投稿日:2019年07月03日

住宅医の改修事例報告 89例目


大阪府「畷のいえ」改修工事

報告者:Ms建築設計事務所 酒谷明日香/住宅医

改修概要
設計者:Ms建築設計事務所 三澤文子 担当:酒谷明日香
構造設計:TE-DOK(河本和義・星合健太郎)
施工会社:木又工務店
主用途:一戸建ての住宅
規模:木造平屋建て(基準法上は2階建て)
敷地面積:830㎡ (251坪)
改修部建築面積:131.79㎡ (39.87坪)
改修部延床面積:191.19㎡ (57.89坪)
工期:2018年9月~2019年5月

建築地の気候風土
省エネ地域区分は6地域(温暖地)で、年間日射地域係数はA4区分で日射量が多い地域です。

改修に至った経緯
ご家族構成:70代ご夫婦の2人家族。娘2人は独立してそれぞれ家庭を持っています。
将来、車いすの生活になったときに対応できるように段差の無い住まいとし、娘家族も同居することができるようにしたいとお考えでした。当初は新築にするか改修にするか迷っておられましたが、新築の場合は、現在道路境界線までいっぱいに建っている家や、同じ敷地内の蔵をセットバックで減築しなければならず、改修をお勧めしました。

既存建物
築推定180年の藁葺き又首(さす)構造平屋建ての建物。北側は過去に増築した離れに繋がります。






既存建物調査

屋根:金属屋根の塗装剥離、全体的なうねり(波打ち)を確認した。

床下:基礎は石場建て。大引きに5カ所の蟻害を確認した。

小屋裏:合掌部分が3本折れているのを確認した。ヒアリングにより、過去の台風時に折れていたことが分かった。接合部は藁縄で結ばれているが、複数個所、経年劣化により縄が切れていた。

内部:和室(1)の天井板めくれを確認した。上部屋根が谷で複雑になっている部分で、周囲の床は傾いていた為、雨の進入があると考えた。

改修建物



・2階部分は既存の梁と新規集成材梁(梁せい270~300)を995mm間隔でボルトにより緊結する。

・改修範囲の基礎は全てべた基礎を新設した。柱は柱脚を切断してコラムをサポートにして固定する。柱に土台を接合して、土台は鋼製束で支える。アンカーボルト、ホールダウン金物は土台に設置しておく。

立ち上がりコンクリートは、基礎幅を200mmとし、土台と型枠の隙間65mmからコンクリートを流せるようにした。

ご要望 

・駐車場から室内まで段差なくアプローチができる。

⇒改修前から北側の勝手口をメインの入口として使っておられたので、北側のアプローチの段差を全て解消し、駐車場から車いすのまま室内に入ることが可能となりました。

・2階を居室として、2世帯でも住めるようにしてほしい。

⇒小屋は合掌材が数本折れており、虫害も複数見られたことから、2階部分は全て解体して、新築同様に作り直すこととしました。元々は小屋裏とはいえ、天井高さは1.4m以上あり、簡易的な階段も設置されていた為、建築法上では2階でしたので、「増築」には当たりません。


撮影:畑拓

・キッチンと茶の間(食事室)を近くしたい。
⇒当初のキッチンはパントリー(収納)として、キッチン を西側へ移動 しました。
・奥さんの趣味の絵と、道具置き場が欲しい。
・トイレを設置してほしい。(現在離れにトイレがある。)

⇒広縁の一部にトイレを設置。トイレの壁は耐力壁として、併せて 耐震性も向上しました。

劣化対策(維持管理)

・床下点検口、天井点検口を必要箇所に設置。
床下点検口の穴を空けることで、床上・床下の空気を一体にして、 床下に湿気が溜まらないようにしています。

・外壁通気

・屋根通気
雨漏れの原因となっている北側下屋の屋根の谷を無くし、屋根形状 を整理しました。

耐震性能

・構造評点

1階で2階の荷重がかかる部分には、柱を追加しました(3カ所)。

外壁廻りの土壁は残して、南北の壁は外側から構造用合板を張っています。東西の壁は隣地境界いっぱいに建っていた為、内側に120角の柱を建てて、構造用合板を張り耐力壁としました。 内部は柱・梁以外全て解体した為、構造用合板の大壁仕様/真壁仕様を使い分けて耐力壁を配置しています。


