住宅医の改修事例No.0129 〜府中の家の実践事例

豊田 保之( 住宅医協会理事・住宅医 トヨダヤスシ建築設計事務所 

トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田です。今回、2021年末に完成した「府中の家」の区画断熱改修の実践事例を紹介します。この事例の特徴は、以下の 3つです。

  1. 住宅医のインスペクションを行い、調査結果の見える化を行った。
  2. 大きな家に一人で住むのに全面改修はいらないので、1 階を中心に区画断熱改修した。
  3. 木の家は木で、土壁の家は土で治すことに取り組んだ。

3つのポイントを中心に、調査から改修に至るまでの流れと事例をご紹介します。

改修の目的

改修の目的は、耐震補強とバリアフリーに加え、高齢者が快適に過ごせるように家を治してほしいという依頼でした。上図の左が最初に行った提案です。その後、ご予算や日々の過ごし方や今後の家族数などの話をしていくと、右図のように移り変わっていき、最終的に、1階と2階階段(トイレ含む)までを区画断熱し改修することとなりました。

 

住宅医のインスペクション

当事務所で行っている住宅医のインスペクションとは、リフォームを行う前提とした前段階の調査です。

既存建物の調査は、設計者3人と職人1人の計4人で行いました。住宅医の調査項目(当事務所設定)である、劣化、耐震、断熱、防火、バリアフリー、維持管理の6項目を調査しています。写真は、小屋裏ですが、鎌継手が少し外れかけているのがわかりました。含水率は、野地板面を全体的に計測しましたが、特に大きな異常はないようでした。

 

床下調査です。床下は、階段下の基礎にクラックが少し入っていたぐらいで、蟻害腐朽などは見受けられませんでした。一部、応接室の床付近だけ調査ができなかったので、未調査範囲として記録に残しています。ここは解体後の再調査を行います。

 

柱の傾きを調査しました。柱が大きく傾いていると、構造的な問題があるかもしれないので要注意です。結果は、1階は 6㎜ 以上の傾きが 1か所、2階は 6㎜ 以上の傾きが 2か所でした。測定をした数量に比べると、6㎜以上傾いている柱はわずかだったので、構造体は比較的しっかりした建物のようでした。

 

断熱仕様の確認です。小屋裏と床下には、断熱材が充填されていませんでした。壁は土壁のみです。窓は、アルミサッシにシングルガラスでした。昨今、住宅で使われている高性能な断熱材や窓ではないため、冬期の最低室温は 4~6 度程度(実測)でした。この土地は、7地域なので、比較的温暖な地域です。

 

1階だけを区画断熱し改修する

断熱区画をする場合、2階建ての 1階天井に断熱材を充填するのが適切なのか、それとも、断熱充填しなくても性能があがるのか、又、性能がどの程度上がるのか、色々わからないことが多いので、3つのパターンを検討しました。

左が、今回実践した、1階天井に断熱材を充填する場合
真ん中が、1階天井に断熱材を充填しない場合
右が、2階天井に断熱材を充填した場合(1階天井は断熱材なし)

結果は、上図の通り、1階天井に断熱材を充填する場合が、一番性能値が高くなり、熱損失を減らせるということがわかりました。ただ、2階に家族が常時滞在しているかどうかによっても、この判断や結果が変わるので、数値だけで判断するのではなく、住まい手としっかり生活スタイルについて話をすることが重要です。

 

断熱材を、区画ラインが途切れないように施工していきます。
結果は、Q*値が 1.44W/㎡K なので、1.44 × 区画床面積140㎡ × 内外温度差20度  計4032W の熱をつくれば、室温20度を維持できることになります。ざっくりした計算ですが、住まい手に説明をする際にはとても便利です。

 

木の家は木で、土壁の家は土で治すことに取り組んだ事例。

この家は、1階 2階ともに土壁の家ですが、土壁を生かそうと思っても、解体時に壊れてしまうことがあり、なかなか有効に治すことができません。そこで、既存土壁の上に、木小舞を取り付け、新たな土壁をつくる方法を採用しました。これであれば、既存の土壁が多少ボロボロしていても大丈夫です。

木小舞に荒土を塗ります。隙間は 21㎜ 程度あけ、荒土が隙間からはみ出るように塗っていきます。荒土が乾燥すれば、次は、砂が入った中塗り土を塗ります。その上から、仕上をして完成です。

木小舞下地の土壁をつくる場合のポイントは、「木小舞には必ず荒壁(荒土)を塗る!」ということです。法隆寺の土壁も桧の木舞壁ですが、きちんと荒土が塗られています。荒土を省略すると工程が 1段階減るので安価に収まるのですが、剥がれの原因になることも。どうやら、砂が入っていることで粘土質が弱くなることが原因のようでした。やはり、昔ながらの造り方を忠実に実践しておく方がよいようです。

 

BEFORE・AFTER

改修前と改修後を紹介します。

広縁をリビングと一体化させ、ウッドデッキを設けることで、庭と繋がる暮らしに変えました。
既存の樹木や灯篭を生かし、外観も旧家の趣きを残す形で改修としています。

 

バリアフリーとし、車いすでも家族と集える陽だまりリビングとしました。
以前は、カーテンを閉めっぱなしで物置と化していた広縁が、くつろげる居場所になりました。左の窓は、気密化した現場製作の木製建具を採用。ハニカムブラインドを併用しています。

 

昔の記憶を呼び戻せるように、座敷は以前のしつらえを維持しつつ、断熱改修を行っています。
床の間と仏間などはそのまま残しました。天井は一度撤去し、赤身無垢杉の竿縁天井としています。

 

お風呂は、広さと段差を改善しました。ハーフバスとし、壁はタイル張り、天井は桧本実板張りにやりかえています。洗面台は、車いすでも使用できるように配慮しています。

 

昔の広縁は、カーテンが締めっぱなしでせっかくの庭も楽しみにくい状態でした。
デッキを設け、木製建具にやりかえし、リビングとデッキ~庭への行き来をしやすくしました。同時に格子戸を設けて、通風と日射遮蔽、防犯対策を行っています。

 

あまり使われていない応接室を、ダイニングキッチンとし真壁風にやり替えました。
天井は、吉野杉の赤身上小節。床は国産栗フローリング。梁や柱は吉野杉としています。右手の壁は、既存土壁の上から木小舞土塗りをしています。

 

まとめ

住まい手は、木と土壁の家をリフォームしようと、ハウスメーカーに提案してもらったそうですが何だかピンとこなかったとのこと。その後、私達が、家を詳細に調査し、木と土壁を活かす提案をしたことが依頼の契機になったそうです。
ちょうど同じタイミングで別の住まい手からもこういった相談を受けたのですが、どのハウスメーカーも床下や小屋裏を確認せず、見積と図面がでてきていたことに驚いたそうです。私達が詳細調査に行き、点検口の位置を確認したことで初めて気が付いたとのこと。
こうしたことから、大切な家を、床下から小屋裏まで全て調べてくれて、適切な診断をし、治療をしてくれる実務者を必要としているのは確かのようです。まずは、人間ドックと同じように、家の状況を把握するのが先決で、そこで信頼を得てからリフォームへと進むことが、今後、必要不可欠になる時代が来るのだろうと考えています。

豊田保之
©Toyoda Yasushi , jutakui


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