改修事例 №0149 黒門通の住宅 ~三世代家族のための住み継ぐ京町家の改修

高橋 勝住宅医 / 高橋勝建築設計事務所 / 京都府

 

© 高橋勝建築設計事務所

 【 建築概要 】
所在地:黒門通に面して建つ京町家(築年:昭和初期)
用途:夫婦が子育て出来る三世代の為の住まい(家族6人)
構造:伝統及び在来木造 地上2階建(ロフト収納あり)
面積:敷地面積155㎡ 建築面積120.48㎡ 延床面積197.76㎡
建築費用:約4,000万円(税抜)2022年竣工時 建物のみ
改修設計:髙橋勝建築設計事務所

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地域区分:6地域(所在地:京都市)
温熱性能(UA値):2.27W/㎡K → 改修後0.59W/㎡K
ηA値(日射取得): 暖房期1.4% 冷房期1.0%
耐震性能:上部構造評点Iw 0.34 → 改修後1.10
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三世代が住み継ぐ為の京町家改修
調査診断+性能向上改修(耐震、断熱、居室の性能向上の為のプラン変更)+黒門通景観向上のためのファザード計画
ここで生まれ育ち独立された子世帯が、次は自分たちの子育ての為またこの京町家に戻りご両親と一緒に三世代住まう、住み継ぐための改修となった。

 

地域環境と景観

建物が面している黒門通は、安土桃山時代につくられた通りで、古来より繊維産業が盛んであり、現在も通りに残っている京町家の格子を見ると染屋格子が多く見られる。改修した建物にも染屋としての経歴が残っており、改修にあたりファサードの意匠は、染屋格子を復元するなど黒門通の風情に配慮しながら整えた。通りに面した外壁は黒漆喰の左官で仕上げ、古瓦を継続利用とした。また工事は地元大工が行い、枠、軒、うだつの納まりや高欄の擬宝珠など建物の至るところにその美学が潜んでいる。この改修は通りの意匠と大工の美学が混ざり合い、通りの豊かな風景の維持・継承に配慮している。

既存建物の様子
外部内部共に 場当たり的な改修が行われている
既存建物の様子
外部に面しない 居間食堂の様子

 

ヒアリング結果 赤:施主青:設計者緑:良い所

建替・改修の検討

価格は2022年12月 時点

新築にする場合は、セットバックする必要があり同じ間口では作れない(狭くなる)。ファーストプラン提出後に改修で進める事になった。

既存建物の詳細調査

小屋裏

外壁土壁は概ね健全だが所々崩れあり
小屋裏

小屋裏の様子
ロフト

屋根は改修済み 野地板、補強垂木、瓦とも断熱なし
床下

床下は石端建て+外周部無筋又はCB基礎 一部腐り、蟻害跡あり(解体後判明)

 


 

離れ


離れの床下は極端に低い

離れ


床下じめじめしている

離れ(解体時)

離れの蟻害跡
(解体時)

アルミサッシ取付時に柱が3本切断されていた

 

改修前の建物性能 

 

Plan

  • ①居室の環境(通風・採光・眺め)性能向上のためのプラン変更。
  • ②耐震性能 Iw値(評点)1.0以上の性能をローコストで実現する。
  • ③断熱改修(H28省エネ基準を余裕をもって満たす)
  • ④住まいを好きになれる意匠性の向上。

                 

間口方向の耐力壁をバランスよく配置し,耐震性を向上させた。

二世帯が適度に独立・交流できるよう子世帯エリアと親世帯エリアに分けその間に共用エリアを配置した。

全ての居室が庭に面する計画とした。光・風・緑が建物内を通り抜ける。

プランニングでは,失われていた庭をよみ がえらせ,光・風・緑を取り入れることで豊かな生活空間を整えた。これは換気エネ ルギー縮減にも寄与している。

耐震性能の向上

●既存基礎を残したまま補強土間コンを打つ

ここでは既存基礎の上に補強筋を配筋し,土間コンクリートを打ち,柱と緊結する簡易な土間とすることにより,耐震性能を向上させ,かつ,基礎の解体に発生するエネルギーを削減することを意図した。

構造計画:能登謙介 ©アトリエSUS4


土台,アンカーボルトの新設
柱補修 桁張り交換

●簡易な基礎を実現するためのバランスの良い耐力壁配置
柱脚にかかる引き抜き力を10KN未満に抑えるために耐力壁をバランスよく配置することが必要


●ねばる耐力壁の採用
新設する耐力壁には,既存土壁に近い挙動をする上下開口付の壁を採用することで新設耐力壁への応力集中を防止している。

構造計画:能登謙介 ©アトリエSUS4

 

