住宅医の改修事例No.0121 愛着ある住まいで創る新しい暮らし~性能向上改修

渡邊 美恵 住宅医 / 木の和設計 一級建築士事務所 / 福岡県

今回ご紹介する戸建て改修は、70代のご夫妻から、築22年(改修時)のお住まいでの暮らしを『寒さを改善したい』『2階にある寝室を1階に移動したい』等のご要望を伺いながら、住宅医協会で学んだことを活かして、調査、設計提案、設計監理を行った事例です。
お子様が巣立たれた後のご夫婦お二人の暮らし、ご高齢となった場合への暮らしへの対応を目的に、計画・バリアフリー・断熱・耐震・省エネ・劣化対策の項目で、検討し進めていきました。

 

建築地の気候風土と周辺環境

建築地は、長崎県東彼杵郡の内陸部。低い山に囲まれた盆地に位置し、夏は暑く、冬寒い盆地型気候となり、省エネ基準地域区分は6地域となる。盆地を構成する低い山の西側の裾野に建築地があり、そこから緩やかな勾配で、道路そして田んぼへ低くなっている。

建築概要
構造:在来軸組木造 地上2階
建築年代:1998年(改修時築22年)
建築規模:建築面積 219.44㎡
■■■■■延床面積 366.5㎡  1階床面積 210.71㎡  2階床面積 125.79㎡
設計期間:2020年1月~12月
工期:2020年9月~12月


 

改修前平面図

1階平面図(改修前)

2階平面図(改修前)


基本設計方針から調査までの流れ

調 査

調査実施日:2020年3月3日(終日)、3月12日(終日)
■■■■■・3/3 住宅医1名、住宅医修了生1名、と渡邊で計3名での詳細調査
■■■・3/12 住宅医修了生1名、と渡邊で計2名での詳細調査
既存図面状況:基本図面のみ(構造図、設備図などなし)の状況
調査箇所:床下、2階床(和室部分)、小屋裏、室内、外回り


調査(外周部)


東側外壁:午後からは、日差しがはいらなくなる 湿気から外部にコケあり

テラス下部:雨漏りによる外壁剥離■■■■■■■■■■■■■■■■■■

北側外壁:外部にコケあり

テラス部分外壁:コケあり

調査(床下)


筋交い位置と金物の確認

改修前ダイニング床下:湿気あり、劣化がみられる

玄関ホール床下:乾燥している

吹き抜け客間 床下

応接室(客間)床下:湿気とカビあり

調査(小屋裏)


■■■■

金物はかすがいを確認

火打ちを確認 ボルト締め

断熱材を確認

筋交確認 釘どめ

調査(2階床下)


和室の畳をとり確認

筋交いを確認

2階床下 2階床伏せ確認

調査結果


天井:グラスウール50K 50㎜  壁:グラスウール50K 50㎜  開口部:金属製 複層ガラス

調査結果

調査結果

上記の調査結果を受け、長期優良住宅性能値を目標に、耐震性、断熱性、省エネルギー性を重点的に向上することとしました。

改修計画

改修計画【基本プラン】

1階平面図(改修後)


改修計画【断熱性】

1階 断熱計画

壁:セルロースファイバー 55K 120㎜
天井:セルロースファイバー25K 200㎜
床:押出法ポリスチレンフォーム3種 50㎜+120㎜
A:既存窓+樹脂Low-e ペアガラス
B:新設窓 樹脂Low-e トリプル
C:既存窓+障子
D:新設ドア(高断熱)

・主生活するLDKエリアと寝室収納水回りエリアと廊下を加え、区画断熱を行った
・区画内は、壁セルロースファイバー55K断熱材t120、天井セルロースファイバー、断熱材25Kt=200、床ポリスチレンフォーム3種50㎜+120㎜
・根太大引きから施工し、気密施工を行い、床の断熱性能向上を図った
・開口部既存窓には、内窓樹脂製Low-e複層、また新規窓は樹脂製Low-e3層を採用
・南側と西側窓には、ハニカムスクリーンを設置、南東の出窓には障子を取り付け
・エリア区画内UA値:1.7(W/㎡K)→0.61(W/㎡K)に向上 家全体のUA値:1.5(W/㎡K)→1.05(W/㎡K)に向上
・LDKエリアの区画熱損失係数:Q*値は、8.1(W/㎡K)→2.15(W/㎡K)に向上

