改修のときに頭を悩ます梁や柱の断面欠損 ~住宅医リレーコラム2022年3月

河本 和義一級建築士事務所TE-DOK代表 / 住宅医協会理事 / 岐阜県

先日、名古屋大学山崎真理子先生のお話をお聞きできる機会があり、その際に古材の利用方法についての話がありました。先生曰く、材に対して、圧縮方向に力がかかる場合は気にしなくてよく、引っ張り方向に力がかかる際には注意が必要とのお話でした。
今回、改めて梁の断面欠損について考えてみたいと思います。梁の性能、特に曲げの性能は、以下の3つの要素で決まります。

材種(材種により、曲げ強度やヤング係数が与えられます)
断面
欠損の有無

ここでポイントになるのが、③の欠損の有無です。改修の場合においては、①②は自動的に決まってきますので、この欠損の評価によって、梁の性能評価が大きくかわると言えます。
木造住宅の構造計算のバイブルと言われているいわゆるグレー本(正式名称:木造軸組工法住宅の許容応力度設計2017年度版 発行 公益財団法人 日本受託・木材技術センター)では、以下のようにあります。

 

1スパン中間の仕口等による欠損の状態に応じた断面二次モーメント I の低減
※ 断面二次モーメント I は梁のたわみを計算する数値。数値が高いほどたわみにくい。

 

2梁幅105㎜のプレカット仕口による欠損がある場合の の低減係数概算値(参考)
※ Zは、梁の曲げ強度を計算する数値。数値が高いほど折れにくい。

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これらからわかることは、
・梁の中央に欠損がある場合、欠損の大きさによって、欠損がない場合と比べて、最大30%たわみが大きくなる。
・梁の中央に欠損がある場合、欠損の大きさによって、欠損がない場合の35%の性能しかなくなる(35%の力で折れてしまう)。

と言えます。欠損の程度によって性能がかわるので、上記の表を見て、その部材がどの程度の性能であるかを確認する必要があります。

これらを踏まえた改修においてのポイントは、
 ① 建物の築年数 
木材は、クリープしますので、いつ建てられ、どのくらいの時間が経っているかを確認する必要があります。十分時間が経っている場合は、改修前後で条件が大きく変わらない限りは、今以上にたわんだりする可能性は非常に少ないと言えます。反対に、それほど時間が経過していない場合は、今後もクリープが進行する可能性があるため、改修前後で条件が大きく変わらないとしても、たわみが進行する可能性もあります。

 ② 利用する梁が、改修前後で荷重条件にかわりがあったか 
例えば、柱を抜いた、上に柱を追加した、梁の掛け方が変わったなどで、荷重条件が変わったかどうかを確認します。

 ③ 荷重条件にかわりはないが、材に加工を施す 
(小梁入れる、切り欠きを設けるなど断面を欠損させる)ことはないかを確認します。

 ④ 荷重条件が変わる場合 
A:柱を抜いた
B:間仕切り用の柱を立てた
C:柱を建て、上階(屋根)の荷重を支えた
D:柱を建て、耐力壁を設けた
:梁の掛け方が変わった

これらの場合は、梁の検討が必須です。
Aはよくあるパターンですが、梁そのものの断面が足りなくなることと、併せて、梁の下端にほぞ穴があきますので、その分、断面欠損を考慮する必要があります。

Bもよくあるパターンですが、梁を傷めずに柱を簡易に立てることができれば断面欠損問題はありません。間仕切り重量が増えた分を考慮すればよいかと思います。

Cは、上階の床梁や小屋梁を支えるために行うことが多いですが、それにより対象梁の荷重負担が増えますので注意が必要です。また、柱を新設する際に少なからず梁を傷めると思いますので考慮が必要かもしれません。

Dは、耐力壁の強度にもよりますが、梁への負担大です。通常時は、改修前から大きな荷重の増加はないかもしれませんが、地震や台風時、建物が水平力を受けた際に、耐力壁が対象梁を大きく押し込みます。そのため、梁が大きくたわむ、最悪の場合は、梁が折れるということが起こりますので、注意が必要です。耐力壁による押し込みは、思った以上に大きいので、柱を立てた際の欠損も相まって、危険度が上昇する可能性があります。

Eは、掛け方により、安全側になったり、危険側になったりしますので、設計者の責任は重大です。並列した梁の1本を抜くと残った梁の負担が大きくなります。また、梁の掛け方を90度変えると、それを受ける梁は、梁の仕口の断面欠損とともに大きな力を負担する必要が出て来ます。

⑤ 梁の補強方法
梁の補強方法には、大きく二つあるかと思います。下に抱かせるか横に抱かせるか(上に抱かせるもありますが使える場面は少ないと思われます)ですが、それぞれ特徴があります。
下に抱かせることが一番多いと考えられますが、この時の注意点としては、120角+120角は、120×240の梁性能にならないことです(図⑤-1)。120角同士を接着できれば可能かと思いますが(集成材と同様)、ボルトやビスで留め付けるだけだと一体にはなりません。留め付け方法によりますが、接着した場合とバラバラ(2材を接合しない)場合の間の性能にはなりますが、バラバラの場合の性能に近いと考えるとよいです。そのため、下に抱かせる場合には、その追加する材だけで持つ断面にしておくことが望ましいです。
横に抱かせる場合は、下屋の屋根を支える梁と2階床を支える梁としたり(図⑤-2)、2階の床を支える梁を2本や3本に増やす場合(図⑤-3)が考えられます。この場合は、それぞれの負担面積に応じてそれに見合う梁断面を選定することになります。

図⑤-1

図⑤-2

図⑤-3

以上、梁の断面欠損の話をしましたが、断面欠損は弱点ですので、どの程度の弱点であるかを見極め、弱点を適切に補う補強方法が必要です。改修の場合、その時々で諸条件に合わせて対応する必要がありますので一筋縄ではいきませんが。