住宅医の改修事例No.0125 住み継ぐ家の変遷 ~旧徳山の家・2世帯住宅という選択~

中島 あゆみ住宅医 / あゆみ設計工房岐阜県

夫婦+子供2人のご家族から、「実家がある敷地内に新築を建てたい」というご要望があり、今回の計画がスタートしました。法的な理由から新築を建てることはできず、「実家の2階をリフォームして2世帯住宅にすること」をご提案。2012年に大規模改修をしていたこともあり、今回は1階は工事の対象外とし、ご両親が住まわれている状態のまま2階のみを改修することになりました。


敷地
敷地内には高低差があり、東側の全面道路から水路を挟んで1.6M程上がったところに建物が建ち、さらに1.2M程上がったところに駐車スペースがあります。

 

「 旧徳山の家 」の変遷

この建物は1955年、岐阜県揖斐郡徳山村に新築された農家住宅。
1985年ダム建設のため、解体・廃棄の運命となるはずでしたが、ちょうどその頃この家の4女が豊橋市で家を建てようとしており、新建材を使った家を建てるより、徳山の家を移築できないかという考えから運よく豊橋へ移築することが決まりました。

 

 

 

古民家によくみられる「田の字」に下屋がついた間取りです。

2012年 

詳細調査
詳細調査は森林文化アカデミーの先生と学生の計9名で行っています。
写真は床下の様子です。

移築したのが昭和60年ということもあり、足固めの下は布基礎となっており、アンカボルトや接合部金物が一部確認できています。目立だった蟻害はありませんでしたが、一部の大引きに虫害や配管の漏水による束の腐朽が確認されています。
これから住まい手が気にしていた「床がふわふわするが大丈夫だろうか」という不安の原因も下地合板の接着剤剥離と分かりました。
今回のリフォームの最初のきっかけは「この床のふわふわ」に気が付いた事でしたが、何か家の不具合に住まい手が気づくという事は、家を長持ちさせる上とても重要な事だと思いました。

 

接合部金物は無く、間仕切り壁の土壁は梁まで到達していませんでした。
筋交いは確認されましたが、金物はなく、断熱材も無いという状況ですが雨漏りなどはなく健全な状態でした。

 

当時スクリューウェイト貫入試験で地盤調査を行っていますが、平均地耐力は62kN/㎡ほどで布基礎の規定値を満たす耐力が確認されています。
地盤調査結果は良かったのですが、周囲の擁壁や基礎には大きな亀裂が確認されたり、東側へ建物が傾斜していることから、盛土部分が建物重量によって地盤沈下した事が原因だと考えらます。


after plan
改修後は景色の良い東側にLDKを配置し、車いすになっても、ここで暮らしができるような計画となっています。



 

2階はなるべく既存利用し、費用を抑えるという方針で既存開口部の位置は変えず、外壁の内側に新規壁を抱かせて補強。




一次エネルギー消費量
改修前はエアコンを全く設置しておらず、夏は扇風機のみのため、エネルギー消費量が少なかったと推測。冬は電気カーペットと灯油ストーブで暖房。
改修後はオール電化とし、エアコンも設置。冬は薪ストーブがメインの暖房。


温湿度の実測
改修前の室温はリビングの一番滞在時間が長い場所でも15℃を下回り、脱衣室とリビングの温度差も大きく、いつヒートショックが起きてもおかしくない状況。
改修後は15℃以上をほとんど上回り、リビングと脱衣室の温度差も少なく、リフォームによってヒートショックのリスクが大きく軽減できた。


 

2020年

新築を建てられるかどうか、敷地の状況などを調べていく中で、この敷地が農地と既存宅地に分かれていて、既存宅地に新築住宅を建てる場合一区画で300㎡以上必要という豊橋市開発審査基準から、この敷地に「新築を建てることはできない」という結論に至りました。
「ここに新築が建てられないなら、近くで土地を探すところから始まるかな~、でもお金がかかるな~」と悩んでいた施主に、「2階をリフォームして2世帯住宅にしてみてはどうか」と提案をしてみました。
「2世帯住宅は一緒に暮らして上手にやっていけるかな?迷惑かけたりしないかな?」と色々不安なことも多かったようでした。そこで親家族・次男家族両者の話をよく聞き、「お互い不安が軽減するような形でプランを一度考えてみるので、プランをみてから検討してみてはどうか」と話しをしてみました。


