投稿日:2019年03月08日

住宅医の改修事例報告 85例目


熊本県「球磨の家」改修工事 

報告者: 新産住拓株式会社 桝本侑加/住宅医

■改修概要
設計者:新産住拓株式会社 桝本侑加
報 告:新産住拓株式会社 桝本侑加
所在地:熊本県球磨郡
主用途:一戸建ての住宅
築年数:築30年(平成1年新築)
規 模:木造2階建/在来軸組工法
敷地面積:1118.38㎡[338.31坪]
延床面積:280.89㎡[84.96坪]
着 工:2017年11月
竣 工:2018年3月

■建築地の気候風土
「球磨の家」は熊本県の南東端に位置し、周囲を山地に囲まれた低く平らな地形(盆地)にあります。
盆地特有の気候で日中と夜間、夏と冬に温度差があり、湿度が高く、特に秋から冬にかけて霧の発生が多い地域となります。

■概要および改修に至った経緯
ご両親からお住まいを譲り受け、住み継ぐことがきっかけとなり計画がスタートしました。
新たに生活されるご家族のライフスタイルに合わせた間取りや断熱性・耐震性の向上を含め改修プランの検討を行いました。
また、隣地の建物との関係でプライバシー性の向上も必要とされる改修となりました。

■建物調査
建築時当初の図面と現地確認のため、2017年6月に住宅医2名を含む計5名(弊社社員)にて調査を行いました。

現調写真

〈劣化対策〉
小屋裏には著しい雨漏れ跡などはなく、構造材に腐食がない健全な状態でした。
また、床下空間も布基礎で湿気対策が施されており、蟻道や構造材の腐食がないことも確認いたしました。
〈耐震性〉
布基礎の上に木造2階建て、屋根は陶器瓦で重い建物となります。
既存図を基に一般診断法を用いて構造計算を行った結果、上部構造評点が0.43となり倒壊する危険性が高いとの判定となりました。
南側の2階隅柱は通し柱ではなく、支えの柱も入っていなかったこともあり、2階は南東側に約6.1/1000の傾きがありました。

既存各階平面図

〈温熱・省エネルギー性〉
新築当初から床・壁・天井に断熱材が施されている建物で
UA値1.58W/㎡K(外気温2.8℃の時、自然室温4.3℃の目安温度)であったが、
H28年省エネ基準値に比べると断熱性能の向上が必要な建物だとわかりました。

・床、天井断熱:押出法ポリスチレンフォーム保温板Ⅰ種厚さ25mm
・壁断熱:外張り断熱(押出法ポリスチレンフォーム保温板Ⅰ種厚さ25mm)
・サッシ:金属製建具、単板ガラス
・玄関:木製建具

〈バリアフリー性〉
建物内部の段差は各居室間ですべて段差がある状態でしたが、廊下幅は全て800㎜以上確保されていました。
ご両親が住まれていたこともあり、手すりの設置などバリアフリー対策がしっかりと施されているお住まいでした。
階段は手すりを設けられていましたが、直階段だったため小さなお子さんが足を踏み外した場合に下まで転落してしまう危険性がありました。

〈火災時の安全性〉
防火地域の指定はなく、法22条地域外でした。
現状では住宅用火災警報器は未設置の状態で、キッチンのコンロ前はタイル張り、壁・天井はプラスターボード下地となっておりました。

〈6つのものさし・現状〉
調査結果を基に6つのものさしで評価すると、耐震性と断熱性の数値が比較的低いことがわかりました。

■改修計画
診断結果やご要望の住まい方を考慮し、改修する上で大きく4つの項目をメインに検討いたしました。

①プライバシーの確保
 →改修前は南側の駐車場からのアプローチを利用されていました。
  隣地のビルや駐車場の人通りが多いので、プライバシー性を高めるためにメインのアプローチを東側の庭へ変更しました。
  既存玄関は今まで通りお客様用として利用し、普段使いのファミリー玄関をメインアプローチ側に新設しました。

②大規模な梁の掛け替え
 →2階の傾きの改善と、広くて明るいLDKを目指しました。
  詳細については次項〈耐震性〉にてご説明いたします。
③断熱性能の向上
 →地域特有の昼と夜の温度差や湿気対策を考慮した断熱計画を検討しました。
  詳細については次項〈温熱・省エネルギー性〉にてご説明いたします。
④シンプルな家事動線の提案
 →家事負担軽減の為にキッチン・洗面・脱衣室を一直線に配置し複雑な空間構成にならないように配慮しました。