2階 断熱計画


断熱区画
壁:セルロースファイバー 55K 120㎜
A:既存窓+樹脂Low-e ペアガラス


壁天井断熱施工

床断熱施工

改修計画【省エネルギー性】

・給湯器を電気式ヒーター(床暖房機能付き)から、エコキュートに変更
・照明はすべてLEDを採用し、居室には調光、居室以外は人勧センサー付きLEDを設置
・風呂洗面 節水カラン、断熱浴槽を採用
・給排水 すべてやり替え ヘッダー工法
・壁付け第一種換気設備に交換し、熱損失をおさえた
・暖房をエアコンのみとした
・エアコンの選定及び設置場所も同時に行った
・窓廻り商品の選定(ハニカムスクリーン)も同時に行った
・冷暖房効率を上げるために、吹き抜けに、シーリングファンを取り付けた


改修計画【耐震性】

・基礎は、鉄筋コンクリートでアンカーボルトが適宜設置されていることから、既存を利用する事とした
・耐力壁は、構造用合板による面剛性を確保する方法を採用した
・上部構造評点1.0以上を目指したが、改修費から現段階では断念し、将来案として提案した(将来の耐震改修につながる前提での耐震補強計画)
・主生活空間と収納+水廻り+寝室の範囲での耐震補強計画を提案した

現状


1階(現状)

2階(現状)

上部構造評点(現状)


今回の耐震改修案

1階(今回の改修案)      2階(今回の改修案)

上部構造評点(今回の改修)


将来への耐震改修案

1階(将来の改修案)      2階(将来の改修案)

上部構造評点(将来の改修案)


柱撤去に伴う既存梁の検討(構造設計者へ検討依頼)
検討荷重は、長期及び積雪のみ、検討部位は、梁のみとした
検討方法は、STAND-3Dを用いた許容応力度設計とし、柱撤去を行う該当箇所のみ検討した。検討の結果柱撤去可となった
そのうえで、安全側として、A柱撤去 B柱新設とC添え柱、D補強梁の取付け

柱撤去による梁補強計画(柱撤去)

柱撤去による梁補強計画(梁柱新設)


F

E

G


改修計画【バリアフリー性】
・将来的に車いす利用の可能性を考慮して、主要な出入口はW800以上を確保し引戸を採用した
・寝室を2階から1階に移動し、水廻りの空間と主寝室を近づけ使いやすい間取りに変更した
・寝室と浴室洗面の間に、新たにトイレも設置した
・日常生活空間内の出入口の段差を解消した
・トイレも長辺を開放できる引戸を採用、広さを確保した
・水回りに適宜手すりを設置した


改修計画【劣化対策】
・改修エリアの床下は、根太大引きから新しくした
・北東エリア寝室床下基礎換気口の換気機能が低く、改修工事で床の気密性が高まったことを前提に、床下換気扇を設置した
・北東エリア寝室床下基礎の高湿度の原因(エアコンドレーン排水が基礎内に逆流)を解明し、改善した
・空調ドレーン配管は、改修前は、壁内や天井内に隠ぺいだったものを、すべて、露出配管にした
・改修エリアの北側と東側の外壁をクラック補修の上、塗りなおした
・将来的なメンテナンスや点検に備え、適宜、点検口を設置した
・2階東側バルコニーに防水工事(撤去も検討したが、金額的に断念)を行い、室内側からは、金物補強を行い、天井点検口を設けた
・解体時に、リビング意匠梁の固定方法に不備があることがわかり、大工さんの手により長さを継ぎ足し、色合わせの上 再取り付けした
・地域の工務店さん(車で5分)に施工をお願いした
・改修部すべて、1階部分の木部、及び床下、基礎廻りにホウ酸防蟻処理を行った
・既存部分、床下、基礎廻りにホウ酸防蟻処理を行った

