№0014〜美濃町の家改修工事

森林文化アカデミー 辻充孝+手嶋尚人
■工事場所:岐阜県美濃市
■工事期間:2010年7月~2011年3月
■主要用途:専用住宅
■構造・規模:木造2階建て
■築年数:築約140年
■床面積:1階 101.36㎡(30.66坪)
2階 61.84㎡(18.71坪)
延床 163.20㎡(49.37坪)


概 要
岐阜県美濃市は伝統的建造物群保存地区に指定された”うだつの町並み”という非常に美しい街並みが残っている。
「美濃町の家」は、伝建地区から道を一本外れた通りに位置する。伝建地区から一歩出ると、
いろいろな助成や規制が外され混沌とした地域になることが多い。
事実、本建物周辺でも、伝建地区に匹敵する立派な家も残っているが、改修するにも助成が無いため、安易に建て替えが進み、
無機質な3階建の建物も目立ち、綺麗に整えられた伝建地区とその周辺地域の格差という問題点がみえてくる。
そこで、本改修のテーマは、適正なコストで、きちんとした改修のモデルケースとすることとした。


「美濃町の家」は1868年に新築され、1912につし部分を二階建てに建て増された建物である。
空き家となって40年近く経過しており、一部雨漏りも発生し、桁から通し柱にかけて腐朽が激しく進んでいる箇所も散見された。
森林文化アカデミーの学生を中心に詳細調査に入り、床下から小屋裏まで丁寧に現状の様子を調べ上げた。

地盤調査は外周部だけでなく建物中心部も計測し構造計画の基礎とした。
高齢者2人の住まいということで、建物全体163㎡を常に利用するという状況はヒアリングからも想定できず、要素によっては、部分改修として、工事費を予定金額に納めつつ、バランスを見ながら必要最小限の性能を満たす計画とした。
そこで、耐震改修と劣化改修は1、2階を含む家全体で考え、バリアフリー改修は一階部分のみを対象に考えた。温熱改修は生活の中心となる居住空間のみとし、間仕切り壁に断熱する部分断熱とした。

いざ解体が始まると、つし部分を二階建てに上げた名残や、雨漏りによる桁の欠損など、
調査時に分かっていたことがより明快に見えてきた。


耐震改修として、床全面に新規ベタ基礎を作り、通し柱下部は、H型鋼で浮かせつつ配筋を行いコンクリートを打設した。
耐力壁は隣家が接している状況から、部屋内側に壁をふかす形で設けた。

珪藻土塗りや床塗りといった仕上げ工事では、住まい手ご夫婦と、
共同設計者の手嶋さんの教え子の東京家政大学生とともに行った。


竣工した建物は、外部に面する既存建具も極力再利用し、当時の面影を街並みに残している。
通りから内部を見ると、簾戸によって視線を隠しつつも、和室や居間を通り抜けて中庭の光が透けて見える。

伝建地区に近い通り部分には、土間を模した黒い床の部屋があり、隣の和室と縁側を合わせて、ギャラリーや教室に利用することで、本改修事例を実際に体験出来る場として、地域への開放も考えているとのことである。
本改修によって、伝建地区の外周部に面影を残すひとつのモデルケースが出来上がった。地域の魅力は、個々の建物だけではなく、連続している建物の表情や、そこに住む人の活動によって育まれていくものである。
「美濃町の家」が、伝建地区やさらにその外側とをつなぐ核となることを期待している。


Title 事例紹介2011-14
Posted 2011/06/08
Category 改修事例紹介