備えあれば 憂いなし! [ 構造用合板を使用しない 斜め張り工法のススメ ] リレーコラム 2023年5月
鈴木 進(一般社団法人住宅医協会 理事 / 特定非営利活動法人木の家だいすきの会代表理事)
ウッドショックは遠のいたか?
■北米産の製材価格は 2021年 5月 364ドルからウッドショックの最高値時には 1,640ドルと約4倍まで高騰、その後 2023年 4月には 395ドルにまで下落しました。製材の主要産地であるカナダのブリティッシュコロンビア州の製材業では、工場の閉鎖、シフト削減などにより 3割の減産調整に入っており、ウッドショックの傷あとが報道されています。
■一方、日本では、国産針葉樹合板(910×1820×12㎜)の価格でみると、ウッドショック前に 1枚 1,200円(2021年 3月)だったものが、2022年 8月には 2,400円と 2倍まであがり、2023年 1月以降やや下げましたが、未だ 2,200円(2023年 3月)と約 1.8倍の高い水準にあります。杉正角材(120×120×3,000㎜)の価格は、68,000 円/㎥(2021年 3月)だったものが、2021年 9月に最高値の 139,000円/㎥と 2倍まであがり、その後 2023年 3月には 102,500円/㎥と約 1.5倍まで下げています。
■北米では建設物価の高騰や金利上昇から住宅需要が減退し木材の生産調整に入っていますが、日本では今後どのように推移するのでしょうか。構造用合板についていえば、売値が高いまま急激な出荷の落ち込みから在庫が前年同月比 2倍と急増しており、合板メーカー各社は危機感を強め大幅減産を実施しているとのことです。
■市況の動きについては、全く素人なので答えを持ち合わせていないのですが、設計・施工に携わるものとして、市況の変動に右往左往しないよう、影響を極力小さくするような対策は考えておく必要があるとかねがね考えています。
備えあれば憂いなし!
■化学物質過敏症が注目される中で、接着剤を使用した構造用合板をまったく使用しないで住宅をつくれないかと思い立ったのが、今からほぼ 10年前の 2013年でした。このテーマに関心のある設計者や工務店に声をかけ、職業能力開発大学校の松留教授、構造設計者の山辺豊彦氏に指導をお願いして研究会を立ち上げました。原寸模型をつくってせん断破壊試験を繰り返し、開発費を 1,000万円以上かけて 3年後の 2016年に斜め張り工法の実用化にこぎつけました。
■この斜め張り工法は、特に公表しているわけではないのですが、口コミなどで自然素材にこだわっている全国の工務店から年に数件問合せがあり、現在、実際に手掛ける工務店・設計事務所は計15 社になりました。
■構造用合板は住宅づくりの必須部材ですが、ウッドショックで 2倍に上がった価格はややさげたものの 2023年 3月現在で未だ高値のままです。昨年は、ウッドショックの影響で構造用合板の入手が極めて困難になったという理由で斜め張り工法を使いたいという問い合わせがくるようになりました。木の家だいすきの会 ではほぼ全ての住宅が斜め張り工法を採用していますが、構造用合板が入手できないために工事が影響をうけるということはまったくありませんでした。
構造用合板を使用しない斜め張り工法のススメ
■斜め張り工法のねらいは、地域で広く流通し、いつでも安価に入手可能な木材と地域工務店の施工技術を活かし、構造用合板を使用せずに、自然素材の良さを最大限に引き出した「木の家」をつくることにあります。
■斜め張り工法の 第1の特徴は、構造用合板を使用せずに 耐震等級2 または 3を確保できることです。斜め張り工法は、床については、2.7倍または 2.5倍の床倍率を実現しました。また、屋根については、構造用合板の 1.0倍を上回る 1.6倍または 1.5倍の屋根倍率を実現し、構造用合板を使用せずに 耐震等級2 または 3を確保することができます。
床組試験体 |
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図. 床組試験体の荷重・真のせん断変形角包絡線 |
■斜め張り工法の第 2 の特徴は、化学物質を使用しない、環境と人にやさしい技術です。構造用合板は、価格が安く便利な建材であるため、現在の住宅づくりでは不可欠となっていますが、以下のような問題が指摘されています。
- ・現在一般的に住宅に使用されているF☆☆☆☆ の構造用合板は面積制限なく使用することができるため、ホルムアルデヒド放散の不安を払拭できない。
- ・接着剤が湿気を通さないため内部結露の原因となる場合がある。
- ・規格が定まってから期間がたっていないため、実績に基づく長期の耐用年数は保証されていない。
斜め張り工法は、杉の無垢材を釘打ちした工法で、接着剤を一切使用していないため、ここに指摘された問題を回避することができる、環境と人にやさしい技術です。
表.構造用合板の JAS 規格基準値と表示記号(平成15年3月改正)
■斜め張り工法の施工実績が増えるにともない、具体的な課題が提起されています。こうした現場における工法の改善の芽となる課題をすくい上げて不断の改善を図ることが重要であり、質疑応答集の作成や、追加的な検証試験の実施など継続的な取組が大切と考えています。
( 鈴木 進 )
©Susumu Suzuki , Society of Architectural Pathologists Japan
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