断熱性

・漏気を考慮して、Q値は2.12 W/㎡K。
・気密測定を実施した結果、C値が8.3 c㎡/㎡であった。基礎上の気密パッキンが効いていないこと、外壁~下屋部分の気密処理が曖昧であったこと、外壁の土壁を残している為、外壁とサッシ等の取り合い部分に隙間が生じていること等が考えられる。

壁:PFB(パーフェクトバリア)120 mm柱間充填、フェノバノード50 mm(外断熱)

屋根:フェノバボード120mm

天井:PFB(パーフェクトバリア)200 mm

サッシ:樹脂複合アルミサッシ

撮影:畑拓

省エネ

・給湯器:エネルギー消費量の多い電気温水器からガス給湯器に変更。

・暖房:主な暖房機器をガスファンヒーターからエアコンに変更。

・電球は蛍光灯からLED電球に変更。

バリアフリー性


撮影:畑拓

・段差のない勝手口(外部から車いすでアプローチ可能)

撮影:畑拓

火災時の安全性  【法22条地域】

・延焼の恐れのある外壁は防火構造、屋根は不燃材(ガルバリウム鋼板)葺き。

・コンロ付近の天井・壁は不燃材(プラスターボードの上EP塗装)。

・キッチン、居室には火災警報器を設置 。

性能診断結果概要

■完成

撮影:畑拓

応接間
キッチン
座敷
茶の間
ホール
玄関土間
フリールーム

■総括

外観は以前のプロポーションを大きく変えず、2階部分を新築して、2世帯住まいが可能となりました。アトリエやトイレの増設など、要望に応えながら、耐震性・断熱性をはじめ、六つの性能をバランスよく向上できたと思います。

バリアフリー性能については、室内、室外ともに段差だらけでしたが、駐車場から室内に至るまでの段差を解消し、内部の段差もほぼ無くすころが出来ました。コストダウンの為、出来る限り既存建具を再利用しましたが、既存建具の幅に合わせて壁位置を決定した部分が有効幅650 mmであり、新規建具で有効幅750 mm以上を確保するべきであったと反省しています。

気密性能については、C値8.3 c㎡/㎡で、改善の余地があると感じました。「改修工事だから」と割り切らずに、今後は改修時C値5.0 c㎡/㎡以内を目指したいと思います。

投稿日:2019年05月24日

住宅医の改修事例報告 88例目


T邸 木造平屋築23年改修工事

報告者:有限会社こころ木造建築研究所  山崎健治/住宅医

改修概要
設計者: 有限会社こころ木造建築研究所  山崎健治
主用途: 一戸建ての住宅
築年数: 改修当時築23年(平成7年新築)
規 模: 木造平屋建て / 在来軸組工法]
延床面積:61.27㎡
改修面積:49.26㎡
工 期: 2017年5月~2017年10月~2018年1月

投稿日:2019年05月07日

住宅医の改修事例報告 87例目


滋賀県「大津の家」2階建てから平屋へ減築改修工事

報告者: 株式会社坂田工務店  市川由美子/住宅医

■改修概要
設計者: 株式会社坂田工務店  市川由美子
報告者: 株式会社坂田工務店  市川由美子
所在地: 滋賀県大津市
主用途: 一戸建ての住宅
築年数: 改修当時築32年(昭和58年新築)
規 模: 木造2階建て(地下室付き)/ 在来軸組工法
敷地面積:240㎡  [72坪]
延床面積:169.68㎡ [51坪]⇒ 113.05㎡[34坪]に減築
          <工事範囲 99.51㎡[30坪]>
工 期: 2015年10月~2016年2月

■建築地の気候風土
比叡山延暦寺や日吉大社の門前町として古くから栄え、現在も 趣きのある街並みを形成している地域です。東に比叡山、西に 琵琶湖、その間の緩やかな傾斜地に位置しており、東西の風の 通りもよい状態です。

