ウッドショックの先に見えてきたものは何か?  DIYを考える |リレーコラム2022年4月|

鈴木 進 ( 住宅医協会理事特定非営利活動法人木の家だいすきの会代表理事 )

ウッドショックの先に見えてきたもの

2021年4月に始まった外材の輸入ストップというウッドショックは国産材の需給にも影響して木材価格と住宅建設費の高騰をもたらしました。その背景には欧州でCLT(直交集成材)需要が高まったため欧州材供給力の低下がありました。そこに、新型コロナウイルスの感染の拡大のためアメリカで在宅時間が増えたことから、自宅のDIY補修に取り組む人が増えて木材需要が高まり木材価格が高騰、輸出用コンテナの不足も重なって、これらが衝撃波となって世界的に波及しました。埼玉県木材協会会長のお話しでは、ウッドショックから1年が経ちその影響はいまだ収まらず、県内のプレカット事業者の受注残は2年先まであるという話しです。

ところで、アメリカ人がDIYに励む理由は、趣味もあるかもしれませんが、「売るときのことを考えて常に手入れを欠かさない」という経済的な動機があります。それは、アメリカ社会が職をもとめて移動性の高い社会のためです。2011年3月11日に発生した東日本大震災の時には “絆(きずな)” ということがあらためて注目されましたが、日本では地域コミュニティを大事に考えている人が多いのでアメリカのようには移動性の高い社会にはならないと思います。だとすると日本では住宅のDIYはそれほど広がらないでしょうか。現在は大きな社会変動の真っただ中にあると言われていますが、日本の住宅建築はどこに行くのでしょうか。その一つとしてDIYについて考えてみました。

DIY消費はなぜ第3の消費と言われるか?

宅配からスタートしたOisix(オイシックス)は、食材の単品宅配とは別に、料理に必要な食材をワンセットで買える「Kit Oisix」というサービスを提供しています。20分で主菜と副菜の2品が完成できる食材とレシピが宅配され、食材の無駄が生じず買物の時間も節約できるということで、独り暮らしの層を中心に人気を集めています。
古着を使って服をリメイクする腕を芸能人が競うというテレビ番組を見て、「かっこいい」「自分もやってみたい」と思う人は多いのではないかと思います。
マーケッティング分野の人たちは、もの消費、サービス消費につづく第3の消費形態としてDIY消費に注目しています。DIY消費の形態には消費者自身が生産・消費のプロセスに関わったり、商品・サービスの設計・デザインに関わるという要素があります。消費者がひと手間加えることによるオリジナリティの発揮、定期購入の仕組みと組み合わせて学習し習熟するという達成感なども付加価値とされています。

社会経済構造の変化は消費形態をかえる

「衣」「食」「住」は人の暮らしの3本の柱ですが、私は、「衣」「食」に続いて、「住」の分野についてもDIY消費は確実に進むと考えています。
「夫婦と子供数人」という「核家族化」は住宅づくりの在り方に多大な影響を及ぼしました。戦前の大家族制から核家族への移行は、「個人や自由・自立の尊重」といった戦後の価値観の変化に支えられて望ましいものとして日本社会で受け入れられたものです。しかし、その背景には農業社会から工業化社会へのさらなる高度化のため、居住地を移動しやすい家族形態として核家族化が求められるという戦後の社会経済的な構造変化があります。
今、私たちがいる社会は高度成長の工業化社会から、安定成長の情報化社会への移行・高度化の過程にあります。3年目に入る新型コロナ汚染でこの流れはさらに加速すると思われます。住宅は勤務地から解放され、リモートワークで居住地の選択肢は確実にあがりました。地方への移住を考える人は確実に増えています。
一方、経済の成長神話は未だ残像のようにありますが、若い人たちはかってのような経済成長は神話の世界と考えている人が多いように思えます。経済の成長段階ではインフレが進み、住宅ローンは借りる能力目いっぱいに借りても所得はどんどんあがり、住宅ローンの負担率はどんどん下がりました。しかし、現在は35年の住宅ローンを組むのはリストラのリスクを考えると危険と感じる若い人が多いのではないかと思ます。住宅の取得能力はここ20年以上頭打ちか、建築費の上昇などを考慮すると年々確実に下がっています。こうした社会経済状況の変化は一時的な変化ではなく、構造的な変化であると思います。

