住宅医の改修事例No.0120 顕著なシロアリ被害から改修に至った事例 〜築45年のハウスメーカー(ヘーベルハウス)鉄骨造の住宅
藤田 敦子(住宅医 / 一級建築士事務所Bois設計室 / 神奈川県)
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建 物 概 要
所在地:神奈川県横浜市
敷地面積:334.75㎡
延床面積:171.79㎡(内、地下車庫10.35㎡)
建築年:昭和48年新築 鉄骨造2階建(ヘーベルハウス)
□□□□昭和59年増築 木造2階建(ヘーベルハウス)
リフォーム履歴:ユニットバス更新・2階和室2室内装更新
家族構成:夫婦、母、猫3匹
およそ100坪の敷地の半分は草木の茂った庭となっており、様々な果物や花木が植わっていました。最初にお伺いした際は建物全周囲に渡って雑草がかなり元気よく茂った状態でした。
室内からの現状把握
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住まい手の方が最初に蟻害に気がついた場所は、1階納戸の西側の壁面でした。10年近く箪笥や物が積み上がった状態でほとんど足を踏み入れることが無かったそうです。他にも玄関土間周りや勝手口土間周り、広縁の内装床板や床見切りに羽蟻や蟻害が確認できたとのお話でした。因みに、この建物の床及び床下は、布基礎、床はALC版の上に不陸調整の木下地+合板フローリングという仕様です。
最初に現地を確認した際の納戸の西壁面状況。周囲の床もブカブカで内部が相当ひどい状況が伺える。木材は少し湿った状態。
天井の水染みから、屋根廻りの漏水が長期間継続的に起こっていたことが顕著な蟻害・腐朽の要因の一つとして予測できると思われますが、現地調査の際には更に外部周りを確認してみました。
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建物周囲の現状把握
これは後に足場を掛けた際に再確認できたことですが、母屋と増築部の屋根取り合い納まりに不具合があり木造屋根に漏水しており、ケラバ部分に穴があき下地の合板も腐朽している状況が見られました。
木造増築部分の既存コロニアル葺きの上から、厳重に防水処理を施しシングル葺きに改修しました。この工程については2021年1月10日にオンラインでの「住宅医の仕事2022 第2回」の事例発表の際に少し詳しくお話ししています。
1階納戸の蟻害が顕著だった南西角の外部側には、増築の際に増設された雨樋がおりて来ており、切りっぱなしの状態で雨水が基礎下に流れ込むような状況が見られました。
写真は草が取り除かれていますが、雑草が生い茂った状況が常態化していたようです。
対策として、建物と反対側へ水勾配を取った土間コンクリートを打設しました。
木造増築部以外に蟻害が確認された広縁周囲も、室外機が建物に接して設置され鬱蒼と茂った雑草で覆われていた状況や、近くにある雨水桝が土と雑草で完全に埋まっており、程よい暗がりと常に湿り気を帯びた土でシロアリを呼びやすい環境が作り出されていた事が推察されました。
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改修工事計画
現地現況確認の後、木造増築部分の内装を全て撤去し蟻害の全貌を防蟻処理業者さんと一緒に確認しました。その上で、増築部分は取り壊しとするか、補強・防蟻処理を施した上で今後も使用していくか、見積もりや工事方法を提示し比較しながら住まい手と相談した結果、補強・防蟻処理をした上で使用していくということになりました。
改 修 工 事 概 要
(1)増築部防蟻処理及び母屋床下調査+防蟻処理
(2)外装塗装工事・屋根/ルーフバルコニー防水工事・増築部屋根防水工事
(3)1階全サッシ カバー工法によるペアガラス化(一部インナーサッシ設置)
(4)1階天井(ルーフバルコニー下)・壁面・床断熱工事
(5)1階内装工事(和室4.5帖及びユニットバスを除く)
工期:(1)〜(3)2018年8月〜2018年10月末
□□□(4)〜(5)2018年10月末〜2019年2月初
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蟻害の全容
内装の解体工事に着手しながら、同時に防蟻業者さんに床下・内装下地材・建物外周部について詳細調査を行って頂きました。また、薬剤散布は全域を対象とするのではなく必要な箇所を見極めた上で要所要所に施工して頂きました。
解体前の調査では発見できなかった蟻害もいくつかありました。
中でも顕著だったのはキッチンの流し背面の壁面、もう一つは玄関と隣接する階段下部材周辺の蟻害痕です。又、外部南側のルーフバルコニー下のスペースにはシロアリの生息が見られました。ここには事前調査時には物置などが置かれており、工事に際して移動させたので確認できた箇所でした。
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1階納戸 内装解体後の状況。柱・筋かい・梁が消失している。他の壁面も全体に蟻害は見られた。
