤 文子(Ms建築設計事務所 / 住宅医協会理事 / 大阪府 )
田尻 裕樹(Ms建築事務所元所員 現在「再生工舎」代表 / 住宅医 / 山口県)


2012年に完成した 岐阜ふくまちや(以下ふくまちや)です。
昨年、写真家の畑拓さんに改修工事後8年が経った、ふくまちやの写真を撮って頂いたので、その写真も見ていただきたいと思います。

大きな商家の脇にある小さな町家は、かつては材木置き場の倉庫として建てられたようです。大正年代もしくは、昭和の初めの建設です。
写真正面が南で、東に道路がありますが、この道路の拡幅のために、曳家がなされ、かつ軒先が切断された形跡があります。
敷地は、岐阜市の観光地、金華山を臨む川原町の町並みのなかにあります。
住まい手は、岐阜県立森林文化アカデミー教授の久津輪雅さんと、漆芸家の久津輪円さんご夫妻、そして当時は、まだ小さかったお嬢さんの3人家族です。

詳細調査は、2012年1月12日に行われました。この日に至るまで、当時三澤文子が設計指導をしていた京都造形大学通信大学院の設計課題として、学生たちと取り組み、その成果から、住まい手や、地主さん、街の方々にご理解を頂きこのプロジェクトが成り立った経緯があります。(それにつきましては、雑誌「住む。」(2021年2月号)の記事の中に記載されています)


上は既存平面図です。
東南の角地である敷地は、間口4.2m 奥行27m 北の勝手口部分は、のちに増築されたもので、離れの浴室もおそらく同時期に増築されています。
当初は材木倉庫として造られたってものを、借家として改修していました。


基礎は、曳家をした形跡から無筋RC基礎の部分もあり、コンクリートブロックの部分もあり、また玉石を敷並べた部分もあり、という状況で、土台はありますが、おおかた土に潜っているなど、腐朽蟻害も多くみられました。


調査診断は、左下のレーダーチャートで表されていますが、劣化・耐震は零点となっています。
ところで、この評価表は、2012年当時のバージョンで、なじみの薄いものですが、これは2011年度(H23年度)国交省の長期優良住宅先導事業で採択された「既存ドック3」を使った物件として200万円の補助金を得ています。
改修設計により、右のレーダーチャートのように満点の性能向上となっています。


上は改修平面図です。原型部分を残し、かつて増築された部分は解体して改めて増築しました。南玄関からは、妻の運営する漆教室と、作業室、黄色に色塗りされた部分と、2階すべてがプライベートスペースになります。
漆教室は、天井を外し、小屋裏を吹き抜けとして、ロフトをつくりました。増築2階からつながるロフトは、頭を下げて通り抜けなれば、梁に頭があたる低さなのですが、慣れてくれば問題ない。との住まい手のお言葉です。


耐震性能を向上させる(等級2)ためには、基礎改修が必要です。
そこで、既存基礎状況に合わせて2種類の基礎改修方法を行っています。


向かって左の基礎改修は、添わせ基礎方式です。ここは西隣家との敷地境界線までの離れが全く無い状況であったため、施工上からもこの方法が最善であると考えました。右手の断面は、東道路側なので、柱脚を切断して新規RC基礎をつくる、RC基礎改修方法を採用しています。


上はRC基礎改修方法ですが、この建物は胴差が無くすべて通し柱なので、それぞれの柱にスチール束を設け支えなければなりません。現在はこのサポート役には鋼製束を使用しますが、さすがに通し柱は、現在もこのようにコラムで製作した束で支える場面もあります。9年前のこの当時は、鋼製束は用いられていませんでした。


耐力壁は上の図の通りです。耐力面材は構造用合板とプラスターボードです。


断熱材は主にパーフェクトバリアを使用しました。
開口部は、玄関建具のみ既存の建具を使用していますが、そのほかは全て新規建具です。
ペア―ガラスの木製建具には障子を付け、ペアーガラスアルミサッシにはハニカムサーモスクリーンを付けています。現在は樹脂複合サッシを標準としていますが、9年前はアルミサッシでした。


その結果 Q値は1.95W/㎡K となりました。寒いマンションで辛かった住まい手に暖かい住まいを提供できたかと思います。
9年前は Q値(熱損失係数)を基準の単位としていましたので、まだUa値(外皮平均熱貫流率)は登場していませんでした。


ここで、瓦の葺き替えについて説明します。
詳細調査時に既存屋根の状況を楽観的に見ていた(しっかり確認していなかった)ことから、増築部の瓦工事の際に瓦屋さんから「葺き直すべき。」との意見を頂きました。
住まい手にも説明をして、土葺き瓦を新規桟瓦に造り直すことができました。


既存建物もかわいいプロポーションですが、改修後は、南にバルコニーができています。


既存の平屋部分を解体し、2階建ての増築部ができています。
東道路から見える漆工房は、街に開く「ものづくり」の空間です。
真っ黒な外壁とのコントラストが鮮やかに見えます。


借家に使われていたときは、畳の続き間でしたが、吹き抜けのある漆教室ができ上りました。床板は厚さ30㎜の杉板に着色して漆を塗ったもの。住まい手の久津輪円さんと、漆教室の生徒さんが手伝って塗ったものです。


右の写真が漆教室の吹き抜け。ロフトがあり、南のバルコニーに続いていることがわかります。
左の写真は、増築部から、改修部のロフトに続く障子の出入り口ですが、写真奥の小屋梁の内法が、かなり低いことがわかります。


2階増築部は、住まい空間、リビングダイニングとキッチンです。地主さんが所有する岐阜県内の山の木を伐採して製材、この構造材として使われています。
北の奥には畳ベンチがあり、ダイニングになっています。テーブルの上のペンダントは岐阜提灯。窓から見える岐阜・川原町の町に似合った灯りです。


最後に、定期借地権について、ご紹介します。
今回のふくまちやは、この方法をとりました。この方法によって、利用されない古家が改修されて、性能確かな住まいになりました。

このふくまちやのように、観光地であったり、都市部であったりと、便利な場所に高価な土地を購入せずに長く住める家を建てる(改修)することができ、「かかわる人々が全てハッピーになる。」ということで、このような方法をとった家を「ふくまちや」と名付けました。(この後、2015年に大阪市福島区でもフクマチヤが誕生しました。)

町が、イキイキするような存在の このふくまちや~
各地で このような「福町家」が出来ることを、願っています。
(三澤文子・田尻樹)


関連情報
雑誌「住む。」冬号No76(2021年2月号 農山漁村文化協会)ASIN : B08P62YN7R