住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト04
10/15(土)、住宅医スクール2016熊本(第4回)開催しました。
今回の第4講義(ゲスト講義)は、「熊本地震の構造的被害③-調査分析報告③」と題して、建築研究所の槌本敬大先生に講義して頂きました。その概要についてご報告します。(滝口/住宅医協会理事:スクール熊本担当)
熊本地震の構造的被害③-調査分析報告③
槌本敬大氏/国立研究開発法人建築研究所 材料研究グループ上席研究員
地震の概要(おさらい)
前震では益城町の限られた範囲で被害が出て、倒壊は35棟と言われている。本震では西原村や南阿蘇村でも大きな被害が出たが、前震で西原村や南阿蘇村でどれだけ被害が出ていたかは分かっていない。
熊本地震は過去に何度も起きている。
研究書籍によると、1625年熊本地震(熊本城石垣損傷)、1723年肥後豊後筑後地震(住宅倒壊980棟)、1889年熊本地震(熊本市で住宅倒壊200棟)、1975年阿蘇山北部地震(住宅倒壊16棟)。
また、想定を超える地震は過去に何度も起きており、今後も想定を超える地震が来ると想定している。今回は余震の回数も多かった。前震は過去の地震波の最大値を超えていないが本震は大きく超えていて、さらに卓越周期が1~2秒にあったため、多くの建物に被害が出た。
本震による被害の拡大
木造住宅の被害は、旧耐震(概して土壁)、新耐震(概してモルタル外壁)、2000年改正後(概してサイディング)の3つに分けて分析されることになるが、旧耐震でも被害が少ないものは何らかの耐震改修がされているのではと想像される。
益城町役場も実際に見に行くと、前震ではほとんど被害が見られなかったが、本震では色々なところに被害が見られた。木造住宅でも前震で損傷し本震で倒壊している家屋が多く見られた。
震度7を2回入力した実験
震度7を2回入力した実験を2005年にやっていた。当時築30年(旧耐震)の全く同じ形状の2棟の実物件を実大実験棟に移築して行われた。1棟はそのまま、もう1棟は耐震補強を施し、耐震補強の意義が実験で明らかにされたものである。
因みに、実験棟の内部という好条件での施工ではあったが1棟の耐震補強費用は110万円で補強している。
評点1.5が推奨値。評点1.0=基準法同等と思ってもらっては困る。スペクトル上は同じ耐力があるような計算になっているが、それを超える地震動は当然来ること、同じスペクトルでも周波数特性が異なれば被害が大きくなること、モルタル外壁もカウントして安全を見ていることが主な理由(モルタル外壁は健全であれば10程度の耐力がでるが、健全でなければ1程度しか耐力が出ないものもある)。
実験では、震度7の1回目では耐震補強(評点1.5)したものは倒壊しなかったが、2回目を入れると倒壊してしまった。今回の震度7(熊本)と実験の震度7(鷹取)では、継続時間や地震派の特徴、エネルギーなどが異なるので、一概に同じことになるとは言えない。
また、別の研究者により、既存の建物と新しい材料で建て直した建物+地盤補強をしたもので、震度7を2回入力した比較実験もやられているが、新しい材料+地盤補強の方は倒壊しなかった。材料の劣化度も耐震性能に大きく影響することが分かる。
本震の体験談と南阿蘇村の被害
前震直後に調査に入り南阿蘇村に宿泊していた。本震は南阿蘇村役場では震度6強が観測されたが、宿泊地からは遠く地盤も異なっていたので、自分が体験したのは震度7ではと思っている。宿泊地付近では阿蘇大橋の崩落や学生宿舎の倒壊など被害も甚大だった。
宿泊施設の部屋で、ソファーに寄りかかって床に座って、座卓で報告書を書きながら眠ってしまっていたら本震が来た。何が起こったか分からなかったが目が覚めたら真っ暗で、家具が散乱し自分も転がり静止するのがやっと。当然歩くこともできず、地震時にシェルターの中に入れというのは無理だと実感した。
停電・断水もしたが、宿泊施設だったので飲食には困らなかったが、アクセスしてきた道路も路盤崩壊していた。
その他南阿蘇村では、地盤の崩壊や建物の傾斜、共同住宅の倒壊、比較的新しい住宅の倒壊なども見られた。
被害の分析結果
比較的新しい建物がこれだけ多く倒壊しているのは、阪神大震災以来だと感じた。応急危険度判定結果を分析すると、倒壊・危険が905棟、著しい変形が266棟。新潟県中越地震と比較しても数が多い。
RCやS造も倒壊している。
南阿蘇村では、黒川地区に2階建て木造アパートが多く7棟が倒壊。多くは接合部が軽微な接合方法であった。
その後の益城町中心部の悉皆調査結果から、木造住宅の倒壊率は、旧耐震28%、新耐震9%、2000年基準2%。前震で倒壊したと考えられる35棟は2000年以前で、新耐震も5棟含まれるが、不十分な接合部や隣接建築物の倒壊等が要因の1つだと推定されている。
2000年以降の倒壊7棟のうち、明らかな地盤の影響、部材の過大重量、接合部不良と原因が特定できたものを除く4棟は、品確法評価方法基準による壁量計算では、近隣の無被害の木造住宅と明確な差は見られなかった。許容応力度計算でも4棟のうち3棟は満足していたと思われる。
このように、現行基準でも倒壊したと思われるのは約1%(320棟のうち3棟)であったため、現状までの分析結果からは、直ちに基準改正の必要はないと判断されている。
Q&A
公開されている委員会の報告書に、「木造住宅に関して消費者に向けてより高い耐震性能を確保するための選択肢を示す際には、住宅性能表示制度の活用が有効と考えられる」と記載があるが、その議論や背景はどうだったのか?
結論が出ていないので今日のまとめでは言わなかったが、等級2でも倒壊や損傷しているものがある。基準法の2倍、3倍、4倍の地震波が来ているので、1.25倍や1.5倍では足りないという投げやりな言い方もできるかもしれないが、もう少し細かい分析をしてから結論を出そうというのが現状。一方で、等級4、等級5を作ればいいという意見もあるが、それはやる気になればすぐできるので、そういう話は出てくるかもしれない。
2000年以前の新耐震のものも多く壊れているので、これらの耐震診断・補強についても進めていく必要がある。
以上
(※資料は槌本先生の講義資料(建築研究所の公開資料)より抜粋)