改修事例 №0148 維持管理を簡単に性能向上改修 ~築41年の木造平屋建リノベーション
古松洋一(住宅医 / さくら設計株式会社 / 山口県)
経緯とご要望
ご依頼者様はお父様との二人暮らしの息子さんからでした。昭和56年、築41年の建物は建物内部は全体的に薄暗く、夏は熱く冬は寒いと悩まれており、また落ち着ける空間が無いとの事でした。この改修で耐震性能の向上、温熱環境の改善と省エネ性、将来を見据えたバリアフリーについて改修しつつ、趣味の観葉植物が鑑賞できるスペースと薪ストーブが置ける空間をご希望されました。
将来相続の問題が発生するため、土地建物を生前贈与されることをお勧めしました。
資金については住宅ローンを希望されたのでいろいろな銀行に相談した結果、1行だけ耐震改修を施し新築同等の改修を行うことを条件に、資産価値を認めて融資が行えるとの話になり計画がスタートしました。
既存建物の様子 外観 |
既存建物の様子 外部 |
室内(和室) |
室内(台所) |
既存建物の詳細調査
【 外部 】
既存の建物の外壁は焼き杉板張りOP塗装でご依頼者のお父様が5年に1度塗装を施されていました。上部は漆喰塗壁でした。屋根はセメント瓦で劣化が目立っていました。開口部はアルミサッシの単板ガラスで窓枠は木(モク)で造られており、劣化が進んでいる状況でした。基礎外周部は換気口周りにヒビ補修をされた状態でした。
外壁 壁は土塗壁下地の上、杉板張りOP塗装で上部漆喰塗壁 |
開口部 アルミサッシ単板ガラスで窓枠は木 |
屋根 セメント瓦で塗装 劣化あり |
基礎 基礎外周ヒビ補修あり |
【 内部 】
壁は土塗壁で断熱は入っていません。また、柱との隙間も発生しており、気密性がない状態でした。
天井にはシミが出来ており、雨漏りの跡もありました。床は一部劣化しており、踏むとフワフワしており危険な状態でした。ダイニングキッチンの床は一段下がり廊下との段差は140㎜ありました。
壁 土塗壁、一部プリント合板張り。壁に断熱材なし |
床 畳敷き、クッションフロア、縁甲板 |
天井 天井に雨染み跡あり。ラミネート天井合板、一部化粧合板 |
廊下 廊下との段差は140㎜ |
【 小屋裏・床下 】
小屋裏、床下ともに断熱材はない状況でした。小屋裏はしっかりとした構造材も使われており、躯体自体は劣化はしていませんでした。既存の基礎は図面より鉄筋コンクリート造であることは確認しました。ただし、ひび割れ等している所もあり、補修が必要であると判断しました。土台については聞き取りにより、定期的に防蟻工事はされていることを確認し、劣化している部分も確認はできませんでした。ただし、盛土のため何らかの湿気対策は必要と判断しました。
小屋裏 躯体に劣化等なし |
小屋裏 断熱材なし |
床下 床下は盛土、床下換気扇あり。防蟻工事は定期的に施工されている |
床下 基礎に一部ヒビあり、ただし鉄筋コンクリート造を確認 |
改修計画
こちらは改修前のレーダーチャートです。改修にあたり、方針を決めていきました。
まず耐久性は、土壁に焼き杉板張りで通気性のない壁になっていることから、通気層を設け耐久性の良いサイディングを使用することにしました。屋根はセメント瓦から、防災性に優れた石州防災瓦を採用しました。湿気対策として、床下に防湿コンクリートを打設したかったのですが、道が狭く小運搬により費用が上がることから防湿フィルムを施工することにより対策しました。
耐震性については、絶対的に足りてない耐力壁を確保し、上部構造評点を 1.0以上 とし、既存の基礎のヒビ割れ等の補修を行うこととしました。
温熱・省エネ性は、「高齢の父親のために断熱性能を上げたい」という施主様の考えのもと、北海道補助金を利用し、断熱材とサッシの変更をすることで性能を向上させます。
防災、安全性は、視認性の良い位置への玄関の移動を検討しました。
ガスコンロからIHクッキングヒーターへ変更、煙感知器を設置します。また、ダイニングキッチン床の大きな段差や各部屋の段差解消も行うことにしました。
改修プラン
既存建物は4号建築のため大規模修繕の適用なしの確認を役所と行い、ご依頼者様と打ち合わせを重ね、配置を計画しました。
平屋建て141.65㎡と床面積が広く、予算の都合もあるため減築と改修しない範囲を定めました。
視認性・防犯性の向上・廊下を短くするため、玄関の位置を変更しました。
また、柱は極力残し間仕切りを一部変更し、中廊下へも通風、採光を取り入れるため、部屋を一部減築しウッドデッキとしました。
お風呂トイレはお父様の部屋とご依頼主の部屋共に近い位置へを一つにまとめました。
リビングには将来薪ストーブを設置できるスペースを確保する計画としました。
建物の性能向上
■耐震性能の向上
・構造計画を見直し、耐力壁は構造用合板 t=9㎜ 片面張りと筋違金物とN値金物を新設
・内壁はバランスを考慮し、45×90 筋違を新設
・既存の筋違 30×90 に筋違金物を設置
・既存基礎ひび割れは、エポキシボンド注入により補修
・新設の外壁と耐力壁の下に基礎を新設し、既存基礎と連結
解体後の内部 解体後の構造材を確認 |
解体後の内部 既存柱の劣化部分は交換 |
基礎の新設 耐力壁下部に基礎を新設 |
既存基礎の補修 ひび割れ箇所にエポキシボンド注入 |
金物補強 筋違金物とN値金物を新設 既存筋違にも筋違金物を設置 |
金物補強 筋違金物(和室) |
構造補強 内部はバランスを考慮し 40×90の筋違を新設 |
構造補強 外壁下地に構造用合板 t=9㎜ 片面張り |
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■温熱性・省エネ性能の向上
壁にはネオマ断熱ボードを採用し、施工性も考慮しつつ、断熱性能の向上に努めました。
床は根太間へ30㎜と50㎜のミラフォームを合わせ、80㎜とし施工しました。
天井には100㎜の高性能グラスウール24Kを2重に設置しました。
浴室はTOTOの断熱材パックを採用し保温性を高めました。
サッシは複合樹脂アルミサッシLow-eペアガラスを採用しました。