■改修に至った経緯
ご家族構成:ご夫婦と20代の息子さんと娘さんの4人家族
息子さんが電車好きということと、広めの敷地が魅力で購入された駅近のお住まいは、道路と敷地の段差が80㎝程度あり、建物は地下室付きの 地上2階建て。
重度の知的障害がある息子さんは段差を極度に苦手とされていることと 奥様のご両親の介護の経験から段差が全くない家にしたいとお考えで 当初は地面を全面削り取って道路からフラットには入れる平屋を新築 したいというご相談でした。
地面を削ると、周囲の家にも不具合をもたらす可能性があることや 土留め擁壁のコストのことなどご説明したところ、2階を撤去する減築 改修工事で進めることとなりました。

■既存建物:台所と浴室が2か所づつある二世帯住宅



・立地が気入って購入されたものの建物には不満が多い。 

■既存建物調査

・木構造は概ね良好と判断しましたが、解体中に基礎が無筋であり、 一部にひび割れもあることが判明しました。
RC造の地下室の配筋図を確認し、現在のコンクリートの状況も 良好であることから、木造部分の基礎も鉄筋コンクリートであると の思い込みがありました。鉄筋探査機などを使い確実に判断すべき だと反省している点です。

■ご要望① 1段も段差のない住まい

道路から一階床高さまで1350mmの段差解消については 施主様と様々検討した結果、省スペースで年老いても 利用可能な昇降機を設置することにしました。

■ご要望② 2台分のゆったりした駐車場が必要

2台分の駐車スペースと昇降機を設置するため、緑豊かな前庭をやむなく撤去しスペースを確保しました。

・軒先を低く抑え、昇降機を板張りの壁で覆うなどし、出来るだけ柔らかい印象になるよう工夫しました。

・また、両隣の緑豊かな外構に続くよう、ささやかながら植栽スペースを用意し、緑化を促しています。

■ご要望③ 大きな声を出すことがあるので隣家からできるだけ離したい

北側に奥行きのあるリビングとし、南面に深い庇と両袖壁に囲われたデッキを配し、光を取り入れながらも少し奥まった感覚で安心感が得られるよう計画しました。

■ ご要望 ④ リビングの横に着替え部屋が必要
■ ご要望 ⑤ 寝室は一人ずつの個室にしたい
■ ご要望 ⑥ 寝室のうち1室はトイレに直接入れるようにしたい

・長い廊下と主寝室・洋室1は天井までの建具と欄間ガラスでつないで閉塞感をなくし、通風・明かりを確保。また、可変性も持たせています。
・ 耐力壁は既存基礎・大梁・火打ちを活かして構成。

■劣化対策(維持管理)

■耐震性能

・解体時に無筋であることが判明した基礎を全面補強することは時間的のも予算的にも難しかったため耐力壁線を中心に差し筋したうえで鉄筋コンクリートを既存基礎に添え打ちすることとしました。

■断熱性能・省エネ性能

建物全体に深い庇をかけ、全ての居室に掃出し窓を設け通風を取っています。

■バリアフリー性

■火災時の安全性

■性能診断結果概要

■完成

■総括

本物件は住宅医スクール受講前の工事で、基礎が無筋であることを調査時に見落としていたり、省エネ性能が基準値クリアした程度でよいと考えていたことは反省すべき点です。 しかしながら、様々なご要望に一つ一つ応えるだけでなく、採光や通風、耐震性、 周囲の景観や将来的な可変性等、設計者として住まい手様が計画中には気づきにくい部分 を織り交ぜてデザインできたのではないかと思います。
膝がいたいとおっしゃる奥様もできるだけ階段を利用して、いつまでもお元気に過ごして いただきたいと思い、玄関ポーチの階段の両側に無垢の木の手すりをつけたところ、 息子さんが自然に階段を利用するようになられたことは設計者としてもうれしい限りです。
3つの寝室を天井までの建具で間仕切り、開いたり閉じたりしやすいようにしたところ、 3部屋が4人の寝室となり、広い個室が今では娘さんの「ヨガ教室」として利用されています。
住宅医スクールで学ぶ改修内容を6つの性能ごとに分析する方法は、様々な視点で建物や 改修内容を確認でき、出来ていることとできていない点がより明確になりました。
今後は、各性能の向上を目指して取り組んでいきたいと思います。