【プラン】
・親世帯と子世帯、それぞれの領域をはっきりと分けた間取り
・介護等の将来性を考慮して、一体としても利用できる間取り
・家事動線を考慮した間取り

【構造】
・大屋根水平構面の確保
・接合部金物の追加
・2階の壁重量の軽減(土壁を落とす)

【温熱】
・既存サッシの交換
・気密性の確保
・暑さ対策

【その他】
・1階は工事範囲の対象外とする
(住みながらの工事)


工事費用につきまして、今回の建築工事費は税抜き1900万円です。
要望ヒアリングの際に予算を伺ったところ、ローンを組む予定でいるが、リフォームの場合どうやって予算を決めたらよいか分からない。いくらかかるのか全く予測がつかない。という率直な意見をいただき、間取りの提案と合わせて、概算予算書の作成、返済計画のアドバイスも含めて提案させていただきました。ローンを組む際に銀行からもローンシュミレーションができてきますが、銀行の提案より月々の返済金額を無理のない範囲で増やすことで、利息分得をすることができ、49歳までに返済が可能となるのでどうでしょうか?というお話をさせていただきました。
計画時は、リフォームなのにこんなにお金をかけても大丈夫かな?と金銭的な不安も大きくあったようですが、2012年のリフォーム内容と合わせて今回のリフォームによってさらに耐震性能や断熱性能・気密性能が向上するという話もさせていただき、最終的には、「このような暮らしが、新築をするより少ない借入ででき、おじいちゃんが建ててくれた徳山の家を残すこともでき、2世帯住宅にしてみよう!」と決断してもらうことができました。


| before plan |
既存の天井・垂れ壁、サッシなどがそのまま残っており、内部はほとんど「がらんどう」の状態です。
2012年の改修以降ですが2階はもう誰も使わないし、帰ってきたときに2階で寝泊まりしやすいようにとトイレを増設していました。このトイレと洗面台は今回のリフォームで再利用しています。


| after plan |
2世帯住宅として受け入れてもらった間取りがこちらになります。
敷地の高低差を生かし、西側の駐車スペースにベランダをつくり、ベランダから直接2階へアプローチできる動線をつくりました。


2階の床面積は階段含めて25坪程とコンパクトですが、キッチン、おふろ、洗面、トイレを増設し、子世帯が独立して生活が成り立つように考えました。動線としては、玄関から食品庫へ、洗面脱衣室からWICへと、なるべく行き止まりがない裏動線を確保することで、家事のしやすさに配慮しました。
またリビングとダイニングを兼用し、食事後はそのままベンチソファでくつろぐことができるようにしています。お子さんがまだ小さかった事もあり、キッチンに立っていても子供の様子が分かるよう対面キッチンをご希望でした。
最終的には対面キッチンとはなっていないですが、カウンター越しにLDと子どもスペースまで見渡せるように配慮しています。
既存の階段はつくり変えず、2階LDから1階へとつながる動線も確保しています。日常的には建具のカギを閉めて使っていますが、便利が良く緊急時以外でも上下階の行き来で使用しているそうです。


改修後の耐震性能ですが、一般診断法で1.32です。改修前は1.05とギリギリでしたが、今回は開口部を自由に設定できるということもあり、全体のバランスを考えながら耐力壁の配置をしています。
「倒壊しないレベル」まで評点を上げるような補強をすることもできましたが、今回は1階の接合部金物を変更することができないので、接合部金物の許容範囲内で、1階とのバランスも考慮しながら耐力壁の配置を決めています。


大屋根の水平構面の補強の様子です。
勾配天井部分は構造用合板、水平部分はブレースで水平構面を確保しています。


土壁を落として2階のみスケルトンの状態になった時の様子。


2012年リフォーム時に新たにつくった間仕切り壁耐力壁の上部梁が既存の80角と頼りないサイズでしたので、今回の工事では110×210の新規梁に交換しています。


交換した新規梁にブレースを設置し、耐力壁と水平構面がつながるように考慮しながら補強をしていきました。


こちらが間柱を設置した時の様子です。
外周部は大壁の仕様ですが、柱の断面が105角~150角ほどとバラバラで傾斜や不陸が大きく、柱に直接構造用合板を張ることができなかったため、柱の両サイドに受け材を設置し、真壁のようなつくりかたで耐力壁を作っています。


