広島県「古民家の宿 長者屋」 ~チーム設計で取り組む築200年の古民家の宿~

報告者:Ms建築設計事務所/上野耕市

■ 事業主   :   せとうちDMO古街計画/ 木村洋・阪本浩和・吉本有希子
■ 設計統括  : 六角屋/ 三浦史朗・水谷仁美
  共同設計 : Ms建築設計事務所/ 三澤文子・上野耕市
■ 施工工務店 : 奥田工務店/ 奥田順紀
■ 所在地   : 広島県庄原市比和町三河内1528
■ 主用途   : (改修前)一戸建ての住宅 → (改修後)ホテル又は旅館
■ 築年数   : 209年(想定)
■ 敷地面積  : 894.34㎡
■ 延床面積  : (改修前)216.4㎡  → (改修後)199.99㎡
■ 工期    : 2019年4月~8月

(改修後) 全景

 

プロジェクト概要
本プロジェクトは、広島県庄原市に点在する3棟の古民家を、それぞれ「一棟貸しの宿」へ再生させるものです。
庄原市は広島県北部=中国山地の中央付近に位置しており、豊かな里山景観が広がるエリアです。
「長者屋」・「不老仙」・「こざこ森」(施設名称)という3棟の古民家を対象としていますが、今回は、「長者屋」についてご報告致します。

庄原市の位置

 

チーム編成
事業主は、官民組織である「せとうちDMO古街計画」。
庄原市と連携協定を締結し、観光事業により地域活性化を図ることを目的にプロジェクトが始動しました。設計は、木造建築を得意とする2社「六角屋+Ms」により、チームを編成して取り組みました。
詳細調査には、関西住宅医ネットワーク有志の皆様に参加して頂きました。

事業スキーム

 

地域特性
「長者屋」が位置する、庄原市比和町三河内(みつがいち)は、「古事記」にまつわる伝説が残る比婆山にの麓にあり、地域固有の歴史・文化を色濃く残すエリアです。
「たたら製鉄」の砂鉄が採取された場所でもあり、山が削られた場所に棚田がつくられ、「カンナ残丘」と呼ばれる独特の景観が広がります。また、和牛の産地としての歴史もあり、4年に1度開催される「比和牛供養田植(広島県無形民俗文化財)」は、かつて、民俗学者:宮本常一が調査を行ったことでも知られています。
標高は570m程で冬が寒い地域です。省エネ地域区分4、冬季の平均気温は5℃を下回り、積雪もあります。

三河内の風景

 

既存建物
建物は、築200年を超える伝統工法による木造平屋建です。
間取りは、大きく「土間エリア」と「板間エリア」に分かれます。
柱:栗、梁桁:地松による力強い骨組みと土壁により構成され、屋根は又首構造による重厚な入母屋造りとなっています。
牛と共に生活してきた歴史があり、室内に「牛小屋跡」が残ります。

性能的にはすべての項目において現行基準を満たしていませんが、空家になった以後も、地域の皆様が愛着を持って維持管理されてきました。

改修後は、「特殊建築物」となるため、「用途変更」に伴う確認申請が必要です。

詳細調査時の様子 調査員15名(Ms+関西住宅医有志)

(改修前)配置図

(改修前)南側外観

(改修前)土間~板間

(改修前)板間

 

要望
・ 一棟貸しの宿
宿泊者最大6名が利用する一棟貸しの宿としたい。

・ ターゲット
外国人旅行者も対象としている。

・ 間取り
伝統的な間取り・素材感を生かしたい。

・ 水廻り・客室
現代の宿としての快適性を担保したい。

・ 地域文化の継承
歴史文化の発信する場所をつくりたい。

・ 寒さ対策
冬季の寒さが厳しく、対策が必要。

・ コミュニティ
宿泊者以外の利用にも対応したい(集会所等)。

伝統的な素材

 

改修計画
大きな骨格はそのままに、キッチン、浴室などの水廻り+寝室からなる「北側エリア」を中心に改修を行い、「南側エリア」は既存をいかす計画です。
牛小屋跡は、歴史文化の発信する展示室[ヒストリールーム]として、あえてそのまま残しました。
減築(計16.4㎡)により、延床面積を200㎡未満とすることで、内装制限は適用除外としています。

(改修後)平面図

 

