投稿日:2019年10月29日

リレーコラム「古民家への道」発刊に際して


                       住宅医理事 松井郁夫 

住宅医の活動が大切なのは、すでにある建物資源を活かすことにあります。
特に古民家と呼ばれる明治24年以前の日本独自の建物は、欧米の影響を受ける前の

純粋な日本の構法の持つ文化と美学があります。

ただし残念ながら、民家の価値は、あまりにも身近で、ふつうの建物として顧みら

れませんでした。このままでは世界に誇る日本の技術を失います。
そこで、建築的かつ民俗学的視点を解明したいと考えました。

本書は、古民家の構造と美学と普遍性を解明し、再生法を紹介する一冊です。
日本の民家の再生を通して、本来の日本の住いのあり方と、これからの日本の住い

の行方を探るために、文化面と技術面の両方から古民家を解析しています。

今私達の住んでいる住いは、明治維新で西欧化し、第二次大戦後にアメリカンナイ

ズしたことによる構法の変化が起こり現在に至っています。つまり現代の日本の住

いは、構法の混同した和洋折衷の住いです。

明治以来、地震や台風の災害国である日本独特の構法が軽視され、優れた理念や技

術が伝えられてこなかったことに注視し、古民家と呼ばれる伝統家屋の理念と技術

に学ぼうとするものです。

日本の民家は、欧米の強度による力を押さえる強度設計ではなく、柳に風の力を逃

がす減衰設計です。その優位性を見直し、命を守るためには、自然の猛威をいなす

工法が必要であることを説くものです。

古民家の民俗学的な視点から、気候風土にそった美しさを継続し、さらに科学的な

実大実験による知見も加えて、新しい計算法「限界耐力計算」を紹介し、これから

の日本の住いの行方を追求しています。

この本では、全国各地の古民家再生の事例を示し、その具体的な実践手法を紹介し

ています。さらに、古民家再生の方法として「耐震性能の向上」はもちろん、地球

環境に負荷をかけない省エネルギーの視点から、「温熱性能の向上」を実現化する

手法も紹介しています。

古民家の再生は、日本の再生につながる。と考えます。いまこそ古民家を見直すこ

との大切さを住宅医のみなさんと共有したいと思います。

事例①「八王子の古民家」は、明治40年築の古民家再生です。
耐震補強は限界耐力計算に基づき、石場建てのまま行いました。
高ハッポウと呼ばれる屋根からの採光で室内を明るくしています。さらに断熱改修で、

G1レベルを獲得しているので、無暖房で10度を下回ることは有りません。

事例②「漢方の本陣」は、275年前の古民家再生です。
大きく傾いていた建物を治すことに苦労しました。柱の根元が潰れていましたが、金輪

継という根継ぎで全て改修しました。
強い壁を避けて板壁で耐力要素を担っています。床下エアコン一台で65坪の生活部分を

温めます。燃費計算によれば、費用は1/5まで少なくなりました。

  
2019年日本エコハウス大賞(リノベーション部門)を受賞しました。

事例① 八王子の古民家再生


事例② 漢方の本陣

「古民家への道」書籍紹介ページ(版元:ウエルパイン書店)

投稿日:2019年10月05日

2019年10月 住宅医リレーコラム


工務店においての住宅医の取り組みをご紹介いたします。

新産住拓 リフォーム事業部 泉保 真史

熊本県において地域に根差した工務店、住宅医として熊本地震における復興にも様々な関わりを持ってきました。その中で、2019年 Good Design受賞のご報告を致します。



Good Design Award 阿蘇の家紹介ページ

「阿蘇の家」は、熊本地震後、街並み損や人口流出等の地域が抱える問題に対して「住宅医」の知識と技術をもとに解決し、 発信する古民家再生住宅として提案致しました。阿蘇外輪山を望む「阿蘇の家」は、改修の2年前に被災しました。
「阿蘇の家」所在地周辺は地震の影響による、建替えや違う土地への移住を余なくされた人が多い中、この地域で家族を見 守り共に歩んできたこの家で暮らし続けることを選択しました。「住宅医」による診断と技術を取り入れ、耐震性・断熱性等 の性能向上を行い、現代の暮らしに適したデザイン提案を図り、これからも永く住み継ぐことのできる住まいへと改修しまし た。隣接するカフェに訪れる人や地域住民の人にも開いたデザインとすることで、単純な暮らしだけではなく、地域コミュ二 ティの活性化と伝統的な暮らしの魅力を発信する場にもなりました。

