住宅医の改修事例 No.0136 ~都内29坪プチ2世帯化リフォーム
伊藤 優理恵( 住宅医 / (株)きぐみ / 神奈川県 )
29坪という広さからいうと、2世帯と結びつきにくいものです。水廻りを増やして2世帯化したいという相談を受けながら、収納が足りないのではないか、大人5人となると狭くないだろうかなど、心配な面もありました。
そして、都内の住宅事情、老後の住まい、親の介護、実家の相続問題、そんなキーワードを思い浮かべる案件。そのひとつの事例をご場合をご紹介させていただきます。
リフォームのきっかけ
― 90歳近くなるお母様
― 空いている部屋のある都内のご実家
― 昔ほど広さが必要なくなり、ご実家から距離のある現在の住まい
そのような状況があり、リフォーム以外にも、ご実家を売却して別の場所に同居することも考えられたそうです。
ですが、首都圏便利な場所となると、土地購入からの新築するのは、都内の土地とは言え、まかなうことが難しいことや、土地勘のないところに行こうとは思わず、ご実家をリフォームする方向になっていきました。
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既存建築概要
所在地:東京都(地域区分:6地域) 用途地域:第1種住居地域(建蔽率60% 容積率200%)/準防火地域 最低敷地面積:60㎡ 構造:在来軸組木造 2階建 建築年代:1986年10月 建築確認済 敷地面積:94.91㎡ 延床面積:94.81㎡ [28.6坪] ※駐車場除く工事床面積 |
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ご依頼主の考えと設計者の考え(改修プランが決まるまで)
― 基本方針 ―
ご要望として、
・1階にお母様と弟さん世帯、2階に花さんご家族世帯
・各々にキッチンを備え付け、電気のメーターは分けたい
・2階は対面キッチン・框デザイン扉等でアンティーク雑貨が似合う空間にしたい
このご要望だけを重視するならば、費用に配慮し、設備を更新、増設、間仕切りを少し変えて、仕上げ材を更新する表層的なリフォームでも対応できなくはありません。
ただ、エアコン以外にも随所にある暖房器具、実際伺ったときの寒さを考えると、リフォーム後、1階にお母様方が住まわれるのに懸念が横切ります。
また、ご相談者様は長らくマンション住まいで、このご実家にお帰りになるたび、寒さが気になっておりました。
設計者の私どもとしても、今回の改修に、断熱改修をいれることは暮らしの快適性が大きく向上するためお勧めするものです。かくして、断熱改修含めたフルリノベーションの計画で進める事になりました。
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予算を配慮し使えるところは使い、耐震上不利ですが約10年前にメンテナンスした瓦屋根はそのままに、外壁は新築以来していなかったという塗替えをする方向で計画を考えました。
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― 耐震性と温熱環境と間取り ―
大手リフォーム会社でも以前、一般診断してもらっており、評点1を下回る数字でした。私どもがしても結果は大きく変わりません。それでも、ご要望に耐震に関するものはありません。
とはいえ、設計者として評点1は目指したいところです。
今回の物件は、2台駐められる駐車場があり、2階が大きくオーバーハングしている立体的に不安定な形をしています。
駐車場は小さくしたくないことや、駐車場の大きな開口がある同じならびに玄関ドアの開口があり、ここを少しでも耐力壁としたいと、最初の方は玄関ドアの位置を変える提案をしていました。
また、階段をかけなおし、温熱環境の観点から、2階のLDKを冬季に日が良く入る南側に面した空間とする案などで検討していました。
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― 結局何が大切なのか ―
2世帯ということで、お打合せの際、主に対応くださったのは、各々世帯の代表として花さんと弟さんです。この家を建てられたお母様は、改修について、基本的にはお二人にお任せしていました。
より快適、そして耐震性向上にと考えた私どもは、玄関と浴室の位置をかえ、浴室と脱衣室を広くし、階段を登り口逆にするプランを当初提案しておりました。その方向で進んでいた時、再検討したいというお話がありました。
内容を伺うと、玄関の位置が変わり、階段の上り方向が逆になることにお母様が懸念を示されたということでした。
このご実家を建てられたお母様は、建てられた時の記憶が鮮明で、思い入れがあるのだろうと思います。
花さんご家族は、ご実家へ同居させてもらう側になります。同居させてもらう側として、お母様の思いにそぐわない改修は控えたい、そんなお気持ちを花さんの旦那様からお話しいただきました。
2世帯化リフォームにおいて、もとのお住まいの方の気持ちを汲んだ改修計画で、同居後に円滑な関係性を保てるようにすることは、数字に示せないものながら、大切なことだと痛感しました。
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― 決まったプラン ―
1階はキッチン付きお母様の部屋と弟さんの部屋、共用の浴室
エアコンの風が苦手なお母様に配慮し、弟さんの部屋のエアコンで2室空調することに配慮し、ハイドアを採用。これで、廊下を含めた空間も一緒に温度調整しやすくなりました。
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2階は個室3つとLDK
29坪に大人5人ということで、設計側として気になっていたのは、収納が足りるのかと息苦しく感じないかです。
後日、建物状況調査で小屋裏を露出しても悪くないだろうと分かったあと、LDKを勾配天井とし、ロフトを設けることを決めました。
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建物状況調査
本来は、設計をする前に行う事がベストですが、おおよその計画が決まり、概算でリフォーム費用が見えたところで、設計の契約となったため、調査はその段階で行いました。
コロナ禍、高齢の方がお住まいということもあり、数日に分けて2人で調査としました。
お住まいになられていることもあり、非破壊で出来る範囲とし、分からなかった筋交いは、解体後再確認して最終的な耐力壁位置を決定しています。
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![]() 窓(アルミの単板ガラス) |
