№0089〜大阪府「畷のいえ」改修工事
報告者:Ms建築設計事務所 酒谷明日香/住宅医
■改修概要
設計者:Ms建築設計事務所 三澤文子 担当:酒谷明日香
構造設計:TE-DOK(河本和義・星合健太郎)
施工会社:木又工務店
主用途:一戸建ての住宅
規模:木造平屋建て(基準法上は2階建て)
敷地面積:830㎡ (251坪)
改修部建築面積:131.79㎡ (39.87坪)
改修部延床面積:191.19㎡ (57.89坪)
工期:2018年9月~2019年5月
■建築地の気候風土
省エネ地域区分は6地域(温暖地)で、年間日射地域係数はA4区分で日射量が多い地域です。
■改修に至った経緯
ご家族構成:70代ご夫婦の2人家族。娘2人は独立してそれぞれ家庭を持っています。
将来、車いすの生活になったときに対応できるように段差の無い住まいとし、娘家族も同居することができるようにしたいとお考えでした。当初は新築にするか改修にするか迷っておられましたが、新築の場合は、現在道路境界線までいっぱいに建っている家や、同じ敷地内の蔵をセットバックで減築しなければならず、改修をお勧めしました。
■既存建物
築推定180年の藁葺き又首(さす)構造平屋建ての建物。北側は過去に増築した離れに繋がります。
■既存建物調査
屋根:金属屋根の塗装剥離、全体的なうねり(波打ち)を確認した。
床下:基礎は石場建て。大引きに5カ所の蟻害を確認した。
小屋裏:合掌部分が3本折れているのを確認した。ヒアリングにより、過去の台風時に折れていたことが分かった。接合部は藁縄で結ばれているが、複数個所、経年劣化により縄が切れていた。
内部:和室(1)の天井板めくれを確認した。上部屋根が谷で複雑になっている部分で、周囲の床は傾いていた為、雨の進入があると考えた。
■改修建物
・2階部分は既存の梁と新規集成材梁(梁せい270~300)を995mm間隔でボルトにより緊結する。
・改修範囲の基礎は全てべた基礎を新設した。柱は柱脚を切断してコラムをサポートにして固定する。柱に土台を接合して、土台は鋼製束で支える。アンカーボルト、ホールダウン金物は土台に設置しておく。
立ち上がりコンクリートは、基礎幅を200mmとし、土台と型枠の隙間65mmからコンクリートを流せるようにした。
■ご要望
・駐車場から室内まで段差なくアプローチができる。
⇒改修前から北側の勝手口をメインの入口として使っておられたので、北側のアプローチの段差を全て解消し、駐車場から車いすのまま室内に入ることが可能となりました。
・2階を居室として、2世帯でも住めるようにしてほしい。
⇒小屋は合掌材が数本折れており、虫害も複数見られたことから、2階部分は全て解体して、新築同様に作り直すこととしました。元々は小屋裏とはいえ、天井高さは1.4m以上あり、簡易的な階段も設置されていた為、建築法上では2階でしたので、「増築」には当たりません。
・キッチンと茶の間(食事室)を近くしたい。
⇒当初のキッチンはパントリー(収納)として、キッチン を西側へ移動 しました。
・奥さんの趣味の絵と、道具置き場が欲しい。
・トイレを設置してほしい。(現在離れにトイレがある。)
⇒広縁の一部にトイレを設置。トイレの壁は耐力壁として、併せて 耐震性も向上しました。
■劣化対策(維持管理)
・床下点検口、天井点検口を必要箇所に設置。
床下点検口の穴を空けることで、床上・床下の空気を一体にして、 床下に湿気が溜まらないようにしています。
・外壁通気
・屋根通気
雨漏れの原因となっている北側下屋の屋根の谷を無くし、屋根形状 を整理しました。
■耐震性能
・構造評点
1階で2階の荷重がかかる部分には、柱を追加しました(3カ所)。
外壁廻りの土壁は残して、南北の壁は外側から構造用合板を張っています。東西の壁は隣地境界いっぱいに建っていた為、内側に120角の柱を建てて、構造用合板を張り耐力壁としました。 内部は柱・梁以外全て解体した為、構造用合板の大壁仕様/真壁仕様を使い分けて耐力壁を配置しています。
■断熱性
・漏気を考慮して、Q値は2.12 W/㎡K。
・気密測定を実施した結果、C値が8.3 c㎡/㎡であった。基礎上の気密パッキンが効いていないこと、外壁~下屋部分の気密処理が曖昧であったこと、外壁の土壁を残している為、外壁とサッシ等の取り合い部分に隙間が生じていること等が考えられる。
壁:PFB(パーフェクトバリア)120 mm柱間充填、フェノバノード50 mm(外断熱)
屋根:フェノバボード120mm
天井:PFB(パーフェクトバリア)200 mm
サッシ:樹脂複合アルミサッシ
■省エネ
・給湯器:エネルギー消費量の多い電気温水器からガス給湯器に変更。
・暖房:主な暖房機器をガスファンヒーターからエアコンに変更。
・電球は蛍光灯からLED電球に変更。
■バリアフリー性
・段差のない勝手口(外部から車いすでアプローチ可能)
■火災時の安全性 【法22条地域】
・延焼の恐れのある外壁は防火構造、屋根は不燃材(ガルバリウム鋼板)葺き。
・コンロ付近の天井・壁は不燃材(プラスターボードの上EP塗装)。
・キッチン、居室には火災警報器を設置 。
■性能診断結果概要
■完成
撮影:畑拓
■総括
外観は以前のプロポーションを大きく変えず、2階部分を新築して、2世帯住まいが可能となりました。アトリエやトイレの増設など、要望に応えながら、耐震性・断熱性をはじめ、六つの性能をバランスよく向上できたと思います。
バリアフリー性能については、室内、室外ともに段差だらけでしたが、駐車場から室内に至るまでの段差を解消し、内部の段差もほぼ無くすころが出来ました。コストダウンの為、出来る限り既存建具を再利用しましたが、既存建具の幅に合わせて壁位置を決定した部分が有効幅650 mmであり、新規建具で有効幅750 mm以上を確保するべきであったと反省しています。
気密性能については、C値8.3 c㎡/㎡で、改善の余地があると感じました。「改修工事だから」と割り切らずに、今後は改修時C値5.0 c㎡/㎡以内を目指したいと思います。