「住まいの空気環境を見直そう」 ~住宅医リレーコラム2020年11月
辻充孝( 岐阜県立森林文化アカデミー准教授 )
住まいの中で最重要に考える部屋はどこ?
新型コロナウイルス感染症の影響で在宅ワークが増え、家にいる時間が長くなってきた人も多いのではないでしょうか。これを機に住まいの環境(熱と空気)を再度考えてみましょう。
さて、みなさんは、住まいで一番大切にしたい空間はどこですか。
家族が集まるリビング?
それとも子供室?
もちろん、それらも大切ですが私は寝室が最重要と考えています。
写真:近作である近江八幡の家の寝室
(HEAT20G2相当の断熱性能に、調湿、防音に優れた土壁+珪藻土の内装、2方位からの昼光利用と、他の部屋よりグレードを上げて計画)
寝室の室内環境の重要性
日本人の平均睡眠時間は7.6時間です。※1
食事や団欒の時間を含めると、多くの人は12時間以上家にいることになります。
在宅ワークならもっと増えます。つまり人は人生の半分以上を家で過ごし、しかもその大半を寝室で過ごしているのです。ここからも室内環境、特に寝室の重要性がわかります。
寝室での睡眠は一日の疲れをとり、心身ともに回復させる機能を担う必要があります。
睡眠中は意識がないので住まい手自身がコントロールできないため、温湿度環境や空気質などの室内環境をしっかり整えないといけません。
人と建築の関係を考えるドイツのバウビオロギー(建築生物学)は、私の建築を考える原点の一つですが、ここでも安静領域における指針値(SBM2015)が示されています。
https://baubiologie.de/downloads/sbm-2015-japanisch.pdf
この中で寝室における放射性物質や電磁波、有害化学物質、汚染物質、室内環境(温度、湿度、CO2など)の指針が定められています。
※1 総務省の社会生活基本調査(2016年)の全国の平均睡眠時間(10歳以上,土日を含む週全体の平均)より
空気質に気をつかう
食べ物や飲み物などの健康食に気を遣っている人も多いと思いますが、吸い込んでいる空気に関してはどうでしょうか。
実は、私たちは呼吸によって1日に12~24kg(10~20m3)の大量の空気を身体に取り込んでいます。食物や飲料は通常2~3kgなので、空気は10倍近くも多く接種していることになります。
しかも食物は消化器官を経由して肝臓で解毒されるのに対し、空気は肺から直接血液中に取り込まれ脳や各組織に運ばれるため、人体への影響が大きいとされています。
汚れた室内の空気は、髪の毛や衣服からの繊維くず、ダニの死骸などのハウスダストが塵埃となって空気中を浮遊し、カビや細菌、ウイルスなどが付着しています。
つまり、清浄な空気で暮らすことはとても大切なのです。
高齢者の住まいはより暖かく(最低でも18℃以上)
冷え切った寝室での起床時や、脱衣を伴う入浴時など、温度差によってヒートショックが多く発生しています。脱衣所は事前の暖房で回避できますが、起床時はどうにもなりません。ここでも寝室の大切さがあります。
私も委員として関わっているスマートウェルネス住宅調査※2から、健康に大きく影響する血圧と起床時の室温の関係がわかってきました。(図)
例えば冬の起床時の室温が、20℃から10℃に下がると血圧が上がります。30歳では4.5mmHg、60歳では8.5mmHg、80歳では11.2mmHg高くなることがわかりました。高血圧リスクの高い高齢者において室温の影響は特に顕著です。
また、低温な住まいでは循環器・呼吸器系疾患患者が多く、新型コロナ感染症を重症化させる可能性があります。
家が寒い場合は断熱改修がお勧めですが、改修が難しい場合は暖房設備でしっかり暖めましょう。
省エネより健康の方が大切です。
室温の目安としては、世界保健機構(WHO)は、2018年に冬期の健康を守るための室温として、最低でも全室「18℃以上」あるべきという強い勧告を出しました。小児や高齢者にはさらに高い21℃の室温が推奨されています。
※スマートウェルネス住宅等推進調査委員会は医療福祉系及び建築系の専門家で構成され、約2000軒、4000人を対象として、改修前後における血圧や活動量等、健康への影響を検証した。(2014~2018年度)
実測のすすめ
まずは、温湿度やCO2などを計測できる空気質モニターを設置して、みなさん自身が日常体験と空気質を関係づけることが大切です。(ネットショッピングで「空気質モニター」を検索すると5,000円程度から購入できます。)
寝室やリビングに設置して、記録をつけてみましょう。
閉め切った寝室で寝ていると明け方にはかなり空気が汚れていることに気づくことがあると思いますよ。
もし、数値が悪い場合は、暮らし方や建築の作り方でどんな工夫ができるか考えてみましょう。
空気質の参考値
辻 充孝
森林文化アカデミー 准教授・一級建築士・バウビオローゲBIJ
96 年に大阪芸術大学建築学科を卒業後、Ms建築設計事務所で5年間の実務経験を経て2001 年から現職。建築計画、温熱環境の研究、講座を受けもつと同時に、木造住宅や木造建築の設計に携わる。スマートウェルネス住宅等推進調査事業委員、環境共生住宅推進協議会パッシブデザイン検討委員。2020年6月号~建築知識で「無理しないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を連載中。