福井県「曹洞宗・霊松山発心寺」~平成の大改修~

住宅医の改修事例報告 94例目

報告者:一級建築士事務所山田屋 山田健太郎

改修概要
監 修:高嶋建築研究所 高嶋猛(小浜市文化財保護委員会アドバイザー・元福井大学講師)
設計者:一級建築士事務所山田屋 山田健太郎
設計協力:足立徳康建築設計事務所、伊藤マキコ建築デザイン+
構造設計:川端建築計画 川端眞、Legno建築設計事務所 野口 浩春
所在地:福井県小浜市伏原
用 途:曹洞宗寺院(専門僧堂)
築年数:詳細不明(庫裡の小屋裏から弘化四年の改修の棟札)
規 模:木造平屋建 伝統構法
敷地面積:詳細不明
延床面積:改修部分 588㎡
工 期:2017年7月~2019年4月

改修後 本堂外観

建築地の気候風土
福井県小浜市は福井県の西部に位置しており、東から流れる川に沿って平地がひらけ、西は小浜湾に面し、南は山地である。気候は温暖で、年間平均気温は約15℃、冬場でも0℃を下回ることはほとんどない。年を通じて湿潤で、平均して降水量がある。降水量が少ないのは4月で130㎜程度、降水量のピークは9月で220㎜程度である。冬には雪が降ることがあり、まれに大雪になることもあるが、根雪になることはない。建築地は山裾にあって、北西~東にかけて三方を山に囲まれ、北~東に開けている。

建物の歴史と改修の方針
福井県小浜市伏原に寺域を定める曹洞宗の霊松山発心寺は、大永元年(1521)に若狭守護・武田元光によって創建されたと伝える。元光が居城を構えた後瀬山の東麓に境内があり、ここは元光の別業の地で、晩年はこの地に居住したとされる。武田氏の衰退に伴って荒廃したが京極高次により慶長年中(1596-1615)に再建され、近世以降は禅道場として栄えたと伝える。

改修前 配置平面図

南北に長い境内中央に南面して建つ本堂は主材を欅とし、正面(桁行)約20m、側面(梁行)約15mの一重の寄棟造桟瓦葺で、正面に唐破風屋根の向拝を持つ。内部は間口を3分、奥行を2分した六間を中心として周囲に縁を回す方丈形式の平面である。右に元庫であった2間を含んで一体とした屋根を持つため、向拝は正面中央より左に位置する。建立年代は不明であるが近世に遡り、鬼瓦に残された銘の明治12年(1879)に現在の屋根形態となり、向拝や外部の改造も合わせて行われたと考えられる。小屋を見ると、元の大断面の梁・桁材の上に、近代らしい束と貫を多用した小屋組が屋根を支えている。また内部も改造が多く、内陣周りもこの時に現在の形態になったと思われる。

発心寺 三門前

約7年前に本堂改築の相談を受け、新築と改修を検討し、現存する木造本堂の良さが理解されて今回の改修工事が始まった。繰り返された改造で脆弱になった部分を建築当初の構造形式に戻すことも検討しながら耐震補強を行い、外観等は現在の屋根形態となった明治前期の姿を本山永平寺の同時代の建物に範を取って実施している。(高嶋猛)

改修前 伽藍

既存建物
敷地は国指定史跡「後瀬山城跡(のちせやまじょうあと)」の内にあり、伽藍は本堂を中心に20近くの建物が配置されている。発心寺は専門僧堂として、多くの雲水を受け入れていた時期があり、建物と建物の間、あるいは、建物の外壁に沿って、多くの小規模な増築が繰り返され、複雑な平面になっていた。そのことが、通風や採光、雨水の処理などに問題を発生させ、劣化の原因にもなっていた。

 

1)調査
本堂は福井大学の高嶋研究室による詳細な調査が行われ、各部の測量から基本的な配置図・平面図・断面図・一部の展開図が作成されていた。それに加えて、建物の傾きや不陸・土壁の厚みや劣化状況・木部の腐朽・屋根瓦の状態・床下と小屋裏・電気設備の状況などを追加調査した。庫裡は住宅医協会に依頼し、劣化・設備・仕上・採寸・床下・小屋裏・柱の傾き・床レベルを調査した。屋根はドローンによる4K動画撮影を行い瓦職と状況を調査した。

