№0049〜大和高田のいえ
報告:広渡建築設計事務所 広渡早苗
ホームページ
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■設計監理:広渡建築設計事務所 広渡早苗
■施工:株式会社じょぶ
■工事場所:奈良県大和高田市
■設計期間:2010.12~2011.10
■工事期間:2011.11~2012.4
■建築年:昭和50年(改修時築36年)
■構造・規模:木造二階建て 延べ床面積 既設69.66㎡ 改修後78.98㎡
■概要
この物件は、ご両親が空き家となった隣家を古家付きで購入され、息子さん家族がその家をリフォームした例である。
他人が建てたうえに築年数も古くなった家を、いかにして「自分たちの住処」に近づけるかに心を砕いた。
振りかえってみれば、無機質なただの物体に、命を注ぎ込むような作業だったように感じている。
■改修内容
耐震性能を上げること、温熱環境をよくすることは確かに大事なのだが、例えて言うならその部分は住み手にとっては「自律神経」のように普段は特に意識することもなく当たり前にそこに存在しているものだと思う。
それに比べ、恐らく数値では図ることのできない、学問にもなり得ないような仔細な事柄が、実際には他にも山のように存在し、とても大切な 「設計者が考えなければいけないこと」 がそこには眠っていて、それを発掘するために日々奮闘している気がする。そういった事柄は、住み手と会ってすぐに答えが得られるものではなく、じっくりと時間を掛けて本当に信頼していただいてこそ、だんだんと見えてくるものなのではないだろうか。
今回、設計者だけがやみくもに突っ走るのではなく、施主側もどんな家が自分たちにとって合うのか、どんな暮らし方を自分たちは望んでいるのか・・・考え始めると堂々巡りになりそうなことがらを、子育てや仕事に忙しい中、本当に真剣にかんがえてくださったと思う。まさに施主と設計者の二人三脚でこの住宅は生れた。
■平面計画
元々、改修前のこの家に暮らしておられたわけではなかったため、当時暮らしておられたマンションを訪ね、聞きとりながら必要な機能を探っていった。
玄関の位置を変え、廊下などのスペースに工夫を凝らしながら、必要最小限の収納を取り、残りの空間を広々と使えるように建具なども全て新しく入れ替えた。建ぺい率に余裕があったため南側に少しだけ増築し、小さな子供さんがおられるので、南庭もデッキなどを設けて日常的に使いやすいように考えた。
■詳細調査
実は、詳細調査を行った2011年6月には、既に設計契約も結び、計画が進行していた。三澤文子先生より住宅医の科目履修を勧められ、非常に興味深くこの改修にもきっと役に立つと思い、施主に説明し納得していただいたうえで進めていった。そんな折にちょうど東日本大震災があり、もう一度全てのことを見直しながら、「本当に求められていること」を自問自答しながらの設計となった。
良かったことは、詳細調査時にはどなたもここで暮らしておられなかったので、ある程度建物を傷めることも許され、施主にご不便をおかけするのも最小限で済んだことである。
ただ、床下がかなり狭かったのだが調査のため潜ってもらい、担当の方にはご苦労を掛けてしまった。
■耐震改修
設計開始時、既に市の補助で耐震診断を受けておられ、その際の上部構造評点は0.31(倒壊する可能性が高い)であった。
今回、当初は「既存ドックシステム3」の補助金を受ける予定で進めており、上部構造評点は1.0(一応倒壊しない)以上とする必要があったが、結果的には1.08まで上げることができた。
構造補強の方針としては、築年数などを考慮し、細かな耐力壁をまんべんなく配置するような方法を取った。結果的には工期が条件に合わず補助金は断念したが、その分設計者なりのものさしで、施主の意向もかなり自由に取り入れながら進めることができ、良かったと思っている。
この建物の基礎は無筋の布基礎である可能性が高く、どのくらい補強が必要かによって予算配分が大きく変わる可能性があったが、幸いシュミットハンマーによる計測で最小値でも24.8N/m㎡(JAS規格15~21 N/m㎡)と十分な強度があり、ほっとした。
■おわりに
この住宅の最大の特徴は、設計者と施主との対話の多さではないかと思う。
一つ一つのことを、全て施主を巻き込んで進めることで、家を大切に思う気持ちも高まってくるのではないだろうか。
実はこの家の施主は設計者探しに大変苦労されたようで、リフォームの方が新築よりもずっと豊富な経験や知識が必要なはずなのに、まだまだ適切な依頼先の情報があまりにも少なく、今後少しずつでも改善されることを強く望んでいる。