床、天井、サッシは北海道補助金を利用しました。
ユニットバスとウッドデッキは宇部市補助金を利用しました。
照明は全てLEDへ変更しました。
天井断熱
ピンク:高性能グラスウール K24 t=100×2 |
床断熱
緑:ミラフォーム t=80 |
壁断熱
青枠:ネオマ断熱ボード t=25 + t=9.5(PB) |
開口部断熱
▶サッシ:複合樹脂Low-e ペアガラス |
施工写真 天井:断熱材施工 |
施工写真床:断熱材施工 | 施工写真開口部:断熱建具施工 |
■耐久性能の向上
点検口を配置(小屋裏は押入より、床下は和室より点検可能) |
屋根はセメント瓦から、石州防災瓦に 〇〇 外壁は防火サイディングに 〇〇 合併浄化槽の新設(宇部市補助金を利用) |
〜 耐久性について 〜
屋根はセメント瓦でお父様が塗装などメンテナンスをされていたため、石州防災瓦に変更しました。
外壁は元々焼き杉板でこちらもお父様が5年に一度 塗装をされていたのですが今後の維持管理を考慮し、通気工法のサイディングを採用しました。
天井裏はクローゼットの中に点検口を設け、点検できるようにしました。床下には未改修の和室から入る計画としました。
床下の湿気対策は、防湿フィルムを敷き、既存の換気扇を流用しました。地盤は土壌処理をし、躯体のGLから1メートルまでの防蟻処理をしました。
下水道は無く、宇部市の補助金制度を利用して合併浄化槽を新設しました。
■バリアフリー 性・火災時の安全性
安全性の確保:災害時・火災時の避難経路を考える |
視認性の良い玄関となった 〇〇 カスコンロからIHクッキングヒータに変更 〇〇 段差を無くしトイレ入口は車椅子の回転スペースを確保 |
〜 火災時の安全性、バリアフリー性 〜
外壁は防火サイディングとしました。ガスコンロはIHクッキングヒーターへ変更しました。
内装は準不燃材料を採用し、寝室、廊下には煙感知器を設置しました。
将来的に車いすを利用する可能性を考慮して、トイレ前に回転スペースを設けました。トイレも長辺を開放できる引戸を採用し、広さを確保しました。
各部屋にあった最大140㎜の段差は既存和室以外は全てバリアフリー化しました。
避難の安全性を考え玄関位置を変更しました。
改修前後の性能を比較
Before ■ |
After ■ |
改修前後のレーダーチャートです。耐久性は78から132、耐震性は50から150へとしっかり向上しました。
温熱性に関しては、Q*値は改修前の12.7W/㎡Kから4.68W/㎡Kに向上し順寒冷地の基準をクリア (UA値は4.09W/㎡Kから1.09W/㎡Kに向上) 補助金を利用しながら しっかりと温熱性能を向上させることができました。予算内で各性能を向上させることができたと思います。
改修前後の写真
Before
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After
道路に沿って手作りで設置されていた差し掛け(小屋)を撤去し、換気しやすい環境となりました。
Before
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After
改修前と改修後の玄関の様子です。改修前は道路から見えない場所に玄関がありましたが、視認しやすくなりました。
Before
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After
薄暗かった空間は明るい玄関になりました。廊下の段差140㎜も解消しました。
Before
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After
和室を撤去し減築することにより出来た半屋外のウッドデッキは、観葉植物や趣味のものが置けるユーティリティ空間になりました。
Before
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After
薄暗かった部屋は、趣味を生かせる落ち着ける場所になりました。
Before
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After
ダイニングキッチンと居室をつなげLDKとしました。薪ストーブの設置場所をつくり薄暗かった部屋は明るく広い空間になりました。
Before
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After
浴室と洗面は、差し掛け(小屋)を撤去し、しっかりと通風と採光が取れました。
浴室は在来浴室からユニットバスへ変更し断熱性が格段に向上しました。
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リノベーション工事を振り返って
親子2世帯が ” 寒さ・暑さもなく快適に安全に過ごせる住宅 ” を希望された。
部屋割りを考えながら、既存構造を有効利用し耐震性を上げる。その中で施主様と意見交換を繰り返していった。
最大の問題は融資であったが、新築同様にリノベーションすることで 銀行から 新築同様の融資を受けることができた。補助金もすべて利用し建築費の一部を捻出した。また、父親名義の土地建物を生前贈与の範囲で考えて施主様の名義に変更できた。
施主様の思いがすべて叶えられたことはないかもしれないが、竣工をむかえて施主様から感謝の言葉を頂けた。
既存を流用しながら計画を練ったが予算的に、外壁仕上げ材・外構にまで及ばなかったが、内部空間は良いものができ ひとまず落ち着けたことは幸いです。
その後、施主様のお姉さま宅のリノベーションにつながり、無事竣工しました。
これからも施主様の夢を叶える「夢の家」を作り続けていきます。
さくら設計株式会社 古松 洋一 ©FurumatsuYoichi , jutakui
No,148 維持管理を簡単に性能向上改修 ~築41年の木造平屋建リノベーション
LINK
さくら設計株式会社 https://sakura-architectural.com/