構造用合板を室内側に張っているときの様子。


屋根は既存のグラスウールを一旦取り外し、結露や屋根の漏水・カビなどがないかチェックし、既存のグラスウールが健全な状態を確認。
暑さ対策と断熱強化のため、改修後は上側のグラスウールt100は遮熱シート付高性能グラスウール24Kを新たに設置し、下側は既存のグラスウールを再利用しています。


南側の大開口は日射遮蔽と子供の転落防止を目的に格子戸をつけています。
のどかな風景と既存の瓦屋根に似合うよう、建具屋さんに木製の格子戸をつくっていただきました。


開口部は樹脂サッシのLow-e複層ガラス、外壁は一番断面の大きい150角柱に合わせて厚さ150の高性能グラスウール20Kを充填しています。
床は外気に接していないので無断熱でも良かったのですが、1階への音漏れを考慮し、嵩上げした空間に吸音用のグラスウールを充填しています。


グラスウールを充填後、気密シートを張り、壁内結露防止と気密性の確保をしています。


設計値ではH28年基準を下回りBEI=0.76、等級5となりましたが、実測をしてみると132.8GJと設計値を大幅に上回っていました。
これは建物1棟で2棟分の設備を導入していることが主な原因だと考えられますが、冷暖房器具の使い方や暮らしの工夫でもう少し減らせそうなので、今後は室温の実測や住まい手へヒアリング・アドバイスを重ねていきたいと思います。


  レーダーチャート

劣化、防火、バリアフリーはほとんど変わらず、省エネ性能は実測値で評価しており、2世帯住宅評点としては低くなっていますが、耐震性能・断熱性能がプラスアルファで強化ができています。
また数値には表れないですが、土壁の減量や水平構面の確保、気密性能の向上を図ることができたことも良かったと思います。

2020 befor after


改修前の外観です。駐車場のある西側はちょうど下屋がついておらず、無理なく2階へのアプローチを新設できました。


改修後の外観。写真左手側(西側)に屋根付きのアプローチを新設し、子世帯の玄関+物干しスペースとなっています。


玄関は1畳ほどと最小限のサイズですが、隠せる収納をしっかり設けて、すっきり使えるようにしました。■ ■

玄関入ってすぐのホールに手洗い台を設けています。トイレの手洗いですが、来客時にも対応しやすいです。


キッチンからリビングダイニング・子供スペースを見た様子。勾配天井とし、既存の小屋梁を見せています。


子供スペースからLD側を見た様子。
LDとキッチンの間にカウンターを設けて、リビングダイニング側からキッチンの手元が丸見えないならないように配慮しています。床面積はコンパクトですが、作り付けの収納を設けることで、しっかりと収納量を確保しています。


トイレの壁には桧板を張っています。■トイレの壁には桧板を張っています。■トイレの壁には桧を貼っています。

洗面脱衣室から写真奥のWIC・寝室へつながる動線を確保することで、身支度や衣類の出し入れをし易いよう工夫しています。

 

まとめ

「新築を建てたい」という話から始まった今回のプロジェクト。
最終的には2世帯住宅という選択を受け入れてもらうことで、将来的に空き家になってしまう可能性の高かったご実家を住み継いでもらうことができました。
また新築を建てるよりも少ない借入で、経済的な負担を減らしつつも満足してもらうリフォームをすることができ、結果としては新築よりもメリットはたくさんあったと感じています。
今回のプロジェクトを通じて、リフォームは金銭的な不安も大きくなりやすいですが、耐震性能・断熱性能、資金計画をグラフや数値で明確に示すことで施主に納得してもらいやすいことを実感。改修工事中の写真や竣工図面・診断レポートの保存は将来的なリフォームやメンテナンスにおいて大変重要であることを再認識しました。
今後は住宅医の知識・経験を生かして、「新築が当たり前」という認識から「今ある物を有効活用するリフォーム」という選択肢が増え、空き家が少しでも減っていくような提案ができるよう努めて参りたいと思います。


【関連情報】
・住宅医が手掛けた改修事例の動画を集めたページ「住宅医の仕事紹介(オンライン)」 https://sapj.or.jp/movielist/
・中島あゆみさん「住み継ぐ家の変遷 ~旧徳山の家・2世帯住宅という選択~」 (動画・音声) https://www.youtube.com/watch?v=y2unuh8u04Y