家事動線の工夫

■改修後の性能向上
〈劣化対策〉
基礎のひび割れの補修を行い、床下は防蟻処理散布を行いました。
軒先からの雨水侵入を防ぐために面戸板を新しく設け、劣化防止に努めました。
床下や小屋裏空間を容易に点検できるように点検口の新設しております。
〈耐震性〉
1階・2階の耐力壁のバランスを考え筋交いや構造用合板を配置し、上部構造評点1.2を確保しました。
また、2階の傾きを許容範囲内にするために補強の柱を新しく設けました。
同時に既存の柱を抜くために1階小屋梁の組み換えも行い、住い手の希望する広がりのあるLDKの空間を実現させました。

資料①:リビング平面図 改修前後

資料②:2階補強の対策と現場写真

〈温熱・省エネルギー性〉
床・壁・天井の断熱材入替、窓の断熱性能向上により熱の損失量を抑えて冬の底冷え対策を行いました。
改修後はUA値1.58W/㎡K→0.53W/㎡Kへと向上させ、外気温が2.8℃の時、自然室温(目安)10.0℃と外気温と比べて温かいお住まいへといたしました。
また、結露計算を行い、内部結露が発生しないことを確認しております。
湿気対策として、一部内装材に調湿効果のあるものを用いました。(無垢材の床・赤土の塗壁)
・床:高性能押出法ポリスチレンフォーム保温板、厚さ50mm
・壁:アクリアネクスト14K(高性能グラスウール16K同等品)厚さ85mm
・天井:グラスウール10K、厚さ100mm二重敷き
・サッシ:樹脂と金属複合材料建具(Low-Eガラス)
・既存利用するサッシ:樹脂製内窓(和紙調単板ガラス)

〈バリアフリー性〉
建物内部の敷居を外し、居室間は全て段差のない構造のものといたしました。
危険性を心配されていた階段は掛け替えを行い、途中で踊り場を設けました。

〈火災時の安全性〉
キッチン・寝室などには住宅用火災報知器を設置いたしました。
キッチンの内装は天井・壁をプラスター下地、クロス仕上げとしております。

〈6つのものさし・改修後〉
耐震性は旧耐震基準から平成12年耐震基準まで性能向上いたしました。
断熱性は昭和55年省エネ基準から断熱等対策等級4へ性能向上させ、快適に過ごせるお住まいへと改修いたしました。

■改修前後の写真

■総括
今回の改修は住い手のライフスタイルに合わせた間取りの変更をメインとした改修となり、
住い手のご希望やこだわりをくみ取りながら、耐震性・断熱性能の向上を行いました。
すべてを新しくするのではなく、本来の趣や思い出の部材を残すことにも積極的に取り組み、
ご家族の思い出と共に住み継ぐことの大切さを改めて感じました。
計画段階から住い手のご夫婦お二人には幾度もお打ち合わせの時間をいただき、
また先輩スタッフのサポートや現場スタッフの協力により無事に完成することができ感謝しております。
そして、改修工事においても着工式・上棟式・お引渡し式を行い、
ご家族皆さんと一緒に節目を大切にしながら工事を進めることができ私にとっても貴重な時間となりました。
改修工事をする際に目に見えない部分でも安心して住んでいただくために、
住宅医スクールで学んだ6つのものさしを判断基準にし今後も知識を深めて実践していきたいです。

新産住拓株式会社 桝本 侑加

投稿日:2018年12月10日

調査事例紹介2018-65 福岡県福岡市


福岡市Dさま邸 既存ドック
報告:熊本茂仁(一社九州ホームインスペクターズ 2016熊本スクール修了生)
物件概要
●所在地:福岡県福岡市中央区
●調査日時:2018/11/21
●構造:在来工法木造平屋建
●延床面積:83.3㎡
●築年数:93年(推定)

福岡市中央区所在、築90年超の木造平屋建て住宅の既存ドック現地調査を行いました。 三代目オーナーとなられた依頼者様より改修して住みたいが、築古なため不安があるというご相談がありました。

リフォームの御要望が、耐震性確保、寒くないこと、バリアフリー等に至りましたので、まずは現状を把握したうえでのプランニングが必要とご提案し、既存ドックを採用いただきました。

2016熊本スクール、本年度の福岡スクールによって九州の住宅医さんやスクール修了生・受講生もある程度の 人数になってきました。今後、九州の住宅医さんや修了生が活動していく中で既存ドックを活用できるようにと、 実地研修会形式で調査を行うこととしました。

調査リーダーは福岡スクール校長の田尻裕樹さんにお願いしました。指導役として村上洋子さん、日野弘一さんをお招きし、スクール修了生・受講生ほか12名、総勢15名での調査となりました。


調査に入る前のミーティング。この後班ごとに調査開始!