福井大学 調査向拝野帳

住宅医 調査風景

住宅医 調査野帳

これらのデータに基づき、本堂の軸組と庫裡全体をVectorworksで3Dモデリングして、改修内容の整理・検討を行い、限界耐力法で耐震診断を行った。

改修前 本堂外観

2)本堂の状況
中庭に面した本堂南面(正面)は、改造によって一部の柱が抜き去られ、大きなガラス建具の開口部となっていた。それによって屋根荷重を十分に支えきれず、差鴨居が大きく変形していた。

地盤の大きな沈下は見られなかったが、柱は全体的に庫裡側に傾斜していて、建入れ直しの必要性があった。また外周周りの柱は全体的に風化と蟻害による劣化がみられた。

改修前 本堂内陣

改修前 本堂露中

床下は蟻害が多く見受けられた。特に本堂北側の縁の土台は白蟻の食害により下半分が無くなっていて、そのため床が大きく沈下していた。

改修前 本堂床下

小屋裏は概ね健全であったが、屋根の形状変更(明治期?)の軒の構造補強が簡易的であるため、今回の改修で整理する必要があると考えられた。

改修前 本堂小屋裏

屋根は土葺で、瓦のゆるみ・ずれ・ひび等が認められた。

改修前 本堂屋根

本堂土壁改修図

軸組の調査に基づき、限界耐力法による耐震診断を行った結果、希に発生する地震時(損傷限界レベル)および、極めて希に発生する地震(安全限界レ ベル)で基準をやや下回り、構造補強の必要性が認められた。同時に、その構造補強の具体的な方法も検討したところ、現在本堂にある土壁を耐力のある土壁に改修することで、基準を上回ることが確認できた。

 

3)庫裡の状況
中庭に面した庫裡西面は、本堂同様、改造によって一部の柱が抜き去られており、そのために屋根荷重を十分に支えきれず、生じた差鴨居の変形を補うために鉄板をボルト締めで取り付けてあった。地盤の大きな沈下は見られなかったが、建物全体が捻るように変形していて、建入れ直しの必要性があった。

改修前 庫裡外観

床下はそれぞれの部分で改修がなされていたが、束・足固・床板・敷居に蟻害が見受けられた。

改修前 庫裡床下

改修前 庫裡床下

台所の小屋組が変形し梁が外れかかっていた。小屋裏は概ね健全であったが、梏木の緩みがあり、出桁のたるみが確認できた。

改修前 庫裡小屋裏

庫裡 構造改修モデル

屋根は土葺で、瓦の緩みや、ずれ・ひびが認められた。軸組の調査に基づき、限界耐力法による耐震診断を行った結果、損傷限界レベルおよび、安全限界レベルで基準を下回っていたので、構造補強として耐力要素の追加を検討した。

改修計画概要
1)要望
本堂
・冬場の季節風で床下から吹き込む隙間風対策
・収納の確保と建具類の復元
・内装全体の補修
・新しい玄関と事務室の設置
・本堂の便所の改修

庫裡
・本堂同様の隙間風対策
・台所の天井設置と厨房設備の改修

 

2)改修方法
解体撤去
・増築されていた小規模な建物はすべて解体撤去

軸組改修
・本堂外周周りの柱は全て交換
・過去の改修で撤去されていた柱は復元
・柱の建入を修正
・柱脚の不動沈下は鉛板や根継によって修正
・足固は全て交換
・梏木は状態の良いものを残し、その他は交換

床組改修
・大引・根太は全て交換
・床束は鋼製束で改修
・床板・荒床板は、再利用できる部材を残し不足分を補足して改修

本堂 床組改修

本堂屋根 二軒隅改修

外装改修
・外装の板壁の内、条件の厳しい部分はガルバリウム鋼板張に改修

本堂 木鼻彫刻

内装改修
・漆喰壁の塗り直し
・須弥壇木鼻の復元

・竿縁天井:既存天井板は撤去。竿縁は再利用
・格天井 :格子は再利用し鏡板を交換

断熱改修
・床 :大引間にフォーム系断熱材落し込み+透湿防水シート張で隙間風を防止
・天井:グラスウール系断熱材敷込み
・窓 :木製建具+複層ガラス、アルミサッシ+複層ガラス

