「改修設計の5つの柱」~良き町医者のように治す力をつけていこう。|リレーコラム2023年1月|

三澤 文子 ( 住宅医協会代表理事・住宅医 / Ms建築設計事務所 / 大阪府 )

明けましておめでとうございます。激動の2022年から2023年。新しい年を迎えました。住宅業界も建設資材の物価高騰の影響を受けて、戸建て着工戸数の低迷が予想され、若年層では新築より中古物件を購入しての改修志向が高まってきていることを感じます。今年は、新築志向 改修志向 に大きくチェンジする年になるのではないでしょうか。
そんな中、改修設計の重要性に注目が集まることを強く意識し、新年にあたり、住宅医が行う改修設計の基本的考え方を、ここにまとめたいと思います。題して「住宅医の改修設計 5つの柱」について以下、述べさせていただきます。

 

「住宅医の改修設計 5つの柱」

  1. 調査・診断を行う
  2. 耐震性能の向上
  3. 断熱性能の向上
  4. プランニングはバリアフリーの意識を
  5. 劣化対策とメンテナンスの容易性

 

1. 調査・診断を行う

改修設計の肝は、この「調査診断」にある。と言っても過言ではないと思っています。新築の設計の場合、建築計画の基本として与条件を抽出し経理するところから始まります。与条件は、敷地条件であり、施主の要望であり、法的規制であり、それらを抽出(調査)し整理することは常々の住宅設計では、当たり前のこととして実行されていると思います。改修の場合、そこに「既存建物の現況」加わるわけです。しかもこの「既存建物の現況」を理解することが、前述の与条件の中のなによりも難しいのです。よって「既存建物の現況」を調査でより詳しく理解することが精度の高い設計に直結することは間違いありません。
合わせて、調査後「既存建物の現況の診断」こそ 肝なのです。依頼者に対し、今後の設計の方向性を決める根拠となる診断をして、解りやすく説明することは必至であり、十数年後には、それがあたりまえの依頼主の要求となることは必然と考えます。
診断の方法については、各自方法論を持つことが理想でしょうが、まずは住宅医スクールで提供する診断方法を学んで実践してみてほしいと切に希望します。

Fumiko Misawa

 

2. 耐震性能の向上

地震国日本では、近い将来大地震が起こることが予想されています。このことからも既存建物の耐震性能を向上させることは必至であると考えます。改修予算の無い依頼者に対し、耐震診断を行い、低い評点を評点1.0近くまで向上させる努力、生命を守ることを第一と考え対応策を考える努力、それらの地道な努力も大切です。
また、予算を掛けて改修し住み繋ぐ家として永く大切に残していきたいと思う依頼者には、調査診断の結果を正確に伝え、どの程度の性能を確保する必要があるのか、もしくはどのくらいの性能を確保すべきか伝え、予算に合わせて実現させる必要があります。等級3も可能となる設計も検討していくべきだと考えます。
新築に手が届かない若年層の依頼者にも新築に並ぶ性能を確保できる方法を提案できることも必要です。できれば構造の専門家と相談できる関係をつくりつつも、自分自身が「耐震診断のポイント」をつかみ、構造専門化と議論できる力を持ちたいと考えます。

Fumiko Misawa

 

3. 断熱・省エネ性能の向上

気候変動に対してどのように行動するのか、住宅業界でも出来限りのことを実践していくことは必至です。住宅での使用エネルギーを削減しながら冬暖かく、夏涼しく暮らすことを実現することは、依頼者の健康や幸福度を上げることにもつながるのです。新築住宅でも断熱・省エネ性能を上げることは急務であると2025年には省エネ基準適合が義務化されますが、新築戸数よりはるかに多い戸数の既存建物その断熱・省エネ性能を向上させることこそ、効果的であるはずです。
住宅医スクールでは、断熱・省エネ改修設計方法の講義を通してその必要性を強調してきましたが、施工者との連携で可能となる気密性能の向上について、いつまで「課題である」と言っているのではなく、目標値を決めて、実行していくことが求められると考えます。

Fumiko Misawa

 

4. プランニングはバリアフリーの意識を

若年層も数十年経てば高齢者になります。また妊婦や幼児にとってもバリアフリーを意識した設計はすなわち「優しい設計」であり「ユニバーサルデザイン」※であると言えます。
改修において各性能を向上させながら、同時に依頼者である生活者の立場に立って、日々の暮らしが安らかで幸せなものになるよう願いながらプランの改善を試みることが必要です。
木造住宅の場合、構造軸組という骨格があるわけですが、耐震性能向上を優先させて理想的な骨格に改善したうえで、いままで永く存在した骨格をなるべく尊重しながら改修プランニングを試みることが大切であると考えます。そのうえで、依頼主の不満を聞き取り、期待以上の解決を実現できれば、改修設計のやりがいや喜びにつながっていくはずです。
※ユニバーサルデザイン:年齢・性別・能力などの違いにかかわらず、出来るだけ多くの人が利用できることを目指した設計のことであり、またそれを実現するためのプロセス

Fumiko Misawa

 

5. 劣化対策とメンテナンスの容易性

既存建物の調査を行い、改修工事を数多く行うことで、既存建物が反面教師となり劣化対策が長けてきます。新築の設計でも慎重におさまりを考え工夫することになるからです。
改修工事においては、既存建物での劣化の原因を把握し、対処療法でなく構本的に治すことが必至であります。また、長期間にわたる今後のメンテナンスのことを重要視し、メンテナンスしやすいつくり方や仕組みを取り入れていきたいと考えます。床下、小屋裏にはなるべく多くの、そして入りやすい点検口を設けることや、定期点検の仕組みづくりや、何かあった際にすぐにお願いできる専門家など、ネットワークの構築をしっかりつくり上げておく必要があります。
これらネットワークは、住宅医スクールにあつまり情報交換をしていくことで、つくられていくことが理想であると考えています。

Fumiko Misawa

改修設計の肝である「既存建物の調査・診断」から始まり、改修設計、改修工事と進み、依頼者への引渡しそして改修されたすまいでの生活が始まる・・・・しばらくして落ち着いたころに訪問すると、「とても暖かくなった。」「台所が使いやすい。」「庭が良く見えて嬉しい。」などなど、新築の仕事より格段に喜んでいただけるものです。そんなとき、改修の仕事のやりがいを感じるとともに改修のしごとは「価値ある仕事」だと実感するのです。


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