能登半島地震【現時点で、住宅医が考えるポイント】リレーコラム2024年2月

河本和義住宅医協会理事・住宅医/一級建築士事務所TEDOK代表/岐阜県

このたびの能登半島地震にて被災された地域の皆様、ご家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。
皆様の安全と被災地の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

元日に発生した令和6年能登半島地震は、大規模な揺れ、津波被害、市街地火災等の複合的な災害が発生し、甚大な建物被害やインフラ被害等が確認されているようです。詳しい情報やデータは、今後、調査内容がまとめられると思いますので、現時点で、正確な分析等できませんが、被災地近隣の住宅医の方々から情報を寄せて頂きました。また、被害にあわれた方から相談を受けたが、どうしたらよいと思うかといった相談もありました。それらを基に、あくまで現時点での私の個人的な見解となってしまいますが、今回の地震において、住宅医として、改めて考えるポイントが、3つあると思いました。

① 地盤の変状
② 建物の損傷・倒壊
③ 余震

地盤の変状

液状化や地盤の隆起・沈下などですが、新築では、市町村のハザードマップや地盤調査を基に液状化判定等行い、液状化の可能性が高い場合には地盤補強を行うといったことが行われていると思います。しかし、住宅医が扱う既存住宅の改修(今後、今回の地震で被害を受けた建物の相談、今回の地震を機に住宅の耐震補強を考える方からの相談など含め)においては、地盤補強を行うことは難しいと言えます。その場合の回答として、正直なところ、私自身もこれだというものがありません。今回被害にあった建物では、基礎は健全(損傷を受けていない)だが建物が傾いているものと、基礎が脆弱で損傷しているものが見られたとお聞きしました。前者の場合は、ジャッキアップ等によって傾きを直す対応になると思われますが、後者の場合はどう対応するのがよいのか今後考えていかないといけないと思っています。ほぼ液状化を防ぐことができないと考えると、液状化が起き、建物が傾いた際にジャッキアップ、アンダーピーニング、グラウト注入等により傾きを修正できるような基礎にしておく(基礎補強しておく)しかないのかと思います。調査に行かれた住宅医の方から、柱状改良等していた住宅は液状化の被害はほとんど見られないようだとのことでした。また、表層改良したと思われる住宅については、被害があるものとないものがあったとのことです。また、玄関ポーチや外部に設置されていた設備等の基礎下は、地盤補強をしていないため、その部分だけ大きく被害を受けているものもあったとのことでした。
地盤の隆起・沈下等の変状においても、基礎がしっかりしていれば、多少の地盤の変状に対しても基礎が崩壊し、建物自身が倒壊することはないと思います。反対に基礎が脆弱であれば、地盤の変状とともに、基礎が崩壊し、建物に大きな被害が出ることが想定されます。地盤の変状を予測することは難しいと思われますので、そういった点からも、理想論にはなりますが、基礎は一体性をもつ強固な基礎としておくほかないのかと思います。
耐震補強において、基礎補強まで行うことは、非常にコストがかかるため、基礎補強まで行えないことも実情としてあると思いますが、上記から、出来うる限り基礎を補強しておくことが重要だと改めて感じました。

建物の損傷・倒壊

今回の地震によって、多くの木造建物が倒壊しました。新聞では、この震災で亡くなられた方の 9割近くが、建物の倒壊によるものと載っていました。住宅医の方々から寄せられた情報や新聞等からも、今回倒壊した建物の多くは、新耐震前のものが多く、新耐震のもの( 2000年の法改正以前 )も多く倒壊したという情報があります。多くは、1階の壁量の不足が原因と思われますが、壁のバランスが悪かったためにねじれるように 1階が崩壊している建物もあったように思います。現時点での情報としては、2000年以降に建てられた住宅は被害が少ないと聞いています。そのことからも、壁量、壁のバランス、接合部が重要であり、現基準を満たすことがまずベースになるのだと感じました。阪神大震災でもそうでしたが、倒壊した建物の下敷きとなり亡くなられた方が数多くいらっしゃいました。倒壊しかけたとしても、生存空間を少しでも残す可能性を上げるには、やはり、接合部が外れないことだと思います。そのことからも、少なからず接合部補強は行うべきだと改めて感じました。
現行の基準を改めて確認すると、建築基準法において、「中地震では損傷しない、大地震では倒壊しない」ことが前提となっています。その点から、2000年以降に建てられた木造住宅は、その通りの結果になったのだと思いますので、改修においても、新築同等の現行基準の耐震性能を確保することが重要であると改めて感じます。