屋根改修
本堂(寄棟屋根)・庫裡(切妻屋根)
・既存の瓦・葺土・榑板は撤去
・鬼瓦は状態の良いものを二つ残し、二つ復元
・状態の悪い垂木は交換して野地板を張り、桟瓦葺

本堂 復元した鬼瓦

向拝(唐破風屋根)
・屋根下地は化粧材(荊垂木・破風板等)を残して解体し、新材で改修
・銅板葺とするが、瓦屋根との谷部分はカラーステンレスで改修

本堂 唐破風下地

電気設備改修
・古い配線は全て撤去し、新しい配線に置き換え

消防防災設備改修
・自動火災報知設備新設
・パッケージ型消火設備新設

 

チーム設計とBIMによる改修設計
高嶋先生の監修のもと約6年に渡る事業に携わってきた設計チームは、私の他に、岐阜・三重・滋賀の4つのパートナー事務所で構成されている。仕事を進めるにあたっては、個別にビデオ会議システムとチャットを使って打ち合わせをして、その内容や図面をチーム全員でクラウド共有した。

テレワークで使用するwebサービス

以前、福井県内の文化財の古民家の大規模な改修設計をした際、SketchUpを使って書いた立体の軸組が大きな手助けとなった経験があり、今回の改修にあたって、3Dモデルの作成は必要不可欠だと考えた。2Dの軸組図だけで伝統構法の建物を理解することは簡単なことではない。

SketchUpによる古民家軸組

Vectorworksによる本堂軸組

しかし最初から全てBIMでスタートしたわけではなく、発心寺本堂の当初設計では軸組以外のモデルは作成していない。むしろほとんどが2Dと言っていい。その後、2Dから3D、そしてBIMへと、改修を進める中で徐々に移行している。

BIMモデルの上に、調査した部材の劣化・蟻害・建物の変形等のデータを視覚的に反映させると、改修方針の指針を定めるとてもよい資料になる。また改築委員会での3Dを使ったプレゼンでは「全体への理解を深め、改修の規模等を決める上で、とても分かりやすく良かった」というご感想をいただいた。

劣化状況をモデルで視覚的に表現

施工者選定にあたっての概算設計の際、できるだけ正確に見積もりをしてもらうために、2D図面も色で示したり、工種ごとに図面を分けるなどの工夫をした。設計者は自分の考えを間違いなく施工者に伝えなければならない。2D表現の工夫も必要だが、3Dはいっそう効果的である。

本堂庫裡 立体軸組モデル

施行中は現場事務所にモニタを持ち込んで、現場監督や各職方と3Dを一緒に見ながら打合せをした。大工棟梁がモニタに映る3Dの軸組を見て、そこに現場があるような感覚でさまざまな判断を即座にしてくれたのには、とても驚いた。経験値の高い職人の目にはすばらしいものがあるが、それは2Dでは伝えきれない情報を表現できるBIMのすごさでもあると感じた。

こういった打合せを反映したモデルから、様々な施工図や原寸図を取り出して施工者に提供することができた。

火灯窓・舟肘木モデル

火灯窓・ろ通断面詳細

改修後 本堂火灯窓

本堂正面建具モデル

框戸断面・詳細図

改修後 本堂正面建具

改修内容
1)劣化対策
屋根の全面葺替・劣化部材の更新・床下部材への木材保存剤塗布・外装の更新を行った。

2)耐震性能
土葺の瓦屋根を桟瓦葺とし重量の軽減を行った。鉛直荷重をしっかりと支持できるように、建入の修正・柱脚の不陸調整・劣化していた外周周りの柱の交換・柱の復元などを行った。その上で限界耐力法で検討した内容で、耐力要素(土壁等)の補修・新設を行った。

