各地の住宅医の日々 №38 ~まちライブラリーと地域づくり
北 聖志(住宅医 / THNK一級建築士事務所 / 大阪府)
私は大阪市内で設計事務所を営んでいますが、住宅以外に福祉施設の設計に関わることが多く、住宅を改修して施設として利用したいということも度々あります。そういったコンバージョン(用途変更)は、住宅医スクールで学ばせてもらっているおかげでより確かな提案ができていると思います。
はじめに、ここで身近に関わりのある本を紹介したいと思います。「『まちライブラリー』の研究 」(礒井純充、2024年2月出版)という本です。
「まちライブラリー」をみなさんご存知でしょうか?著者が提唱した私設図書館で、みんなで持ち寄った本でできていて、本を通じて人とつながることも目的にしています。巣箱のようなスペースでも始められて、今や全国で大小合わせて1,000ヶ所以上のまちライブラリーがあるそうです。まちライブラリーについて著者が論文としてまとめたものを読みやすく書籍にしたのがこの本です。
私は縁あって自宅のすぐ近くで事務所を借りているのですが、そのビルにまちライブラリーがあり、発祥の地でもあります。私自身の実感として、まちライブラリーを通じてテナントの方と知り合ったり、子どもと本を借りたり、近所の子育て世代の方と知り合いになったり、まちのサードプレイスとしてありがたい存在になっています。
事務所のビル3階にあるまちライブラリー。吉野杉を使った本棚や机はボランティアによる手作りとのこと。
本の中ではその試行錯誤、まちライブラリーに至る経緯、うまくいく例、うまくいかない例などが紹介されています。まちライブラリーの認知度は高まっていて、最近では施設計画中のクライアントから「まちライブラリーを併設したい」という話を聞くまでになっています。建築関係の方や地域に根ざした事業をされている方にとっては興味深く、アイデアの広がる内容なのでぜひ一度お読み下さい。
次に地域づくり的な視点で日々の仕事に立ち戻ってみると、昨年、京都府与謝野町で民家を高齢者施設に改修するプロジェクトに関わらせてもらいました。そこではクライアントが、介護に関わってきたシズエさんというおばあさんのご子息から、「この家を引き継いでもらえないか」という相談を受け、看護小規模多機能型居宅介護事業所という地域での在宅を支援する施設として改修に至りました。
民家が地域での在宅を支援する施設となる。桁行方向に増築されており、もともとの釉薬瓦の美しい屋根が町並みに馴染んでいる。
既存建物は昭和54年に建てられ、その後、家族構成の変化と共に2回増築がされていました。そして現在はシズエさんが施設に入り、住まい手がいなくなっていました。柱梁はしっかりしており、夫婦や核家族で住むには広い間取りは人が集まる場所としてはぴったりでした。検査済証がない建物で用途変更申請が必要、施設として介助ができるお風呂が要るので増築・減築も必要、もちろん耐震改修も必要でした。補助金を利用したり、クラウドファンディングで資金を集めたりもして、無事オープンできました。
他に最近印象深かったのは、昨年(2023年)11月に雑誌「住宅建築」の企画で三澤文子さんと吉村理さんの対談イベントが奈良県御所町にある吉村さんの事務所であり、現地で参加させてもらいました。そこはもともと吉村さんの祖父母の家で、空き家になったことをきっかけにそこを拠点とし、現在、御所町のプロジェクト(住宅特集2022年12月号他)にも関わられているという話をお聞きできました。
両者とも残したいと思う古民家、住宅があって、それをきっかけにまちや地域に関わっていくという事例でした。
こういった日々の出来事を通じて「既存建物をインフラととらえ、改修して地域づくりにつなげていく」ということは、これからますます求められてくることで住宅医の活躍の場になるのではと感じています。
( 写真・文章:北聖志 )
©Kita Satoshi , jutakui
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