①劣化、②設備・採寸、③仕上げ・採寸、④床下、⑤小屋裏の5班各3名編成です。


劣化担当:中嶋さん、巻口さん、熊本

 設備担当:堺さん、白石さん、山之口さん

仕上げ担当:村上さん、横山さん、桝本さん

床下担当:田尻さん、宮木さん、古場さん 

小屋裏担当:日野さん、中嶋さん、渡邊さん

既存ドックの調査に初めて触れる人がほとんど。みなさんせっかくの機会をものにしようと熱心に作業されていました。

調査の結果は、福岡スクールを中心になって運営されています森章郎さんが担当し、リフォームのプランニングもそのまま 担当いただく予定です。
キモは全体的に進んでいる劣化と雨漏り、そして谷側への傾斜が一部強めに出ている点でしょうか。 とりあえず調査結果と撮影した画像はグーグルドライブで共有し、参加者間で閲覧できるようにしています。この物件が 今後どうなっていくかもみなさんで見守っていただければよいかと思います。

以上

投稿日:2018年10月02日

事例報告(改修事例)2018-83


「墨田の家2」改修事例報告

 

■ 改修概要
設計者・報告者:伊澤計画 伊澤淳子
所在地:墨田区墨田(近隣商業地域・準防火)
用途:一戸建ての住宅
築年数:1964年(築64年工事が終った去年から考えると63年)
前面道路:二項道路
規模:木造二階建て
敷地面積:71.96㎡(23.28坪)
建築面積:43.27㎡(13.08坪)
延べ床面積:86.54㎡(26.16坪)
着工:2016年10月中旬
竣工:2017年2月末

家族構成:クライアント65歳(障碍者認定3級)、30代子供夫婦、孫。計4名
改修内容:耐震改修、断熱改修、防火改修、間取り変更、内外装や設備の更新等全面改修

 

■ ご相談〜竣工までのスケジュール

 

2015年12月相談を受ける。
・ クライアントは足を煩い、階段の上り下りが難しくなった。 そのためダイニングにベットを置いて、プライバシーのない生活している。それを改善するとともに、将来車椅子の生活を想定した改修をしたい。
・ 古い建物で、断熱性能が無い。
・ 地震に強くして欲しい。
・ 家の中が暗い。
・ 建て替えると家が小さくなってしまう。

○2016年1月耐震診断契約
・ 5名で調査を行う。
・ 診断結果説明、補強計画案提示。
・ 新築と改修それぞれについて比較検討。
・ 改修基本プランを提示。→改修を選択
○2016年2月設計監理契約
改修の実施設計を始める。
○2016年10月中旬着工
○2017年3月工事完了

■改修前写真

  

▲改修前外観

 

▲南側庭                  ▲1階ダイニング

 

▲階段                   ▲2階寝室

▲2階和室

 

■調査写真
(外部)

    
▲外壁:ラスモルタル仕上部分に大きなクラック   ▲クラック巾0.7㎜程度

▲ 外壁錆

(内部)

 

▲1階床下                 ▲浴室入り口部:土台腐食部分

 

 

▲浴室:タイル割れ             ▲鉄筋探査

 

 

▲2階床下                 ▲小屋裏

 

▲含水率測定

 

■調査結果

○劣化診断

1.外部
・ 外壁はトタン張りで、全面に錆が進行しており、下端には欠損がみられる。モルタル部分にもクラックが多数見られ、過去の内部雨漏りとあわせると、壁下地が腐食、クラックが出来たものと思われます。
・ 増築部外周一部CB基礎のところあり。

2.内部
・ 倉庫の壁仕上に雨漏り跡あり。
・ 浴室タイルの割れは土台が腐っている事が原因。基礎はCB
・ 脱衣部床の蟻害による劣化の補修跡
・ 2階北側の雨漏り跡がある。
・ 階段部分のクロスの剥がれ。
・ 小屋裏は金物、筋交い、火打梁なし。隙間がみられ、断熱材なし。

○耐震診断(一般診断)

・ 1階X方向が一番弱く評点は0.43
・ 偏心率は大きくない(最大で0.057)
・ 劣化度が高く×0.7となる。
・ 接合部は釘打、ほぞ差し
・ 筋交い、火打梁無し。
・ 壁の耐力が弱い。
・ 基礎鉄筋なし

○省エネルギー

• 床:1,2階一部:発砲スチロールt30
• 窓は単板ガラス、ガラスには梱包材が張ってある。
• 開口部:アルミサッシ単板ガラス+大きな窓には梱包材張り
• 小屋裏、外壁には断熱材が入っていない。
• UA値:2.96W/㎡K>0.87W/㎡K
• Q値:10.52W/㎡K
• 一次消費エネルギー:77.92GJ

