住まい手が「選ぶ」心地よい温熱| リレーコラム2023年6月

南 雄三 ( 住宅技術評論家 )

コラムに似合う話題といえば「シェルター」でしょう。ウクライナ侵攻、台湾有事で俄然注目を高めるシェルターですが、施主から「つくってよ」と言われたら住宅医の皆さんはどう答えますか。一方、シェルターをつくるのに最も適した建築といえば3Dプリンターで、建築はつくる・建てるではなくプリントするものになります。
一方、どう設計してよいのかわからないシェルターですが、ChatGPTに「シェルターを設計して」と頼めば、30秒後には計画書が出てくるでしょう。情緒も人間らしさも不要なシェルターの設計はAIの方がずっと上手に違いありません。
住宅医の雄志でシェルター研究部会をつくってみてはどうでしょう。私はおかしな性格の人達を集めて、開いてみようかなと思っています。

感じ方次第で・・

若い頃、土曜の休みに業界紙の小さなコラムに原稿を書き、原稿料5,000円を稼いでから家族で銀座のスエヒロに行き、1,000円ステーキを一人ずつ食べるのがすごく嬉しかった記憶があります。貧乏だったからではなく、稼ぎとご褒美のバランスが豊かさ指数200%だったからでしょう。

・ホテルの窓が開くかFIXかで、客の快適温度が違ってきます。開く方が快適の範囲が広がるのです。
・室内に居るのと外に居るのも同じで、外に居る方が快適温度の幅が広がります。
・寒冷地に住んでいた人と温暖地に住んでいた人とでは、汗を掻き始める温度が違います。でも冷房環境をひと夏過ごすとこのセンサーが働かなくなるそうです。

南雄三事務所は屋根緑化なので天井からの熱気はありませんが、冷房は必要です。でもパッシブクーリングを目指して、夜中に窓を開けたまま・朝には閉めて、そのまま扇風機で過ごします。午後2時を過ぎるとかなり暑くなって、外から来た客が「こんな暑い処で…」と絶句します。
そこで自分も暑いことに気がついてエアコンを運転すると、その冷気のなんと気持ちよいことか。まるで薬(麻薬ではありません)を飲んだように快適。でも、しばらくすると体が冷えてきます。

ズルイ断熱

30年見学禁止のわが家を開放して、仲間達に自宅を観てもらいました。すると暖かいはずのマンション住人達が「なぜ寒くないのだろう」と驚きます。みれば温度計は16℃。「マンション住まいだったら寒くないでしょう?」と聞くと、「うちは19℃だけど足が冷たくて、ソファに あぐらかいている」といいます。マンションでもコチコチのフローリングの冷たさと窓辺の冷気が不快だという人が多いのに驚きます。室温が16℃でも畳とサワラ無垢の家は、そういう人達には魔法のように思えるのです。
私はこれを「ズルイ断熱」と呼んでいます。障子、襖、無垢板、畳、土壁、炬燵…室温では判断できない「寒くない」環境をつくる小道具です。

G1を操るプライド

タマホームがG3の家を発表しました。25年先に当たり前の性能になるのだそうです。HEAT20水準が一人歩きする中で、G2が標準的目安になり、コスパを考えればG2.5という判断もあります。いずれシナリオを理解しているとは言いがたいUA値信仰ですが、「南さんなら…」と聞かれれば「私はG1で、ズルイ断熱を駆使して面白い温熱設計をしてみせます」と答えます。最高峰のG3がつくれることの何が誇りなのか?最低レベルで百戦錬磨の断熱頭脳を駆使して、面白い温熱を描くことこそワザではないのか…というのが私のプライドですが、「低断熱レベルの遠吠え」といわれたりします。

温度差の魔術

では面白い温熱とは・・・私の家は省エネ基準レベルの断熱性しかなくて、大都会のど真ん中なので陽の入りも贅沢にはいきません。それでも1階の座敷は20℃ほどになり、2階は24℃~26℃になります。そこまでオーバーヒートしても夜には18℃に下がります。
1階は暖房しなければ16、17℃。わが家で最も低温になる階段を上って2階に行くと、誰もが「あったかい!」と声をあげます。階段の下との温度差が言わせる感動の声。
しばらく2階の縁側に居ると、普通の暖房空間にはない心地よさを感じはじめます。断熱の専門家が「ここは高断熱のわが家よりずっと温かい」というのですが、縁側の温度は18℃しかありません。昼の日射が2階全体を温めたなごり熱が自然な心地よさをつくります。


↑クリックで動画と音声が流れます。改修前 南雄三邸( 改修前から改修後の工夫が紹介されています)

新しい温熱感

建築技術2023年1月号で「新環境住宅計画原論」を監修しましたが、その中で・・

    • ●宿谷昌則先生の「エクセルギー」では、周壁の平均温度が24℃の時が最もエクセルギー消費速さが小さく(快適)、その時に室温は24℃でも18℃でも同じであると述べています。
      周壁の平均が24℃は有り得ない状況ですが、でも輻射暖房パネルや炬燵があったり、日中なら日射が入り込めばあり得ること。ただ単に室温20℃均一が快適ではないというのです。
    • ●同じく、中川純先生は改修物件の中で生活圏だけ断熱改修し、思い入れのある居間を外して寒いままにしました。冬以外の季節はもちろん楽しめるのですが、冬でもその低温な居間から温かい断熱空間の中に移動することの快適・・そんな遊びを残したのです。
    • ●同じく、高橋建築の高橋慎吾社長は、パッシブハウスの超高断熱で、18℃ベースを無暖房で実現しながら、炬燵を楽しむ家づくりをはじめています。高断熱で全館空調が最高峰のように持て囃される中で、高断熱の先端を走る工務店さんが炬燵を遊ぶことの痛快。
      「22℃で裸足の生活を自慢する家が省エネといえるのか?」と高橋さんはいうのです。

快と適

快適の「適」は誰もが心地よい環境を目指すもので、「快」は外を歩いた汗だくの体で冷房の効いている店に入った時の感動的な心地よさを目指すもの。つまり均質、均一は「適」で、「快」は温度差などの変化がつくる極上。
だからといって「寒い家の温度差あり」を良しとするわけではありません。ある程度断熱が高まって、健康な室温をクリアした上での話なので、昔の家に戻らないでください。
そして、家の中に温度差がある方が上等だとか全館空調はダメだとかいうのではなく、住まい手が「選ぶ」ことこそが最良の快適だと考えてください。
住まい手が自由に好みの温熱を楽しむべく家の中を移動したり、いや私は全館空調にどっぷり、いや私は炬燵でゆったり・・。
2025年省エネ基準義務化を前に、私はこんな中身の講演をしています。かなり煮詰まってきたので、来年の建築技術1月号特集にぶちあげようと思っていますのでお楽しみに。

(南 雄三)

©Yuzo Minami ,  Society of Architectural Pathologists Japan