住宅医の改修事例№105 次世代へ引き継ぐスケルトン改修~明るくモダンな住宅へ

山川晴子(加藤)住宅医/ひばり設計工房

神奈川県横浜市にある、昭和56年に築造された木造の住宅を骨組を残して、今後子供や孫に引き継ぐ住宅とする事を念頭に置いた改修工事です。
骨組みをスケルトンにして全面改装をし、1部増築をしました。
 

計画概要

建築主からの要望は主に6項目ありました。
① 耐震対策・高断熱対策をしたい
② 1階を広々としたい
③ 台所は対面式とし、前にカウンターを設け、食卓テーブルとして使いたい
④ 和室は設けず、居間のコーナーに小上がりのタタミスペースが欲しい
⑤ 2階の間取りは気に入っているので変えないでほしい
⑥ 金物もあり、構造はしっかりしているので、改装工事としたい

<DATA>
敷地面積/140.69㎡( 42.55坪)
建築面積/ 57.05㎡( 17.25坪)
延床面積/107.89㎡( 32.63坪)
1階□□/ 57.05㎡( 17.25坪)
2階□□/ 50.84㎡( 15.38坪)
構  造/木造軸組工法
規  模/地上2階
所 在 地/神奈川県横浜市
用途地域/第一種住居地域
防  火/準防火
家族構成/夫婦
建築年代/昭和56年(1981年)
改装工事/2018年12月~2019年5月

 

建物調査

外観に大きな劣化はありませんでしたが、部分的に基礎・土台の劣化がみられました。
また、門扉から玄関までが狭くて飛び石の上を歩くため、アプローチのしにくさを感じました。

現況の外観  
 
基礎に軽微なひびわれ 門扉から玄関までの飛び石

 

改修計画

敷地の特徴として、敷地が路地状敷地で、南西からのアプローチと北側通路がありました。北側通路は勝手口と結びつけ、二方向路としています。
プランは、要望にもありましたように1階に人が集まる大きな居間・食堂をとりました。
また、台所は対面式に変更して、居間の奥にタタミの小上がりスペースを設けました。

<改修前 1階>
<改修後 1階>

2階へは階段の位置を変え、ゆるやかな勾配に架け替えています。
新たにトイレ・洗面コーナー・クローゼットを設けました。

<改修前 2階>
<改修後 2階>

 
 
レーダーチャート
改修後に現況と比較してどの程度各項目が変化したかをあらわすグラフです。青色が改修後であり、各項目とも向上できました。
 

<主な改善点>
劣化対策(耐久性):基礎はベタ基礎を打設、耐候性のある材料の仕様
耐震性:金物の取り換え・筋交い等による補強
断熱性:断熱材の吹付・全サッシLow-E複層ガラスに交換
省エネルギー性:省エネルギー性の高い設備機器の導入
バリアフリー性:通路・水廻り・階段をゆるやかに架け替え・段差の解消
火災時の安全性:バルコニーを含めた2方向避難の確保・玄関を広くした

 
今回は骨組みを残しただけの全面改装であるため、構造上の安全性を高めたことから耐震性が向上し、断熱に関しては全面に新規断熱材を設けたので、十分に効果が期待できるものとなりました。
現況調査をしてみると、生活する上でのバリアフリー性の問題点が浮き彫りになり、プラン変更によって快適な空間にできたことが良かったと思います。
 

改修内容

【耐震性 構造補強】
方 針
建築主より建てた当初の話を聞き、構造(金物)がしっかりしているので、既存の構造材を活かし、改装工事で考えたいとの話がありました。
これから何十年ももつ住宅を作りたいので、耐震性を高める工事を進めました。
工事中の問題点が2点あり、梁の羽子板ボルトにさび、ゆるみが見られたこと、また地盤の不同沈下により、土台の高さに最大40㎜Hの違いがありました。不同沈下については、築36年たっている事、今回ベタ基礎を打設した事により、これ以上の沈下はないものと考えられます。
金物の補強策として、以下の対策を行いました。
・筋交いは全て新しくし、アンカーボルトは状況により使えるものは使う。
・N値計算により、引抜力が大きいところにはHD金物を追加。
・さびやゆるみが見られた梁の羽子板ボルトは全て新しくした。
・改装に応じて、既存の梁の下にササエ梁による補強をし、金物にて接合した。
・吹付の断熱材を使用したため、外壁をt=9合板張りとし、強度を高めた。
・上部構造評点は、1.0以上とする。