○バリアフリー性

• ダイニングにベットが置いてあり、プライバシーが保てていない。
• 浴槽の縁が65cm、湯船につかれない。窓が大きく浴室が寒い。
• トイレや水回りの入り口はドア。
• 倉庫から玄関の段差は275mm

○火災時の安全性

• 屋根:ガルバリウム横葺き
• 外壁:波板鋼板一部ラスモルタル。
• アルミサッシではあるが、網入りガラスの所がない。
• 排気口に防火ダンパーがついていない。
• 住宅用火災報知器がついていない。
• 壁仕上、下地に合板を使っているところが多い。

 

■ ご提案

• クライアントの寝室の近くに水回りを配置
• 将来介助スペースとして洗面所とトイレの壁をとりはずせるようにした。
• 南側の庭を生かす。(狭いダイニングを少しでも広く見えるようデッキを作る。)
• 1階南側デッキに洗濯物を干せるように(クライアントの家事参加ができるよう)
• 子供部屋は後に分けられるよう。
• なるべく引き戸。
• 階段、欄間から光が入るように。

 

○ 劣化対策改修

• 柱及び間柱の防蟻処理。
• 床下の防湿土間コンクリートの打設。
• 樋の交換、軒天のモルタル部の補修。
• 腐食部の外壁下地、土台、柱の入替。
• 屋根の立ち上がり部を片流れに改修。
• 外壁は金属サイディング、通気工法とする。

 

 

 

○ 耐震性能の向上

• N値計算の上、金物補強。
• 基礎を新設あるいは一部補強。
• 筋交い、一部構造用合板で耐震壁を新設。
• 1階X方向1.433 Y方向1.534。
• 2階X方向2.375 Y方向2.096。

 

 

 

▲壁:筋交い90×45設置     ▲火打梁設置

 

 

▲土間打設状況               ▲基礎補強:既存無筋ろうそく基礎→添え基礎

 

 

○断熱改修後

• 壁・2階天井裏:GW24K100㎜(気流止めなし)。
• 床:根太間フクフォーム45㎜。
• 開口部:複層ガラス、金属製樹脂アングルサッシ
• 外壁:金属サイディング張り通気工法。
• UA値:0.73W/㎡K。
• Q値:2.85W/㎡K。
• 省エネについては、照明器具のLED化、採光、通風を意識して窓を配置。
• ダイニングの入り口には引き戸を設けて冷暖房のゾーニングが出来るよう。
• ユニットバスは断熱タイプを採用。

▲壁:通気胴縁20㎜            ▲壁:断熱材施工状況GW24KG100㎜

 

        

▲2階から採光が取れるような階段のつくり   ▲開け放せる高さに窓を設置

▲1階床:根太間断熱材 施工状況 フクホームt45

 

○バリアフリー改修

• 寝室と水回りを近く
• 玄関に折りたたみベンチ設置
• 玄関、廊下、トイレ、浴室に手摺
• 浴室のバリアフリー化(低浴槽、入口フラット)
• デッキに物干設置
• なるべく引き戸

※将来車いす対応を考えて
• 簡易スロープで出入り
• トイレの間仕切り撤去
• 入浴は介護サービス利用予定

 

▲改修前浴室           ▲改修後浴室

 

▲改修前:玄関          ▲改修後:玄関外側

 

▲改修後:玄関内側       ▲改修後:寝室横洗面トイレ

 

○防火改修後

• 外周部壁:金属サイディング+石膏ボードt15+断熱材グラスウール100㎜ (準耐火構造45分)
• 開口部:網入りガラス、あるいはシャッター設置
• 1階天井:強化石膏ボードt15
• 各居室、クローゼット、階段に住宅用火災警報器設置
• コンロまわり不燃仕上(キッチンパネル)
• コンロの排気はスパイラルダクトRW巻、ベントキャップはFD付き。
• 軒天:ケイカルt16

 

■性能診断結果概要

 

• 火災時の性能、耐震性、断熱性に 関しては長期優良住宅レベルを満たす。
• 劣化対策については、南側に向って地盤が高くなっており、基礎の高さが、地盤面から土台下端30cmを確保できないところがあった。
• 地盤の防蟻をしていない。
• バリアフリーに関しては部屋の面積が 収納を除いて4.5畳であり、6畳に満たない。
• また、トイレの入り口がW700であり満たない。
• 省エネルギー性については、数値としては少ない向上であるが 住まい手の体感としてはとても良くなったとのこと。
• 高齢者自立支援、介護保険、防火改修、耐震改修、耐震診断、5つの助成金を利用している。

 

おわりに
今回、自分で改修設計したものを検証するよい機会となりました。
特に省エネルギーの計算については少しハードルが下がりました。
感覚的なものを数字にし、一つの目安として、またそれに振り回される事なく設計に生かして行きたいと思います。
伊澤淳子