改めて、耐震診断と壁量計算の違いを確認。|住宅医リレーコラム2023年2月|

 

河本 和義一級建築士事務所TE-DOK代表 / 住宅医協会理事・住宅医 / 岐阜県

木造住宅の耐震補強の評価方法として、一般的には新築を対象とした壁量計算(N値計算、4分割法含む)と、既存建物を対象とした耐震診断法があります。今回は、改めてこの違いについて確認したいと思います。
最初に、耐震診断と壁量計算の根本的な違い(考え方の違い)として、私は以下のように考えています。
壁量計算は、新築を対象としているので、仕様規定に従っていないと NG、従っていない場合はすべてゼロカウント。当然、仕様規定すべてを満たす必要がありますが、例えば、ある耐力壁の柱脚にN値計算で求まった必要な金物を設置しなかった場合(必要な金物より耐力の小さい金物をつけた場合やその金物の使い方を間違っている場合なども含まれる)は、この耐力壁はゼロ、ないものとして扱う必要があります。
一方、耐震診断においては、当然、必要な金物を設置すれば、耐力壁の性能が十分発揮できるとして扱えるが、必要な金物が設置できなかった場合にも、ゼロカウントではなく、元の性能を低減してカウントしてよいということになっています。つまり、基準法上における仕様は守っていないので、新築ですれば NG(ゼロカウント)だが、耐震補強においては、救済措置として、基準は守れていないが、守れていないながらに、今ある現状の性能をできるだけ評価するといった考え方となっていると言えます。よって、例えば、壁の配置バランスが悪い場合も悪いなりに評価でき、基礎が脆弱であっても(無筋基礎など)、脆弱なりに評価できるようになっています。
このように、ベースの部分で考え方が異なる前提で、色々な違いを考えていきたいと思います。

耐風性能

壁量計算では、耐震と耐風の2つの基準から検討することになっていますので、当然、壁量計算を行えば耐風性能を確認することができます。一方、耐震診断はあくまで、耐震性能についての検討であるため、耐震診断をして耐震性能確認できていても、耐風性能を確認していることにはなりません。例えば、壁量計算において、細長い建物の場合、耐震と耐風で必要壁量が耐風の方が多く必要となる場合などがあります。また、壁量計算では検討できませんが構造計算を行った場合に、屋根が非常に軽い建物の場合、耐風の方が厳しくなる場合などもあることを意識しておく必要があります。

耐震性能

一般的に耐震性能には、中地震で損傷しない、大地震で倒壊しないという2つの性能基準があります。壁量計算では、その計算体系から壁量計算を行うことにより、中地震での損傷防止の検討をすることにより、二次的に大地震での倒壊防止の検討を行ったことになり、2つの性能基準を満たすことになります。一方、耐震診断では、「大地震動での倒壊の可能性に関しての診断」と位置づけられています。また、「補強にあたっては、中地震による損傷防止などについても、配慮を求めることとする」と記載されていることからも、大地震時での倒壊防止の性能を確認していることになります。つまり、中地震時における損傷防止の性能については確認したことにはならないということになります。実際には、二次的にある程度担保されていると考えてよいですが、定義としてはこのようになりますので、注意が必要です。従って、耐震診断で評点1.0の性能と、建築基準法の等級1(壁量計算)は同等性能かというとそういった点においては、厳密には異なることになります。

建物重量の設定(1)

壁量計算では、耐震性能を確認する際に、「重い屋根の建物」と「軽い屋根の建物」の2つに分けて検討を行います。一方、耐震診断においては、「非常に重い建物」「重い建物」「軽い建物」の3つに分けられています。これは地震力が建物重量に比例するため、同じ面積、同じ形の建物でも建物重量(特に階高の半分より上)が異なると地震力が異なるためです。よって、耐震診断の方が、細かく分類されており、より精度の高い計算を行っていると言えます。

建物重量の設定(2)