![]() トイレの段差 |
![]() 床下(湿度が高い) |
![]() 小屋裏 |
![]() 浴室 |
外壁は、クラックがいくつか見られました。窓はアルミの単板ガラス、準防火地域ということもあり、雨戸があるところ以外は線入りガラスで、今では防火設備として認められていません。
室内は、和室やトイレに段差が見られ、一部壁のひび割れ畳の沈みがありました。
調査によって床下の湿度が高いことが分かり、防湿フィルムを敷き土間コンクリートを打つことにしました。LDKの勾配天井や小屋裏も、調査後に採用を確定しました。
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改修工事
― 耐震対策 ―
こちらの建物の特徴は大きなオーバーハングです。大きな開口はラチス状の鉄骨の梁がとんでおり、柱は木でした。
耐震性を優先とするならば、駐車場廻りに耐力壁を設けた方がよいですが、ご要望上難しかったため、それ以外の場所でバランスよく耐力壁を配置しました。
45×90 の筋交いを使いたかった場所に、解体後わかった筋交いが30×105 で外壁の下地にとめつけされており、撤去すると外壁も補修することになり費用がかかってしまうため、極力利用する形で再検討しました。ただ、残念ながら上部構造評点1には届きませんでした。
これは耐力壁をいれられる場所が限られている中、あるところを強くしすぎると偏心率が悪くなり、かえって評点が下がってしまうためでした。(もし改善したい場合は、駐車場の北側と1階駐車場に面する外壁に耐力壁を作るのが望ましい。)
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アンカーボルトは適宜はいっていましたが、足りないところは追加し、柱頭柱脚金物も設置。
1階床、2階床ともに根太から高さ調整し、床の傾きをただし、構造用合板で水平構面を向上させました。
精密診断でも評点はだし、評点1は超えたのですが、安全側の評価と言われる一般診断でチャートの評価はだしています。数字が改善しても、オーバーハング部の架構の危険性は変わらないので、厳しい数字の方を採用しました。
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― 寒さ対策 ―
断熱改修 施工写真
![]() 2階床(駐車場天井) |
![]() 1階床 |
![]() 壁面 |
![]() 天井 |
![]() 外窓交換 |
![]() 内窓設置 |
| 外皮 |
■1階床:フェノールフォーム0.020W/m・K 45㎜ +下地合板目張り
■2階床:グラスウール0.038W/m・K 180㎜ + 下地合板目張り
■外壁 :グラスウール0.038W/m・K 105㎜ + 調湿気密シート
■天井・屋根:グラスウール0.038W/m・K 180㎜ + 防湿気密シート
| 開口部 |
■外窓:防火窓 アルミ樹脂複合枠 + Low-e複層ガラス
■内窓:既存サッシ(アルミサッシ+単板ガラス) + 樹脂枠+Low-e複層ガラス
■玄関ドア:防火ドア 金属製 断熱玄関ドア D2仕様
熱損失が大きい開口部、屋根、外壁を重点に断熱補強することで効率よく断熱性が向上するよう計画しました。
すべての窓を防火窓にするには、費用が膨れ上がってしまったので、サイズが変わらない窓は内窓としました。交換した外窓は、当初樹脂サッシを予定していましたが、コロナ禍の生産遅れと工事スケジュールが合わず、性能の近いアルミ樹脂タイプの窓となりました。
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― バリアフリー、火災対策 ―
バリアフリーに関して、段差をなくし、水廻りは一新、各所に手摺を設置しました。
火災対策としては、今まで設置していなかった火災報知機を各室に設置しました。
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改修 Before・After
改修後の性能
改修後のレーダーチャートはこのようになりました。
そのまま利用する部分や、限られた面積に対する居室数などの条件から、長期優良住宅(増改築)認定基準相当の値(100点)に至らない部分はあるものの、全体的に性能は向上しました。
引渡し時に消火器を設置しておらず、その分上記チャート評価されていませんが、現状は設置されているので、70までは向上しそうです。
もともとこの家にお住まいになっていた弟さんは、1階が主な居住の場になることと、高齢のお母様もいらっしゃることで寒さを心配しておりましたが、断熱改修の効果を実感して、とても満足されていらっしゃいます。
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追記 DIY参加の話
今回できるところは自分で、ということで、いくつか花さんと旦那様はDIY参加しました。壁の左官塗、扉の塗装、そして花さんご希望のIKEAキッチン組立です。キッチン組立は私どもも一緒に手伝い、建物への設置は大工さんにお願いしました。
キッチンの仕組みを分かったおかげで、住んだ後追加したいパーツを自身でとりつけられていました。
当時の苦労も今は想い出。
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改修工事を終えて
ご相談いただいた当初は、収納が足りないのではないか、29坪大人5人となると狭く感じないだろうかなど、私のモノサシで捉えてしまう部分はありました。しかし、ご依頼主の取り巻く状況から出てきたご要望は、それなりの理由があるものですから、気になる点は確認しつつも、尊重して計画を進めることは大切だなと改めて思いました。
実際暮らされているご様子を伺ってみると、収納内にうまくものを納めて上手に過ごされていらっしゃいました。今回の改修工事を機会にものを整理できたこと、そして、ロフトという収納余力を作れたことが功を奏しました。
今回は花さん家族の場合であって、同じ条件でも人が変われば違った改修になっていたと思います。
それぞれの大切にするところを見極めて、そこに設計者として性能向上の +αをほどこし、より良い改修工事になるよう、今後とも努めていきたいと思います。
都内29坪プチ2世帯化リフォーム
設計・監理:株式会社きぐみ (伊藤 優理恵)
施工:天山工務店
伊藤 優理恵
©Yurie Ito , jutakui
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(株)きぐみ https://kigumi-no-ie.com/