改修内容

1)劣化対策

床下の防湿対策として、ポリエチレンフィルムの上、防湿コンクリート(ア)60を打設。床組みは、鋼製束、大引(桧)は新設として、地場の杉板(ア)30に漆塗りを施して、直張りしました。

防湿コンクリート打設の様子

外回りでは、土壁の損傷が激しく、解体工事で発生した“現地の土”を用いて、塗り直しました。
(土壁WS)

土壁補修

 

2)耐震性能

耐震性については、コスト・工期の諸条件より、全面改修は見送りました。
耐力要素は、北西側(浴室廻り)を「コア」として捉え、コンクリート基礎と構造用合板による耐力壁で補強を行っています。

耐震補強工事

住宅医検定会においては、山辺豊彦先生(山辺構造事務所代表)より、

『建物全体を改修できない場合、コアに連続している軸組(X方向、Y方向共)について、特に、梁の連続性を考えて、接合補強(引張接合)していくことを考えて欲しい』との助言を頂きました。

耐力要素の配置

 

 

3)断熱性能

効率よく広い室内を暖めるために、「床下エアコンシステム(パッシブ冷暖/参創ハウテック)」を採用しました。床下は全面スタイロフォーム断熱材(ア)30を敷き込み、専用ダクトによって、吹出し口まで暖気を導きます。
宿泊者の皆様にも評判が良く、畳敷きの和室でも効果を実感することができました。

土間及び縁側は、「断熱区画範囲外」として計画しましたが、建具で完全に仕切ることが難しく、隙間風を含めた気密性には課題を残しました。

床下エアコン計画図

 

吹出し口(木製ガラリ)

 

4)省エネルギー性

設備機器はすべて新しくやり替えました。
配管はヘッダー方式を採用、ガス給湯器(プロパン)の取替え、照明はLEDによる多灯分散型としました。

また、「ボーリング(上水)」、「貯水槽」、「浄化槽(7人槽)」設置工事が必要であり、『上下水の確保』がひとつの課題となりました。
(旅館業法によって、飲食・風呂に適した水質かどうか検査があります)

設備工事

 

5)バリアフリー性

3つのエリア(玄関、土間、板間)に分け、バリアを減らす様に計画しています。
玄関エリアから、約180ミリの段差を3段設けて、板間エリアまで上がります。

土間床は、滑りにくい「洗い出し仕上げ」としています。
囲炉裏まわりは、座りやすいよう「堀炬燵」でつくり替え、浴槽内にも段差を設けました。

玄関~板間(内観)

 

6)火災時の安全性

原則として、すべての居室から屋外へ避難できるよう「掃き出し窓」を設けました。
古民家の宿において、ネックとなるのが「排煙」です。
特に、縁側があると、居室が外部に面していないと見なされるため、欄間に開口部を設ける必要があります。また、火災報知機は「無線連動型」、カーテン類は「防炎タイプ」とする必要があります。

寝室の掃き出し窓

 

 

性能診断結果概要

性能向上の面では、特に、耐震性に課題を残しましたが、優先順位を付けながら、よりベターな解を模索しました。すべての性能において現状基準を満たしていないなかで、特に、コスト、工期をにらみながら、現実的かつ、適切な処置を施す為の「設計者判断」の重要性が問われました。

 

 

改修後写真

(改修後)囲炉裏スペース

(改修後)キッチン

(改修後)寝室

(改修後)浴室

(改修後)ヒストリールーム/牛小屋跡

(改修後)和室

総括
地域の歴史・文化を継承する古民家を、チーム設計により宿泊施設として再生するプロセスにおいて、詳細調査はじめ、住宅医で学ばせていただいたスキルが非常に役に立ちました。

本プロジェクトを通じて、古民家改修においては、ひとつの建物だけではなく、観光資源としての活用や、地域内外の交流の場として、より拡がりのあるストーリーを展開できる可能性を感じています。

『建物を治すことは、地域を治すこと』
今後も、古民家をコアとした地域再生への取組みを継続していきたいです。

美しい里山を舞台に、施主様の熱意と、温かな地域住民の皆様との交流に支えられてプロジェクトを進められたこと、改めて感謝申し上げます。

以下、参考URL

せとうち古民家ステイズ(Setouchi Cominca Stays)
https://cominca-stays.com/

せとうち古民家ステイズHIROSHIMA【長者屋】予約フォーム
https://shobara-info.com/spot/1989

せとうち古民家ステイズHIROSHIMA【不老仙】予約フォーム
https://shobara-info.com/spot/2072