住宅医の改修事例~花火の住処改修実績報告No.0139
松田祐光(住宅医 / ㈱生空感/生空感建築研究所 / 茨城県)
改修前
住まい手は1978年(昭和53年旧耐震)で建てられた大型開発団地内にある建売住宅を購入。
一時、仕事の都合上、東京都内に居住していましたが、退職とともに快適な老後生活をするために、夫婦とも65歳からの住まい方として年金生活ができる範囲で20年以上住み続けられる自宅リノベーションに着手する。「花火の住処」は、夏の終わり9月に神社で上がる奉納花火が、見えることから、2階西面に大きな窓を設置し、家の顔としています。
耐震断熱バリアフリー改修するとともに、2階の一部を吹抜けとして減床し、M10ステンブレース(2本)で床全面補強を行っています。LDの開放度を高めることで以前のスタイルとは違う空間としています。
洗面・脱衣・トイレを一室として居間と寝室を繋げないプランとなっています。優先順位一番であった耐震については、上部構造評点1.0以上を確保するとともに、保険として制震装置を入れています。
設計方針
1.前提(ご要望)
・改修により20年ここで生活できること
・年金生活で暮らしていけるように総予算が設計費込みで1,500万円(税込)未満
・足が延ばせる浴槽としてほしい
・優先順位1番は耐震
2.計画
・限られたスペースであったため廊下をなくし一室空間とする事で多様な生活に対応
3.デザイン
・施主はデザインのプロでもあり、ご要望は外観内観とも「白」が基本であること、
・建物イメージは「白雪姫の棺(ブラウン:SK4(1956))」のイメージ
4.耐震
・筋かいを追加。強化することで評点を上げる
・上部構造評点1.00(一般診断法)を目標とする
一般耐震診断調査
一般耐震診断調査日:2017年3月17日
建物西側 |
建物西側 |
建物は塗装などのメンテナンスがされていなかった |
基礎 水じみ |
外部 バルコニー撤去後 |
基礎のクラック |
基礎 鉄筋調査 |
床下 (左:金物カスガイ、右:水じみ) |
浴室 |
和室 |
小屋裏 |
調査について
リノベーション前提での建物調査は、小屋裏および床下、外観や設備機器などについては目視調査を実施。
解体工事の際に壁内などの事前調査では確認できなかった範囲について追加調査を行った。床下断熱材無、天井断熱材無、壁断熱材有。
1・2階とも室内での雨浸み等は確認できなかったが、DKの床下点検口から覗くかぎり漏水の可能性がある。浴室壁面や床面にひび割れは確認できなかったが、外部基礎コンクリートに雨染みが確認できた。
解体時
建物の劣化と構造を再確認 |
建物の臭い対策としてem菌を使用 |
em菌散布 |
em菌散布 |
劣化部と構造の確認 既存筋交を残す |
根太、大引きを新設 |
解体終了時 活性液を10倍に薄め噴霧
活性液(EM菌)は自然界に存在する有用な微生物 (人体に安全な微生物の集合体) 善玉菌の集まりです。
薬剤を散布するような一網打尽に殺菌、殺虫をするのではなくて善玉菌の密度を高めることで 悪玉菌の発生、繁殖を防いだり、抑えたりする方法です。
解体時、建物内のカビの臭いが洋服につくほどきついこともあり、施主に提案し実験的に活性液噴霧を試みることにしました。その結果効果は絶大で噴霧直後からカビの臭いが抑えられました。噴霧直後に訪れた現場監督がすぐに、臭くないと驚いていました。
施工写真
耐震金物設置 |
耐震金物設置 |
耐震金物設置 |
制震装置設置 |
断熱材施⼯ 天井:GW165K 155㎜ 壁:GW165K 90㎜ 床:3種bA 60㎜ |
下地材施⼯ 壁・天井:PB12.5㎜ |
改修前後の比較
階段の向きを変更、2階は減築でも良いとのご要望であったが予算上、吹抜けを提案し南側にデッキと庇を作り、デッキより出入りする。
赤:使い勝手の悪かった部屋の検討
青:水まわりの検討(ユニットバス・トイレ・洗面・洗濯機)
ー 耐震について
内部床・壁・天井スケルトン改修としていることから、柱脚⾦物はN値計算により全ての柱に⾦物補強を⾏っている。
既存筋交いも残し併⽤しているが、筋かい⾦物補強を⾏っている。
減床した吹抜部分にはブレース(コボット)補強を⾏っている。
屋根は⽡から⾦属へ吹き替えを⾏っている。
上部構造評点は 改修前0.73 → 改修後1.03に改善した。
ー 温熱について
既存調査では、壁以外に断熱材がなかったことを確認。
内部床・壁・天井スケルトン改修としていることから 1F床下地は全て撤去し構造合板張りとして再設置し床断熱施⼯を⾏っている。
壁は充填断熱を⾏っている。 天井断熱を⾏っている。
UA値(w/㎡ K)改修前 等級 1 → 改修後 等級 4
2F吹抜け部に窓を設けることで、LDKの奥まで陽が⼊るようにしている。
1F LDK 前にはベランダ撤去の代わりに、⼤きな庇を設置している。
改修実績 レーダーチャート
竣工写真
まとめ 苦労工夫など
工務店との見積り調整にとても苦労した。室内解体時の再調査で見つかった浴室・洗面の外壁面 下地腐食と、バルコニーと外壁の取付部から雨進入と思われる痕跡があり、バルコニーを撤去した外側に白アリ被害中が見つかり追加工事が発生した。
屋根瓦は全て下すなど予算調整が難航しましたが、屋根を軽くすることで、目標点の一般診断1.0以上の補強計画ができました。コスト調整に設計時間を取られ工程上遅延が発生しました。
改修工事では、C値 2.0未満になる施工を意識して設計を行い気密測定実施を標準とし、断熱性能は等級5以上を目指すことで改修後の不動産価値を上げています。
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花火の住処改修実績報告No.0139
<改修設計・監理> ㈱生空感 /生空感建築研究所 松田祐光
松田祐光
©Mazda Yuko , jutakui
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㈱生空感 / 生空感建築研究所 http://seikookan.jp/