住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト01

住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト01

7/9(土)から、住宅医スクール2016熊本が開講しました。各講義日の第4講義(特別講義)では、主に構造の先生方による熊本地震に関連した講義を毎回行っていく予定です。
講義の内容については、皆様にも共有して頂きたい貴重な情報満載ですので、「住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト」として、各講義の概要についてご報告していきます。
第1回目は、大橋好光先生の講義の概要をお伝えします。(滝口/住宅医協会理事:スクール熊本担当)

熊本地震と木造住宅の耐震性
大橋好光氏/東京都市大学工学部建築学科教授
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熊本地震の特徴
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今回の熊本地震の被害は、RC造では柱の座屈という構造上もっとも致命的な損傷が見られたことや、伝統木造でも在来軸組工法でも倒壊していること、鉄骨系プレハブメーカー住宅でも倒壊が2棟あったことなど、やはり震度7を2回受けるということは、とても厳しいものであった。
断層型地震で、時間と共に震源が移動し、主に断層の西側で被害が大きかったという特徴があげられるが、観測された地震波について。
まずは、地震波(加速度応答スペクトル)と建物被害の関係性について、阪神大震災で観測された2つの波を用いて解説する。
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JR鷹取駅観測データ(JR鷹取NS)は、木造が倒壊するキラーパルスと言われている1~2秒の周期(グラフの横軸)の波が大きく、実験でもこの波を入れると、やわらかい建物は倒壊するが固い建物はいくらやっても倒壊しない。一方、気象庁の公式データ(JMA神戸NS)では、1秒未満の周期の波が大きく、やわらかい建物は倒壊せず固い建物が倒壊するという具合に、地震波の周期の違いによって建物の被害が全く異なることが、阪神大震災後の多くの震動実験から分かっており、これを理解することが重要である。
今回の震源地(益城町)で観測された2つのデータを紹介する。
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1つ目は益城役場で観測されたデータ(宮園)。阪神大震災より地震動(グラフの縦軸)がかなり大きい。前震では1秒未満が、本震では1~2秒の周期(キラーパルス)が大きいことが分かる。前震で建物の周期を弱め、本震で倒壊したのではないかと推測される。
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2つ目は辻の城という公園の中の観測データ(辻の城)。益城町で被害が大きかったのは県道28号より南側だが、辻の城は、被害が比較的小さかった県道28号の北側に位置している。前震、本震の地震波の傾向は宮園に近いが、周期は1秒未満で宮園とはかなり異なっている。
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各々の本震を比較すると、同じ益城町でも、場所によって地震波が異なることがよく分かる。宮園データは色々な所で引用されているが、益城役場内で観測されたデータであるため、RC庁舎の構造性能が入ってしまっている。被害が最も大きかった激震地で本当に受けた地震動は、実際には分かっていないのが現状。
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また、地盤の影響により被害に差が出ていることは間違いないが、震源地付近のボーリングデータを見ても地盤が悪い。地割れが生じているのは地震が増幅しきれなかった証拠であり、地盤の表面では地震動の増幅が大きくなりすぎていると推測される。地盤業界で、実際にどのようなことが起こったのかを突き止め、情報発信してほしい。

木造住宅の倒壊の要因
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木造住宅では筋かいの損傷、特に座屈が多くみられた。接合金物についても外れており、2000年以降の住宅でも10棟弱倒壊しているようである。建築基準法の想定以上の地震であったため壊れた、ということだと思われる。筋かいは圧縮(座屈)で壊れると全く粘りがない。ホールダウンが切れているものもあるが、通常、柱の方が先に破壊するので、これはまだ理由が分からない。
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2000年以降は壁倍率の算出方法が変わり、粘り強さが加わったため、筋かいが正確に評価されていない現状や、建築基準法ぎりぎりでは壁量が足りないという問題も、倒壊の要因になったと考えられる。
構造計算を前提にしている性能表示(等級1)と比較すると、建築基準法の壁量より1.3倍の壁量が必要になる。また、建築基準法ぎりぎりでも、サイディングなどに余力があれば良いが、最近は釘やビスでなく引掛けるだけで余力が出ないため、これも倒壊する要因になったと思われる。
その他、性能表示で考慮されている地域係数、多雪区域の割り増し、部分2階建ての考慮、床面積の取り方など、建築基準法との不整合を早急に解消していく必要がある。

また、地域係数についても、根拠とされているデータ(地震の発生頻度)が古すぎる点や、地域の経済力も考慮されて決められたようなので、現在分かっている活断層のデータや地盤の種類などを考慮して、改良する必要がある。

木造住宅をより強く
大地震時に倒壊しない、中地震時に損傷しない、という建築基準法の要求は時代遅れである。大地震の後でも住み続けられるということが、今の要求ではないだろうか。
・耐力壁を構造用合板とし、所定の釘を7.5~10㎝間隔で打つ~2.0倍×1.8=3.6倍くらいの耐力になる。
・内装下地の石膏ボードは、GN40(又は認定ビス)を7.5~10㎝間隔で打つ~実質的に壁倍率2倍近い耐力壁になる。
これらの構法は壁の絶対量は増えず費用も安い。
また、現代的な木造住宅の重量はRC造よりもはるかに軽く、地震力の絶対値が小さい。木造業界から、「耐震等級4」、「耐震等級5」を提案してはどうか。

質疑応答(抜粋)
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・壁を強くしても引き抜きはさほど大きくならない(今回、ホールダウンが切れた例が出ているが)。まずは壁の耐力強化を優先するのが良い。
・筋かいの評価や建築基準法の壁量など、本当は全て正しい評価でやるべきだが、急に既存不適格を増やすのは得策でないという行政上の問題がある。告示などを変えるためには業界から声をあげることが必要。
・制振も余力としては良いと思うが、それよりも、地盤の悪いところでどのようなことが起こるのか、地盤業界にもっと情報発信してほしい。地震動の違いによって被害がすべて異なるため。

以上