2019年10/19(土).20(日)

2015年 Good Design 受賞「自適荘」と「阿蘇の家」2邸の同時見学会が開催されます。  
詳細はこちら   https://www.shinsan-reform.com/lp/good_design/



【審査員評価コメント】
地域に根ざしたハウスメーカーが「家守」としての高い意識のもとに実現された、築70年の古民家再生住宅である。「住宅医」による性能診断、耐震性、断熱性の向上という技術側面からの再生と同時に、地域に根差した材料の選定や記憶が継承できる古材の見せ方など、細部まで丁寧にデザインされており、高く評価できる。また、閉ざされた土間空間が新たに設けられており、地域コミュニティとの接点を生む場として、時代のニーズを読み解きながら地域社会に貢献しようとする姿勢は大変共感できる。このようなすぐれた再生住宅が先行事例となり、既存ストックの利活用が社会全体として進んでいくことを期待したい。

「住宅医」と「家守」と言う言葉が多く出てくるようになってきました。
単なるインスペクションではなく、想いをつなぐ「住宅医」として今後も発信していきたいと考えています。
今回の受賞作「阿蘇の家」の設計は住宅医 桝本侑加、松野洋二郎が担当致しました。

投稿日:2019年09月06日

2019年9月 住宅医リレーコラム


四国初開催セミナー報告・「地域の住宅ストックを活かす既存建物の改修設計」

村上登男一級建築士事務所
 村上洋子(住宅医・一級建築士)

 7月20・21日の2日間、松山市のポリテクセンター愛媛において、三澤文子協会理事が「地域の住宅ストックを活かす既存建物の改修設計」と題したセミナーを行いました。四国各県から住宅医5名とスクール修了生1名も講師として参加した、四国で初開催のセミナーでした。

 住宅医は、一般的に行われている、劣化診断や耐震診断だけでなく、温熱省エネ、維持管理、バリアフリー、火災時の安全性など、既存住宅の性能を総合的に診断する性能向上診断(既存ドック)を得意とし、住宅医による改修の品質の高さは群を抜いていると思います。住宅医になるにはスクール受講に加え検定会で合格する必要があり、講習を受けるだけで簡単に得られる資格ではありませんが、そのぶん今回のようにプロ向けのセミナー講師ができるくらいの実力が得られます。

 セミナー内容:1日目の午前は、住宅医スクールの核となる「木造建築病理学」の紹介から始まり、詳細調査方法と報告書作成、調査器具の説明。住宅医スクール第1回目の第1講義と第2講義をかいつまんだ内容です。午後からは、香川の中野弘嗣さんによる「改修版自立循環型住宅ガイドライン」を用いた温熱・省エネ改修の設計手法の講義に続き、温熱・省エネ改修の実践事例を、三澤理事と私が発表しました。

 2日目の午前は、徳島の多田豊さん、釜内晋治さん、香川の土居良助さん、高知の萩野裕一さんが事例を紹介。午後からはセミナーのまとめとして、3時間の「耐震+温熱・省エネ改修設計演習」を行いました。

 設計演習は、参加者全員の改修案に、三澤理事がコメントをつける形式でした。南面の採光を極端に減らした案に対する、歯に衣着せぬコメントにハラハラしたり、「愛媛は工事費が安いから2階に1部屋増築する」という予想外の案に、みんなで大爆笑したりと、大いに盛り上がりました。

 今回のセミナーで紹介された改修事例を見て、四国は住宅医が少ないけれど、それぞれの得意分野が際立っているのが強みだとわかりました。ポリテクセンターからは、参加者のアンケートに「勉強になった」と多く記載されていた、今後も続けてセミナーを開催したいと報告があり、次回に向けて動き出しています。

 他県のポリテクセンターの講師も参加し、地元開催に関心を示されていました。今回のように地方でのセミナーを行うことで、住宅医の仕事を広めて行きたいです。今年度の住宅医検定会の募集もそろそろ始まります。スクールを受講する以前の改修事例を使用して検定会に臨み、合格したケースもあります。皆さんもこの機会に検定会に挑戦し、お住まいの地域でのセミナー開催を目指してみてはいかがでしょうか。