省エネルギー

既存を活かして断熱・耐震性能向上,解体工事の規模縮小,ローコスト化を図る

●既存土壁の内側に断熱層を設ける
ここでは既存外壁及び土壁を極力そのまま利用し,その室内側に断熱層を追加することにより,断熱性能を向上させ,かつ,外壁解体及び廃材処理にかかるエネルギーを削減することを意図した。

断面図 ©高橋勝建築設計事務所

壁断熱材施工

断熱材施工
床断熱材施工
断熱材施工
気密施工
防湿シート、気密テープ施工

●自然エネルギーを活用した省エネ性能の向上


既存太陽光発電パネル
健全であった屋根も解体せず,屋根に設置されている太陽光発電パネルを継続利用とした。

改修前後の性能を比較 


レーダーチャート 赤:改修前 青:改修後

地域の材料・地域の人でつくる

今回の改修では、地域の木材と地域の人材を採用することを通じて、里山と都市と人とのサスティナブルな関係を促進・継続することを意図した。

大工の技術を継承する

技術を継承した地元大工によって,将来に渡って維持管理され,地域の豊かな風景の 一部として受け継がれていくことを期待している。

住まいを好きになれる意匠性の向上 古建具の活用

通りの風景を継承する


建具格子(染屋格子)の復元と通り庇の復活

photo

Before 

外部に面しない居間食堂
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After


中庭に面した開放的なLDKとなる


Before 

屋外の縁側動線と水回り、離れ(寒く、簡易カーテンが設置されていた)
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After

中庭に面した内部廊下となる



和室、ロフトを見る



ロフトから中庭を見る


Before 

離れ(以前は介護の為の部屋だったが使われなくなった)
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After


写真下:右側に中庭、左側に奥庭に囲まれた心地よい居室となる



中庭・寝室1を通して奥庭までつながる



写真左:復活した坪庭。右:中庭から寝室1を見る。

最後に

始めてお施主様ご家族とお会いした時は、赤ちゃんがまだ一人の時でした。歴史ある通りの古い京町家の中で、新しい家族が増え3世代になったご家族の未来に向けたとても希望や夢にあふれた打合せのスタートだったことをよく覚えています。

改修前は、昭和の新建材を利用した場当り的で無計画な改修を繰り返されてきた、うす暗いウナギの寝床で、どうしてもポジティブに既存の町家を見られないご様子で、建替えのご希望が強かったように思います。唯一お母さまが、京町家に愛着を持っておられ改修案も一案作ろうとなりました。

そこからは、改修でも寒さ暑さが改善され耐震性能も持たせられる事、ご希望の暮らしや意匠性が十分かなえられる事、広さや工事費の優位性など、ひとつづつゆっくりご説明して京町家改修のご不安を解消していきました。また京町家の事を話題にする打合せが続く中で、生まれ育った京都の文化としての町家を残す事の意義なども話題に上げられるようになってきて、最後はご家族一致で改修案に決定しました。

現場で共働した棟梁の斉藤大工はお施主様との長年のお付き合いがあり、長く建物に手を入れてこられました。今回現場では弟子にあたる若い大工たちを積極的に指導し仕事を任せつつ、大事な事を伝えている場面によく遭遇しました。今回子世帯に住み継がれていく京町家はまた将来、その時の生活に合わせて手を入れる時が来るでしょう。そしたら次は弟子だった大工達がまた受け継いだ技術や知恵を奮い、その時の京町家の暮らしを支えていってほしいと思っています。

初打合せから竣工まで2年弱、お孫ちゃんが二人に増え、益々賑やかになったご家族が引越しされた翌春、お施主様の主催で工事関係者を集めた慰労会が催されました。食堂から中庭テラスを通り抜けて走り回るお孫ちゃんたち、大勢でもゆったり過ごせる1階で新しい暮らしの様子を楽し気にお話しされているのをお聞き出来た事は、工事関係者一同に至福の時でした。

このような良い仕事の機会を頂きましたお施主様はじめ関係者の方々に、また、仕事の発表の機会を頂きました住宅医協会の方々にも感謝いたします。ありがとうございました!

高橋勝

No,149 黒門通の住宅 ~三世代家族のための住み継ぐ京町家の改修
設計・監理:高橋勝建築設計事務所
構造設計:能戸謙介(アトリエSUS4)
施工:斉藤工務店(棟梁:斉藤辰美)
左官:斉藤敏夫
作庭:中島正義(さが造園)
竣工写真:笹倉洋平

©高橋勝建築設計事務所, jutakui


LINK
高橋勝建築設計事務所 https://t-masaru.net/

・動画「黒門通の住宅 ~三世代家族のための住み継ぐ京町家の改修」高橋勝 https://www.youtube.com/watch?v=o77462M62Ow
 

・住宅医の改修事例 №104[シニア夫婦のための、築143年缶詰茅葺きの改修] 高橋勝  https://sapj.or.jp/kaishuujirei2020-104/