住宅医の改修事例No.0126 住宅医調査を通して建物の維持方向性を決定 〜築22年在来工法の家

滝川 良子 住宅医 /スピカ建築工房一級建築士事務所/ 東京都

最初のご相談は2016年。60代の共働きご夫婦が老後を見据えてご自宅を「改修」か「建て替え」かで悩まれた末、住宅医の詳細調査を受ける事で方向性を決める事になりました。

建物概要

所在地:千葉県松戸市
建築年:1995年(確認図書有り・検査済証無し)
構造   :木造在来2階建
延床面積:99.16㎡
家族構成:夫婦、娘、猫2匹


調査実施日:2017年2月13日
調査員:6名


改修前外観

既存図面(改修前)

ヒアリング時に築22年の建物であること、地元の工務店の設計施工(工務店は現存せず)であるとの事でしたので、調査前には、状態はそれほど悪くないのでは、、、と考えていました。

調査時の様子と劣化状況

調査を行ってみると、西側外壁面は目視でわかるほどの劣化状況であり、住まい手さんのお話では、竣工直後に一度手を入れ補修を行っているとの事で、施工の不具合が大きいのではと感じずにはいられない状況でした。床下から確認してみると、西側は長期にわたる外壁クラックからの浸水で材の劣化が進んでおり、壁内の断熱材(GW)の施工不良も見受けられました。蟻道跡や飛び込み営業で施工したとされる、床下内の換気扇設置などもある状態でした。
 野帳の一部(西立面)□□□□□□
詳細調査写真
外壁 クラック

断熱材施工不良と劣化

断熱材施工不良と劣化

蟻害跡

業者による床下換気扇。基礎をかなりハツってしまっている。

屋根の劣化

バルコニー手すり笠木より、水の侵入が認められており、また片持ちの出が大きく、水勾配不良により常に湿潤な状態であった。

バルコニー手すり笠木より、水の侵入が認められており、また片持ちの出が大きく、水勾配不良により常に湿潤な状態であった。

バルコニー部分の上げ裏。解体時の確認で内部劣化が認められた。


 

調査結果を住まい手さんに報告

レーダーチャート (改修前の性能)

住宅医のレーダーチャートは建物のポテンシャルを可視化できるため、住まい手さんもご自宅の状況を客観的に考える事ができるツールだと感じますが、築22年の注文住宅を建てたと自負している住まい手さんには、厳しい現実でもあったと思います。
外壁面は目視で確認できるため、住まい手さんもある程度の状況はご存知でしたが、床下の状況などには絶句されていました。

この結果を踏まえて、建て替えか改修かの判断をしていただく事になりましたが、新築の場合はご予算的に、既存住宅より延床面積が小さくなる事、注文住宅として建築し、やはり建物に愛着もある事。耐震診断では上部評点の結果が『0.55』と大変悪く、これを改修して耐震性を高める事が可能であれば、やはり改修という方向で進めたいとの事で、改修という事で決断をされました。住まい手さんの体感的に、東日本大震災時の揺れが大きかったことが不安材料でもあったため、今回の改修では、以下を踏まえてスケルトンリフォームとする事になりました。

・耐震性を高める(評点「1.5」を目標とする。)
・劣化補修は全て行う。
・将来を見据え、2階の水回りを1階に集約する。
・冬の底冷えがきついため、温熱環境を整える。

 

工事中の様子


解体時 劣化の激しい外壁面やバルコニー部分は、解体時も材がグズグズであった。

階段を残しスケルトンとした。基礎は有筋だったため、クラック補修を施し耐力壁下部には新たに基礎を設けた。

〇〇

筋交、柱脚柱頭に金物を取り付け

 

改修後の性能

レーダーチャート (青は改修後の性能)

改修前と比較し、ほぼ全ての項目で性能が向上したことがわかる。

 

竣工

設計期間:2018年5月〜2019年2月(施主都合により、4ヶ月中断)
工事期間:2019年5月〜2019年10月
工事費 :1900万 + 長期優良住宅化リフォーム推進事業補助金

改修後 図面

plan
2Fの洗面、浴室を1Fへと下ろし、将来的に1Fだけで生活出来るように間取りを改変し、適材適所に収納出来るよう各所に収納を増やし、物が溢れないようにしている。



玄関:リビングへの開口位置を変更、幅を拡げ、今後の夜間のトイレ利用を考慮しトイレはリビング側に。建具は古材利用。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□書籍が多く、2Fに図書コーナーを設置。



□□□□□□□□□□□□□□□□リビングから和室を臨む。リビング内の建具は全て住まい手さんが購入された古材利用。

 

 

まとめ

住宅医調査を通して建物の維持方向性を決定 〜 事例を通して感じる事 〜

住まい手が改修を考える時
まずはコストを知りたい。
 リフォーム会社などに行き希望を伝え、初めて工事費を知り愕然とする。

・自宅はコストを掛けて改修するに値する建物なのか?
住まい手は自分たちの住まいの状態は判別できない。上記のような状態から、設計事務所に相談してみようと思う方が多い。

詳細調査を行う事で、、、
・調査を受け、建物の状態を知る事で、今後の方向性についての決断を後押しできる。

・見積の精査の際、住まい手のコスト配分の理解が高まる。(不具合を可視化しているため、必要な工事費に対しての理解がある方が多い)

・設計者側も建物への理解を深めて設計・提案ができる。

住宅医としての課題
・詳細調査を行なっても、大壁の壁内の傷みを網羅できる訳ではないため、ある程度の予測となり、解体時に予期せぬ不具合が見つかる事もある。
工事見積の際に予算費用を見込んでおくが、コストのバランスもあるため悩ましい。

・建物の状態を理解しても、全ての施主が性能向上する改修ができるわけではない。
予算の関係上、全ての希望を組み込めない場合もあり、特に耐震性に関しては線引きをどうするか苦慮する事もある。この辺りの課題を少しでも改善し、これからも性能向上はもちろんのこと、住まい手さんの暮らしに寄り添えるような設計を手がけていきたいと思います。

 


【関連情報 (動画)】

・住宅医が手掛けた改修事例の動画を集めたページ「住宅医の仕事紹介(オンライン)」 https://sapj.or.jp/movielist/

動画・音声が流れます
・滝川良子さん「住宅医調査を通して建物の維持方向性を決定〜築22年在来工法の家」 https://youtu.be/Y3WmbgaoXi4?t=970