耐震診断では、建物の形状(短辺長さ)によって必要耐力を割り増しする基準もあります。細長い建物は床面積に対するケラバ・軒の出および壁の割合が増えるため、建物重量増加し地震力の増加につながるため、このような規定を設けています。

建物重量の設定(3)

耐震診断では、多雪区域において、積雪深に応じて、必要耐力を加算する規定となっています。実は、壁量計算において、在来軸組工法では、一般地域と多雪区域での係数の違いがありません。ツーバーフォーでは、一般地域と多雪区域で係数が異なります。これらは、多雪区域では屋根に雪が積もっている時にも地震が来る場合を想定して、雪の分、屋根が重たくなり、地震力の増加につながるため、このような規定を設けています。

必要壁量(壁量計算)、必要耐力(耐震診断)比較

壁量計算、耐震診断ともに、床面積に係数を掛けて、必要壁量、必要耐力を算出するため、基本的には同じ考え方です。床面積から建物の重量を仮定し、その建物重量により地震力を算出するためです。壁量と耐力の違いは、壁量=耐力/0.0196kN/cmの関係で、壁量は、多様な耐力壁仕様、多様な壁長さに対して計算しやすくしたものです。この関係を用いて、必要壁量(壁量計算)と必要耐力(耐震診断)を比較すると下表のようになります。

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ここから言えることは、

・壁量計算の係数より耐震診断の係数の方が大きい。
■■これは、品確法と同様に壁量に雑壁を含むため。
・耐震診断では、非常に重い建物のカテゴリーがあり、重い建物の1.5倍程度、係数が大きい。
■■耐震診断において、土葺き瓦の屋根や土壁の建物であるかどうかで大きく結果が異なる。そのため、耐震補強時に屋根を土葺き瓦から、桟瓦や板金屋根に変える効果が高いともいえる。また、他面から見ると、壁量計算を行う場合には、注意が必要といえる(壁量計算OK、耐震診断NGの場合が出てくる)。

また、耐震診断では、2階建てや 3階建ての建物については、1階と2階、2階と3階のボリュームの違いによって必要耐力の係数が異なります。これは、前掲の必要壁量は、総2階、総3階 を想定した係数であるため(壁量計算も同様)、1階と2階、2階と3階のボリュームの違いを実情に合わせて係数を調整しています。
※下階に比べ上階のボリュームが小さいと、上階が水平力に振られやすいためです。

耐力要素の配置による低減

壁量計算では、壁の量だけではなく、壁の配置についても検討する必要があります。4分割法や偏心率の計算です。4分割法では、4分割した両端において、両端それぞれの必要壁量に対する存在壁量の比率が1.0を超えているか、もしくは、その比率の比が0.5以上である必要があります。この検定により、建物内の壁がバランスよく配置されているかを確認できます。よって、この検定で NG となった場合は、OK となる計画に変更しなければなりません。偏心率も同様で、0.3以下にする必要があり、0.3を超える場合は、計画の変更をしなければなりません。一方、耐震診断においては、同じように、建物内の壁がバランスよく配置できているかを確認する必要がありますが、壁量計算と異なり、4分割法や偏心率の計算で前述の規定を守れない場合、どのくらい守れていないかによって低減係数を与えて評価することができます(バランスよく配置されていれば 10枚の壁が 10枚分効きますが、バランスが悪いと 10枚のうちのいくつ分しか効かないという計算、低減をします)。この点が壁量計算と耐震診断において異なります。

接合部(柱頭柱脚金物)、基礎、劣化による低減

接合部、基礎については、前述のように、壁量計算では NG(ゼロカウント)だが、耐震診断では低減を与えて評価できます。加えて、壁量計算にはない劣化の低減という概念が耐震診断には存在します。壁量計算は新築を対象としており、かつ、劣化を防ぐ対策をとることを前提としているため、劣化による低減を考慮する必要がありません(ちなみに、壁量計算で用いられる耐力壁の数値は、劣化による低減等を考慮した数値とされています)。一方、耐震診断においては、調査によって劣化事象が確認された場合には、低減をかけて評価します(劣化がなければ、10枚の壁が 10枚分効きますが、劣化があると、10枚の壁のうちのいくつ分しか効かないという計算、低減をします)。耐震診断の一般診断と精密診断で劣化の考慮の仕方は異なりますが、劣化による低減を行い評価します。