こうした社会経済構造の変化に対応したものとして、「衣」「食」の分野に続いて「住」においてもDIY消費は確実に進むのではないかというのが私の考えです。つまり、「DIY消費」は「核家族化」と同様に、「望まし変化」という価値観に支えられつつ「高度経済成長」から「安定経済成長」への転換という社会経済構造の変動に対応する流れに乗っているのではないかということです。端的に言えば、「住宅建築費を節約するためには、建て主ができることは建て主が自分でやらざるを得ない」ということとですが、それを「せざるをえないこと」ではなく、「望ましいこと」として世の中に受け入れられていくのではないでしょうか。その時、設計者のあり方も問われることになると思います。

「建て主参加の建具づくり」

DIY消費をどのように住宅づくりにおいて受け止めるか、ここ数年、木の家だいすきの会で取り組んできたプロジェクトをご紹介します。
一つは建て主がひと手間いれることで、世界に一つしかない「オンリーワン」の建具づくりのプロジェクトです。木の家だいすきの会では埼玉県ときがわ町産のスギを使用した家づくりに15年以上取り組んできましたが、ときがわ町は建具の町として有名で組子の建具づくりが継承されています。1年目(2020年)に取り組んだのは伝統的な組子の文様について、職人さんが指導しながら建て主のご家族が組子の組み立て作業を行い、それを使って玄関引き戸などの建具をつくりました。組子の文様は伝統的な文様を選んでいただき、建具のどの部分にどの程度配置するかというのは、建て主の方が描いたスケッチに沿って制作しました。2年目(2021年)は、現代的な家にも合う組子のパターンで建て主のオリジナリティを発揮しやすい組子の文様の開発を職人さんとデザイナーが協力して開発しました。伝統的な文様も現代的なデザインもともに建て主の方の満足度は高く、木の家の付加価値を上げるものとして手ごたえを感じています。

 

空き家のDIY改修のサポート事業

もう一つの取組は、「空き家のDIY改修のサポート事業」です。これは国土交通省の助成プロジェクトに応募して採択されたものです。地方への若い移住希望者は収入の不安定さもあってDIYで住まいの改修をしたいという意向が強いことを兼ねてより把握をしていました。この提案はSDGsをふまえたDIY改修プログラムを提供し、空き家を活用して移住をサポートする事業で、提案の柱は以下の3点からなります。

    1. 移住希望者が空き家の状態を購入する前に把握して安心して購入できるよう、空き家の調査診断手法、利用適合判定、必要な概算工事費に関する情報提供などの事業の仕組みを構築する。
    2. 素人の手によるDIY改修工事とプロの手による改修工事の役割分担の方法、住まい手が取り組めるDIY改修工事の内容とその技術研修プログラムを構築する。技術研修プログラムはSDGsの観点からカリキュラムを組み立てる。
    3. DIY修に関心のある人の資金と労力を結集した相互扶助的な仕組みを構築するため、DIY技術研修をリターンとするクラウドファンディングの仕組みづくりを図る。

今回の提案はビジネスモデルづくりを主眼に置き2年間の取り組みを提案しましたが、継続可能な事業の仕組みをつくるためにはもう数年はかかるかと考えています。

特定非営利活動法人木の家だいすきの会

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社会が求めるものを日々考えて

先日、建築分野で高名な秋野卓生弁護士の事務所をおたずねした時、「大手の企業は環境への取り組み姿勢で投資先を判断するESG投資対策を着々と進めていています。建設業界も生産や廃棄に関する対応をできることから取り掛かる必要があります。」と話されていました。私もその通りだと思います。建築に携わるものとして、今、社会が求めているものは何か、自分たちの存在意義は何か、そのことを肝に銘じながら日々の活動に取り組みたいと改めて感じました。