住宅医の改修事例No.0131 空き家の利活用と建物調査~住宅医の調査から提案・改修まで
中島 昭之 ( 住宅医 / 一般社団法人インク 代表理事 / 岐阜県 )
建物概要
|地域に残る旧家の空き家|
地域の有力者の家が空き家になり、岐阜県美濃加茂市に寄付された。美濃加茂市より、敷地内の建物の図面化と劣化調査、耐震診断の依頼があった。
敷地概要
|敷地図と建物写真|
敷地は広く、中央に母屋、蔵①②、浴室、便所がある。今回は西側の蔵① の利活用が決まり、改修と耐震補強を行う為の調査を行う。
| 蔵① 建物図面と写真 |
木造2階建て 87.13㎡
蔵① 外部(外観) | 蔵① 外部(外観) |
蔵①の軒下空間 | 蔵① 配置 |
蔵① 内部 | 蔵① 内部 |
![]() 物置② |
![]() 物置③(2階) |
建物の劣化状況
主な劣化箇所:外部(南、東)
・下屋雨漏れ
・外壁漆喰剝離
・雨漏れによる軒裏等の土壁落ち
・柱脚の腐朽
調査写真:外部(南、東) | 外部:劣化写真 |
![]() 雨漏れによる軒先漆喰の劣化 |
![]() 軒先の劣化 |
![]() 柱脚の腐朽 |
![]() 漆喰の剥離 |
主な劣化箇所:外部(北、西)
・外壁漆喰剝離
・雨漏れによる軒裏等の土壁落ち
・柱脚の腐朽
調査写真:外部(北、西) | 調査写真:外部(北、西) |
![]() 軒裏 漆喰の剥離 |
![]() 外壁 板壁の劣化 |
主な劣化箇所:室内
・建物全体が西に傾いている
・物置①の西側壁、床の蟻害
・2階屋根の雨漏れ
・梁の腐朽
調査写真:物置① | 2階 屋根 |
耐震性と耐久性を重視した 改修計画
改修時は蔵①の具体的な活用案は決まっておらず、広い空間を活用出来る改修計画とした。
改修案(耐震性と耐久性を重視) ・屋根瓦の葺き替え ・外部漆喰剥がれの補修 ・建物の傾き補修 ・一般診断法0.7以上( 改修前 0.11 → 改修後 0.77 ) |
活用案 ・シェア工房 ・オフィス ・カフェ |
ワークショップ 〜 蔵①今後の利活用の為に
今後の利活用宣伝のため、一般の方を対象とした「蔵の中を見てみよう〜古民家で昔の道具と生活に触れる体験」ワークショップを計画した。
お掃除ワークショップ(残置物の整理)では、蔵①にあった荷物を整理する事が出来た。参加者は古い道具や器が好きな方が多く、貴重な品に触れる事で喜んでいただいた。
蔵① 解体前の室内 | 解体前 |
改修工事
解体 | 解体 |
![]() 柱に土台なし(西側は白蟻の影響が多い) |
![]() 解体工事中 |
家揚げ | 家揚げ |
基礎工事 | 基礎工事 |
土台敷き | 土台敷き |
構造金物 | 構造金物 |
屋根 水平構面構造用合板 垂木(タルキック) | 屋根 水平構面構造用合板 垂木(タルキック) |
屋根瓦 | 屋根瓦 |
外部仕上げ | 内部仕上げ |
![]() 外壁補修の様子 |
![]() 内部の補強と補修 |
完成
ほぼ土壁となっていた蔵の外壁は、補修の上、漆喰仕上とした。新しい出入口が役立つ。
内部は構造用合板仕上げとした。後に、必要に応じた仕上が可能。
番外編 〜 建築を知ってもらい家づくりに興味をもってもらう
母屋は今後に改修する。建物に興味を持ってもらう為に「♯1 コンクリート打ち/床板の再利用」ワークショップを開催した。
一般の方に参加していただき、母屋の土間打ちの工事を行った。
「♯2 庭づくり」 ワークショップを開催。
庭師と一般の方で行った「庭づくりワークショップ」では、広大な敷地の庭がきれいになった。参加者は、庭師から庭木の手入れなどレクチャーをうける。
今後の改修 母屋の耐震計画と改修
母屋(限界耐力計算による構造補強案の作成)
母屋の耐震計画は、「なるべく既存のままで、壁を増やしたくない。」との要望がある。今後、耐震改修を予定している。
既存図面 | ■ |
耐震改修案 | ■ |
おまけ
|岐阜県 美濃市のご紹介|
|美濃市 うだつの上がるまちなみ 空き家の状況|
うだつの町並み(通称:目の字 道り)は、古民家の空き家率が改善され利活用されている事がわかる。(空き家率2015年 29% → 2022年 16%)
|まちなみ活動|
古民家を利用したイベントを定期的に開催し、空き家となっている古民家を店舗として活用する事で、多くの人が集まる場となっている。イベントが終わってからも将来、街の活性化・まちなみづくり になる事を期待している。
|活用される空き家(古民家)紹介|
| 美濃の古民家おじさん |
美濃市での今までの活動(建物調査や設計、古民家利活用など)を活かして空き家ツアー、空き家の見方をレクチャー、DIYワークショップ、学生への建物調査方法の講義、地域留学(岐阜住学)の受け入れなどの活動を行っています。いつの間にか周りの若い仲間達から「古民家おじさん」と呼ばれるようになりました。
最後に、
建物の状態も把握することなくデザイン性や間取りを優先した改修がまだまだ主流の中で、住宅医で学んだような耐震性や断熱性能、劣化性能など数値化して提案できることは大切なことだと思います。もちろん予算がある中での工事になりますので、すべてを完璧にすることはできませんが、住まい手が自分の家の状態を知っているということは今後の改修にもきっと役に立つのではないかと思います。
私が活動している美濃市は奇跡的に古い町並みが残っている地域です。町並みが残っていることの大切さを次世代にも残していきたいと思っています。今の家づくりは施主の趣味によって自由に家を建てられるため、町並みを新しくつくることは困難だと感じています。住宅医で得た改修の技術や建物を見る力を使って、今後も魅力ある町づくりが出来るように頑張っていきたいと「古民家おじさん」は決意しています。
| おわり |
LINK
・一般社団法人インク https://ink.oguma-co.jp/
・古民家ホテル NIPPONIA 美濃商家町 https://nipponia-mino.jp/
・まちごとシェアオフィス WASITA MINO https://wasita.co.jp/
住宅医協会information
・住宅医の仕事紹介(オンライン) https://sapj.or.jp/movielist/