3)断熱性能
修行道場としての性格上、住宅のような断熱性能は必要としていない。しかし、今回の改修工事の中で、内外真壁の部分などを除いた、施工可能な部位については断熱材を施工した。

4)バリアフリー性能
本堂や庫裡の各入口からは、勾配の急な階段を登らなければならない。このことに関して、車椅子リフトやスロープ設置の議論があった。今回の改修ではこれらの設備(ハードウェア)は設けず、雲水さんの介助(ソフトウェア)で問題に対応することになった。本堂には蹴上を小さく踏面を大きくした階段を併設した。

5)火災時の安全性
今回の改修で、伽藍全体をカバーする自動火災報知設備とパッケージ型消火設備を新設した。

 

改修後写真

改修後 本堂・庫裏外観

改修後 本堂 外観

改修後 本堂 外観

改修後 本堂 正面入口

改修後 本堂 露中

改修後 本堂 大間・内陣

改修後 本堂 左の室中

改修後 本堂 右の室中

改修後 庫裡内観

まとめ
監修の高嶋猛先生の指導のもと計画から竣工まで約6年を要したが、施工者の各職方衆の誠実な仕事に支えられ無事に工事を終えることができた。
これまで、民家園や町家の古民家での改修の経験はあったが、このような大規模な伝統構法の建物の改修は初めてだった。

長く伝えられてきた建物を良く観察し、建てた人・維持補修に関わってきた人など、先人の意図を理解し、お預かりした建物をきちんと改修して次の世代にお渡しするということの大切さが、身にしみた。

改修のピッチは長い。このお寺でも次の大改修への取り組みは数十年後であろう。次の時代の人たちが「この建物を改修してさらに未来へとつないでいこう」と再び決意してもらえるようにするためにはどうしたらよいのか。現在を振り返って「今何をすべきか」を考え、できることを誠実に実行していく…このようなバックキャスティング的な考え方が、これからの時代に大切だと思う。

Vectorworks作業画面

近年、BIMと呼ばれる立体設計の技術が進歩し、建築設計は次のステージに本格的に移行しつつある。コンピューターの中に建物を3Dモデルとして作成することで、全体から詳細までを正確に把握することができる。

既存の建物を「開けてみるまで分からないと言わせない」態度で調査し、モデリングし、状況を視覚化することで、多くの人と情報共有する。このことは「良く目の行き届いた、納得できる改修」を実現する手法として、とても有効であると思う。伝統構法で建築された建物を、従来の図面だけで理解するにはそれ相当の経験が必要であるが、立体化されたモデルを自由に見ることが可能になると、経験の少ない人でも取り組みやすくなるであろう。

iPad野帳

調査記録にはタブレットや360度カメラが大変有効である。私はiPadのノートアプリNotability と、リコーのTheta を愛用している。

iPadで撮影した写真の上にペンで寸法やメモを書き加えていく。この資料はそのままA4のPDFとして前述のクラウドで共有している。360度カメラによる画像は、撮影漏れがなくなる点ですばらしい。一脚スタンドに取り付け部屋の中心に据え、照明として上方にも光が出るアウトドア用のLEDランタンを、足元に置いて撮影している。こうすると天井が良く写る。静止画だけでなく自撮り棒に取りつけて撮影する動画も、テレビ会議で状況を説明する強力な助っ人になる。自分が見てきたものを自由に画面の中心にすることができる上、拡大・縮小までできるのである。

3Dスキャンによる点群

近づくと点の集まりである事がわかる

発心寺以降の話になるが、3Dレーザースキャナによる測量で得られる「点群データ」は、大規模な建物の各部寸法や建物の変形の把握に、とても有効である。これまで、これらの採寸には相当の人工をかけないと正確なデータを得ることが難しかった。しかし土木分野から先行して導入されてきたこの技術は、1日で相当量のデータを得ることができ、その膨大なデータをノートパソコンでも扱えるようになってきた。現在この技術を使い、浄土真宗のお寺を調査・モデリングしている。

新しい技術が、これからの改修に光を当てようとしている。

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