余震について

余震についてですが、本震後、時間の経過とともに、余震の大きさ、数とも、減少していっていると思いますが、この余震により繰り返し建物は地震力(水平力)を受けるため、それによるダメージについて、少し触れさせて頂きたいと思います。前述のように、建築基準法においては、「中地震では損傷しない、大地震では倒壊しない」性能が担保されています。よって、現行の建築基準法を守っている建物であれば、何度かの中地震については、大きな損傷もなく繰り返しの地震に対しても大丈夫と言えます。一方、大地震においては、1度の大地震を受けることより倒壊はしないが、その後の繰り返しの地震で倒壊しないとは言えません。これらを説明するのに、耐力壁の試験方法、評価を例にしたいと思います。
在来軸組工法における耐力壁は、実験によりその性能が評価され、その数値を基に構造設計や壁量計算を行います。図1 のように、試験体(耐力壁)を試験装置に設置し、梁を加力することにより、その力(荷重:地震力をイメージしてください)と変形量で評価します。

図1 耐力壁の試験方法(資料:TEDOK

試験体への加力は、梁の変形量で制御して、1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50rad を正負 3回づつ繰り返しながら、徐々に大きな変形を与えていきます。イメージとしては、何度か揺れる地震と考えるとよいです。そして、最終的には、どんどん梁を水平移動させて、最大の荷重に達し、その最大の荷重の 80%まで落ちたところまでがこの試験体の構造性能として評価されます。

※1/100rad = 梁の変形量/試験体の高さで、階高が3mとすると、1/100radでおおよそ30㎜梁が水平に移動(30㎜柱が傾く)ことになります。

図2 荷重 ― 変形関係と完全弾塑性評価(資料:TEDOK

このような試験により荷重と変形の関係が 図2のように得られます。この得られた荷重と変形の関係(黒線)から、赤線に評価します。この赤線は、完全弾塑性評価と言って、2つの直線(勾配を持った直線と水平な直線)となります。
勾配部分は 弾性域  といって、バネでいうと、バネの両端を引っ張って手を離すと 元に戻る領域 を指します。
水平部分は 塑性域 といって、バネでいうと、バネの両端を一定の力で引っ張っていくとどんどん伸びていく領域になり、この領域になると力を除いても 元に戻ることはありません。また、水平部分の最後まで伸び切ると力を失う(バネでいうとバネが切れる)ことになります。
これと建物に入力される地震力を照らし合わせると中地震ではこの弾性域にいるため、何度揺すられても元に戻り、かつ、ダメージがほとんどない状態です。一方、大地震では、塑性域まで変形が進むため、建物が傾いて元に戻ることはありません。
今回の地震においても、地域によって、大地震の地域、中地震の地域に大別されます。それに加えて、建築基準法ギリギリであった建物については、上記の状況にあると言えます。
一方で、建築基準法よりも十分に余裕を持った建物であれば、大地震の地域であっても、 上述の 弾性域  に留まった建物もあると思います。建物すべてに計器が設置されているわけではないので、正直なところ、1つ1つの建物にどのくらいの地震力が入力され、どの程度変形したかは正確にはわかりませんが、損傷の具合から推測することになると思います。1度目の大きな地震を受けた状態から、その後、余震を受けることになりますので、建物がどの状態にあるかは推測しなければなりません。 大きな目安としては、1/120rad(階高3mとすると、3000/120=25㎜)までの変形に留まっている建物は、弾性域に留まっていると言え、余震に対しても大きな損傷を受けることはないと考えられます。
反対に、弾性域を超え、塑性域まで達した建物は、小さな余震でも建物が大きく揺れることが想定されます。塑性域の最端は、変形性能の高い耐力壁で1/15rad(階高3mとすると、3000/15=200㎜)、 変形性能がやや低い耐力壁で1/30rad(階高3mとすると、3000/30=100㎜)くらいが目安かと思います。よって、塑性域の最端に近いところまで変形した建物は、建物にほとんど余力がなく、小さな余震でも倒壊する可能性があると言えます。また、そういった建物については、補強は必須であると言えます。耐力壁試験の観点から考えると上記のようなことを推測できますので、被害を受け建物の改修方法等の判断材料のひとつにして頂ければと思います。

河本和義
©Komoto Kazuyoshi, jutakui


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