築23年のハウスメーカー鉄骨造住宅(ヘーベルハウス)の温熱改修

三澤文子(Ms建築設計事務所

2017年秋、「とにかく冬が寒いので、何とかしたい。」とのご相談を頂き、事前調査に伺いました。依頼者はインナーサッシを付けることを念頭に相談をされたようでしたが、断熱補強することの重要性を説明し、まずは、詳細調査を行うことになりました。

事前調査は 2017年8月9日
詳細調査は 2017年11月17日に実施されました。



さらに、詳細調査実施後、温湿度計を、室外、室内各所に設置し、温湿度環境の計測をさせて頂きました。


計測の結果、リビングは、朝には、10℃を下回り、ガスファンヒーターで暖めていることが解ります。また、脱衣室は6℃まで室温が下がっていることも解りました。


詳細調査の結果をレーダーチャートにまとめ、依頼者に説明し、その上で、今回は温熱改修に特化して、性能向上の改修設計を行い、合わせて、もう一つの問題であった「階段が急で、脚に負担あり。かつ危険である。」点を改善することになりました。幸い、親族が旭化成ホームズにお勤めであったことから、構造担当の方の確認を得て、2階の床を一部撤去し階段を広げることが可能になりました。
その結果が、改修後のレーダーチャートになります。


1階は、玄関戸を既存利用としたために、建具により玄関室を区画しました。
階段の段数を増やすために、和室押入れの壁をアール状にして対処しています。
その他、プランの変更はほとんどありません。

2階もプランの変更はなく。2階床の一部が階段になったために、トイレの向きが変わった程度です。


施工中の状況ですが、断熱材を入れるために、ほぼスケルトンにしています。上の写真はリビングからキッチンを見たところになります。


温熱性能は、UA値が 1.73W/㎡Kから0.46 W/㎡Kと向上しています。ただ、数値の向上もさることながら、鉄骨造ということで、内部結露の心配から、鉄骨に断熱材を巻くなど、慎重に施工をして頂くことになりました。

床の断熱材仕様の変化と性能変化です。【ビフォア―➡アフター】


上は、壁の断熱材仕様の変化と性能変化です。【ビフォア―➡アフター】


さらに、天井の断熱材仕様の変化と性能変化です。【ビフォア―➡アフター】


そして、開口部には、既存アルミサッシ(単板ガラス)にインナーサッシとハニカムサーモスクリーンや、障子などの付属部材を取り付けました。


気密試験も実施致しましたが、成績は新築に比較して振るわず。温熱改修の課題が気密向上であることも、明確になりました。


改修後も、温湿度計を、改修前を同じ場所に設置し、計測をいたしましたが、改修前には方10℃を切ったリビングの室温が17℃になり、朝方6℃程度であった、極寒(?)の脱衣室が12℃と、温熱向上がなんとか確認できました。


【ビフォア― ➡ アフター】の写真になります。
左、改修前の玄関です。右手は改修後、正面の障子(樹脂ガラス使用)は、既存のアルミサッシの内側に設置されています。 玄関室は、既存玄関扉使用もあり、少し寒い部屋になります。


廊下と玄関室とは、右手写真の右端に戸先が見えている引き戸によって区切られていて、玄関室の冷気が入らないようにしています。
左の写真の既存床フローリングは、合板に単板練り付けの複合フローリングであったため、足触りが冷たく、断熱材の無いことも重なり「底冷え」がしていたそうですが、クリ(無垢)材のフローリングで、暖かく感じる床になりました。


今回、上り下りしやすい階段に改善したことも、良い成果になりました。階段板は、膝の負担を慎重に吟味し、ヒノキ板にしています。


リビングは、プランは何も変わらないものの、木質感あふれる木の空間になり、見た目も暖かく感られます。天井の赤味の杉板が、暖かさを増長させてくれるようです。
左上の改修前のご夫妻の寒そうなご様子や、ファンヒーターが数台見えることなど、寒かった以前の暮らしが一新したことがうかがわれます。


温熱改修は、結果がすぐにわかることから、依頼主からとても喜ばれ、設計者としても嬉しい仕事の成果となります。これからも、寒い家を改善して、多くの方々が暖かい家で健康に、そして幸せに暮らして頂けるよう、改修設計技術の向上に努力したいと思います。