壁基準耐力と壁倍率

壁量計算では壁倍率を用いて壁量計算を行い、耐震診断においては、壁基準耐力を用いて診断を行います。前述のように、対象とする建物の床面積から建物重量を仮定し地震力を算出します。その地震力とこの壁倍率や壁基準耐力から算定した対象建物の耐震性能を比較することによって、壁量計算では基準をクリア、耐震診断では評点を出します。ここで扱う壁倍率と壁基準耐力は、同じようなものであって同じではありません。下表を見ると、壁基準耐力は、壁倍率(46条で規定される仕様)と少し異なり仕様が多く存在します。

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例えば、土壁の場合、壁倍率では厚みや構成部材の仕様が規定されていますが、壁基準耐力では、厚みごと、横架材まで達しているか否かによって、細かく数値が与えられています。壁基準耐力が示されている土壁がすべて、46条の壁倍率の仕様に適合しているかというと適合していないと言えます(ちなみに、土壁は以前は明確な仕様が示されておらず一律壁倍率 0.5倍でしたが、現在は、仕様により、1.5倍、1.0倍とあります)。同様に、筋かいについても、46条の壁倍率の仕様であれば、筋かい端部の接合は規定されていますが、壁基準耐力の場合は、接合方法が 2種示されています。このように、壁倍率は 46条の仕様を満たしている必要があり、当然、満たしていない場合はゼロカウントになります。一方、耐震診断における壁基準耐力は、46条の仕様を満たせはしていないが満たせないなりの評価をしていると言えます。
もう一つ、壁倍率と壁基準耐力の違いは、各仕様の数値の算出方法が異なることです。壁倍率、壁基準耐力とも実験により得られたデータから評価を行っていると言えます。木造は、規模的、耐力的に比較的実験ができることや、耐力の発現要素となるものの数が多く、複雑に関係しているため、それをまとめた形でその仕様で試験をすることにより、その仕様ごとに評価を行うことができること、木材は工業製品に比べて非常に強度(構造性能)のばらつきが大きいため、規定された数の試験を行うことによりそのばらつきを含めて評価できるためです。壁倍率や壁基準耐力は、実験で得られたデータからいくつかの数値を求め、それを評価します。細かい説明は割愛しますが、壁倍率では、大地震での倒壊防止、中地震での損傷防止といった観点からこの数値を評価します。一方、壁基準耐力は、大地震での倒壊防止の観点から数値を評価します。これが違いであり、前述①の理由になります。そのため、壁基準耐力を壁倍率に割り戻した際に、同じ仕様なのに、46条の壁倍率と壁基準耐力から壁倍率に割り戻したものが異なる理由です。ちなみに、一般的に、壁倍率 壁基準耐力 を割り戻した壁倍率となることから、新築に用いるメーカーの耐力壁などは、壁倍率を壁基準耐力に読み替えて算入することができます。

耐力壁試験 TE-DOK

このように、壁量計算と耐震診断、似ているようで違ったところがあります。比較することにより、壁量計算、耐震診断の良いところ、悪いところがわかり、かつ、木構造の体系、仕組みも改めて確認できたと思います。


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一級建築士事務所TE-DOK 


\\ 好評のため 河本先生過去記事をご紹介//
・改修のときに頭を悩ます梁や柱の断面欠損 | 住宅医リレーコラム2022年3月 | https://sapj.or.jp/column220310/
・昨年2月コラム「柱頭柱脚金物」の追記として | 住宅医リレーコラム2021年3月 | https://sapj.or.jp/column210310/
・「柱頭柱脚金物」 | 住宅医リレーコラム2020年2月 | https://sapj.or.jp/column200210/