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2階子供室 内装解体後の状況。1階同様に柱や横架材が消失していた。
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広縁南西角の蟻害の状況。
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広縁床下で確認された蟻道。床下地部材の鉄骨と基礎の隙間から室内へ向かっているのがわかる。
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玄関脇の階段下収納。柱はFLから1mくらいまで顕著な蟻害が見られたので健全な部分を残し根継とした。
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キッチン工事前の状況。
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キッチン撤去時の様子。窓台から下は壁下地材が消失していた。
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南側ルーフバルコニー下は物置になっていた。おかれていた物をどけるとシロアリの生息が確認された。
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改修後の暮らし方提案
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蟻害が建物に及んだ要因を把握し、同時にこの家を住まい手が普段どのように使っているかなどをヒアリングした結果、まずは使わない場所や人が入らない部屋を作らない、という事を考えました。ほとんど物置と化していた増築部分の納戸を日常的に使える場所にすること、同じく使用頻度の低かった和室6帖を家族の滞在時間が長い居間と繋がりやすく使える部屋にする為に、玄関からの動線を変更しほぼ全ての出入り口は引き戸として、締め切りにならず出来るだけOPENな空間を回遊できる間取りとしました。
改修後の住まい方について
・まずは、季節ごとに建物外周に気を配ること。建物近くに雑草を茂らせたままにしたり物を置きっ放しにしてシロアリの侵入経路を作らない。
・お庭が広くそのほとんどが土のままの状態の為、雨水桝には泥が流れ込みやすい状況。定期的に清掃すること。
・これだけのお庭だとシロアリは敷地内には生息していて当たり前。建物に近づかせないこと、定期的に点検することをを心掛ければOK。
などなど、設計中から工事完了後にかけて随時お伝えし、理解して頂く様にしました。
ただの物置とならない様、何をどう仕舞うかのイメージを住まい手と共有しながら設計したウォークインクローゼット。
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畳は杉の厚板フローリングに変更し視覚的にも居間とひと続きに。旧広縁は炭化コルク貼り。
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居間からキッチンを見る。
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猫たちやお母さんの様子にも気を配りながら作業できる配置に変更したキッチン
住まい方アドバイスの重要性
この事例の蟻害は建物の広範囲に及んでおり、更に増築木造部分の構造材が消失するまでその被害に住まい手が気がつかなかったことは色々考えさせられた案件でした。長い年月を過ごして段々と古くなってきた家について一般的には関心が薄く、日々の暮らしの中で建物のメンテナンスについて考えが及ぶ住まい手はきっと少数派なのかも知れないと感じました。
改修工事の計画段階から打ち合わせを重ねる中で、「どうしてこうなったか」や「どうしたらこうならないで暮らせるか」を丁寧にお伝えして来た甲斐あって、改修後この事例の住まい手ご家族からは、建物周辺や建物に関するメンテナンスや換気に対する意識が変わったとお聞きしています。
新築であっても改修であっても、お引き渡し後の具体的な住まい方のアドバイスは、住まい手が永く快適に暮らして行くためにとても重要な事だと思われます。敷地条件やその地域の気候の特性、住まい手の暮らし方の「くせ」や習慣を設計打ち合わせのやり取りの中から読み取り、それぞれの住まい手に合った具体的な住まい方のアドバイスをすることは私たち住宅医の仕事の中でも重要なことではないかと思うのです。
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藤田敦子さん 住宅医の仕事(事例発表動画)YouTube音声が出ます https://www.youtube.com/watch?v=_g0e0On08Zg