工事中の写真です。【現況】解体後の骨組み 寄せ棟屋根




土台と柱の補強 アンカーボルト交換およびホールダウン金物 20KN 同等の金物(写真C)
既存基礎を貫通する配筋(写真A) 増築部コンクリート打設(写真B)
【現況】2階床梁
羽子板ボルトが確認できたが、さびやゆるみが見られたので、交換
既存梁の補強
既存梁に新設梁が取付く箇所は、梁受け金物にて接合継手は全て短冊金物にて補強(写真D)
海に近いため、耐風対策としてタル木ピッチを細かくし、ひねり金物にて接合(写真E)

 


基礎は、布基礎からベタ基礎にし、配筋は既存の布基礎を貫入させて緊結しています。
既存の床下換気口は、床下の湿気を逃すため活かして利用し、新設部は基礎パッキンを敷設しました。
土台のアンカーボルトは活かし、引抜力が大きくなる箇所は、ケミカルアンカーにてアンカーボルトを追加しました。

 
 

 
 

 
 


上部構造 評価
<改修前>総合評価0.72

2階は壁量が充分にあり評点1.0以上だが、1階の壁量が足りず、総合評価は0.72。
偏心については、1・2階共にX方向の偏心がありました。

<改修後>総合評価1.19

1・2階ともに1.0以上確保し、総合評価は1.19と向上した。
偏心についても配置の数値が1.0となり、バランスの良い建物となりました。


【断熱性 断熱材】
断熱材は、発泡ウレタンA種3を屋根に150mm、外壁面に75mm、床下はウレタンフォームを30mm施工しました。

外壁の断熱材施工状況 天井は野地板との間に通気層を取り、断熱材吹付
発泡ウレタンA種3としましたが、結露や断熱性能向上のため、
より高性能な断熱材を検討すべきであったと思います。
結露防止の対策として、外壁は通気壁工法としており、屋根は野
地板と間に通気層をとっています。
UA値は、1.27(W/㎡K)から0.62(W/㎡K)に、Q値は、4.72(W/㎡K)から2.53(W/㎡K)に、断熱性能は改善されました。

 
 

完成写真・考察

スケルトン改修のため、耐震性・断熱性・バリアフリー性を大幅に向上することができました。
特に動線の整理、広さの確保、新規の設備設置等によりバリアフリー性が改善しているため、依頼主からは安心して過ごすことができると喜んで頂けました。
改装前と比べて、夏は涼しく、冬は暖かくなり、快適さに大変満足されています。健康で末永くお住まいになられることを設計・施工者一同願うところです。

屋根は寄せ棟屋根から片流れ屋根に変更し、
南側の採光・通風を確保しました。




現況の外観

 

1階居間 奥が小上がりのタタミスペース
南面の窓を天井いっぱいまで高くし、陽光を室内に取り入れています。
 

1階台所
対面式キッチンの前に食卓テーブルを造作しています。
 

1階居間のコーナーにあるタタミスペース
下部は引き出し収納としています。
 

玄関
空間にゆとりができ、式台より楽に上がる事ができます。
 
 

2階寝室
天井が高く開放的な寝室となり、高窓からも
陽光を確保しています。
既存梁は、あらわし+塗装としました。




既存の松の丸太梁(解体時)


南側の庭を楽しむテラス
アプローチ部分と一体の土間コンクリートを打ち、歩きやすくしました。