改修前後の比較

性能チャート比較

改修前

改修後


改修前

改修後

耐久性、断熱性、省エネルギー性、バリアフリー性については、長期優良住宅の性能と同等もしくは、超える性能となった。ただし、耐震性は、上がりはしたものの、長期優住宅性能比半分となった。また火災時の安全性についても細やかに対応すべきだった。


改修前写真


吹き抜けのある客間

応接室(客間)

改修後写真


ダイニングからキッチンを望む 九州産杉を床材に


キッチンからリビング望む


キッチンからダイニングリビングを望む 庭や遠くの山も見える


軽食をとったりちょっとした作業の出来るカウンター


改修前床にあった囲炉裏を使い、囲炉裏テーブルとした。吹き抜け上部にも換気扇を取り付けている

元々あった出窓には、障子を取り付けた。窓辺の変化を楽しんでいただけるよう、3枚引きとした


ご縁頂き既存建物の建築にかかわった大工さんにお願いすることができ、細やかに愛情をもって対応いただけたことに感謝します


改修前の通常玄関の敷台をベンチに加工。ベンチにすわると遠くの山を眺めることができる

作り直したデッキ(九州産杉を保存処理した材を使用)わんちゃんの遊び場、散歩から帰った際の足ふき場としても利用


断熱エリア内の廊下 2階への階段にも扉を取付けた


廊下の照明は人感センサーとした

寝室 東側窓 少しでも通風できる様 ウィンドキャッチ連窓とした


寝室■■■■■■

寝室からトイレ洗面所への内廊下 就寝後でも温度変化のない環境でトイレまでいける

寝室の隣に新たに設置したトイレ

洗面所の照明は、改修前応接室のものを利用


断熱エリア内廊下と玄関ホールの間にも扉を設置。扉横 既存家具を利用してつくった飾り棚


建替え前の家に装飾されていた鏝絵の額装を壁に取り付けた。受け継ぐことを大切にされている奥様に喜んでいただけた


夜の照明は、調光及び段階的に暗くする計画を提案 お酒も楽しめる空間に


北側外壁 補修の上 塗装

振り返り、反省点と今後へ向けて

・日差しが取り込め明るく、眺望も楽しめる南側に配置された来客用の空間の断熱性能をあげること、また梁補強検討を行い柱や壁を撤去補強し、元々の吹き抜けのあるダイナミックな空間性を活かしたLDK空間づくりに注力しました。

・耐震性の面では、西側和室改修含まれなかったこともあり、上部構造評点を上げれなかったことが課題ですが、何より2階からの荷重の流れを受ける構造補強提案をより良い形でご提案できなかったことが、大きな反省点であり、今後継続してご提案していきたいと考えています。

・改修前2018年の電気代が、54万3856円から改修後2021年32万8971円と、21万4885円減額しました。(改修後洗濯物乾燥を洗濯機で行うことが増えたとの事、対策を今後提案予定)

・断熱工法について、1階のみ内部からの改修ということで、外壁通気をとることができなかったが、定期的な点検項目に、外壁のサーモカメラ、及び目視での確認を加え、2階のバルコニーの防水状況も定期的な点検項目に加えました。

・また暮らし方について、住まい始めて、3か月と1年訪問を行い、結露の防止策や室内空気質を良好に保つ方法などを実際に操作しながら解説しました。

反省点も多くある中ではありますが、改修後1年点検の際に、住まい手から『本当に快適に過ごせています。冬も暖かくエアコン1台で充分でした。改修前は、週末は外出していましたが、居心地が良くて出かける必要がなくなりました。吹抜の窓からは、1年を通して、1日を通して日差しの移ろいや、外の景色を楽しめて、お天気のいい日に日差しにつつまれて家で過ごすこ事が至福です』という言葉を頂き、安堵と感謝の気持ちで一杯になりました。またこの計画に関わっていただいた方にも感謝しています。
今後へは、今回の反省を次につなぎ住宅医として、住まい手にとって何が大切なのか、考えながら取り組んでいきたいと思います。


わんちゃんも日のあたる場所で、日向ぼっこを楽しんでいました
渡邊 美恵(住宅医・一級建築士)