住宅医の改修事例№108~時を紡ぐ家

報告者:上田 義徳(住宅医/上田建築工房/岡山県)


アンティークコレクションがご趣味の30代ご夫婦からのご依頼でした。
古くて味のある中古住宅を探し、リフォームをして住みたいとのご要望です。
将来的にも無理のない予算で地域の移住促進の補助を受け、温かい家にリフォームし、のんびりとした田舎暮らしを楽しみたい。
そんなイメージをお持ちでした。中国地方の山間地域である岡山県北では
空き家は多く存在しますが、田舎の家は敷地も建物も大きく、大規模リフォームには多額の費用を要するものばかり。
2年の月日が経ち、たまたま不動産業者の紹介で好立地にある平屋に出会いました。

概要

・所在地 : 岡山県新見市新見  
・用途地域: 第1種低層住居専用地域
       防火指定なし
・地域区分: 旧Ⅳ地域(現行5地域)
・家族構成: 30代ご夫婦、お子様(女の子当時3歳)
・構造  : 木造平屋建て
・建築年代: 昭和38年頃(移築の為、それ以前は不明)
・敷地面積: 409.22㎡(124坪)
・延床面積: 103.00㎡(31.21坪)


依頼主はとても気に入りましたが、しっかりと調査してから購入することをお勧めし、家主と不動産業者の許可を得て調査を進めることになりました。
最初の調査は2018年5月13日、作図や外視調査や写真撮影、近隣の方へのヒアリングも行いました。周辺地盤や道路など、過去からも著しい沈下はない様です。

既存建物現況調査


開口部の多い縁側

ダム建設の為移築された古い平屋

又日を改めて5月23日に、天井点検口より天井裏などの状況調査をしました。
漏水の有無や土壁の高さ、筋交いや構造の確認をし、図面へと落とし込みます。


移築の形跡あり

小屋裏環境は良好

物件は比較的良好で、購入する前提で最後に許可を得て、床下の破壊検査をしました。湿度は高く部分的に蟻道や蟻害がありましたが、どうやら枯れているようです。移築されたこの建物の基礎の建築年代は昭和38年頃、無筋のいわゆるローソク基礎(外周部のみ)で、内部は束建ての造り。基礎は補強が必要ですが、平屋のということもあり、リノベーションが可能と判断し、購入をお勧めしました。
 

腐食部土台
枯れた蟻道あり

詳細調査から約1カ月後に調査結果を報告し、プロジェクトをスタート。
 

既存平面図


依頼主の希望予算は1500万円(消費税抜き、設計料込)です。
この予算で可能な事と不要な事の精査をします。
まず雨漏れはなく急を要しない屋根は既存のまま(将来的には屋根替えが必要とお伝え)とし、外壁も改修部分のみの補修、大幅に変更はしない方向で進めます。耐震改修と基礎補強、元の住まい手の意見とご夫婦のご要望を踏まえ断熱性能を一定レベルまで向上させる計画となります。

レーダーチャート

改修前                        改修後


6つの性能を分析し、左手のレーザーチャートにまとめ、工事がスタート。
改修工事完成後では右手のレーダーチャートに性能向上しました。
軸組みの大幅な組み換えはせず、最小限の補強で可能なPLANとし、それでもご要望を満たす広々として明るいリビングになる予定です。

提案平面図


解体後の基礎の補強計画です。束建ての柱の影響を考慮し、深い掘方をせず、土間と添え基礎、内部の新設基礎を作ります。

基礎補強計画


 

改修工事

タイミングの難しい束は差し筋をし、布基礎と連結し、土台の上に柱をのせる計画です。

大体の補強も進み、防蟻工事の工程です。既存部分や新設部分を散布、圧入していきます。
 



概ね構造材が揃った所で防蟻工事
新設部、既設部の取り合いも入念に散布
 
 

断熱工事の工程では気流止めに留意し、床は根太間にミラフォーム50㎜、壁は同15㎜、ともにシールで気密化。天井断熱はHGW16K155㎜です。
 


床断熱:ミラフォーム50㎜

壁内断熱:ミラフォーム15㎜

天井断熱:マグオランジュ16k155㎜

開口部はLDKのみサーモスⅡH(アルミ樹脂複合ペア、LOW-Eガラス)、
その他はサーモスS(普通ペアガラス)です。(予算の関係)
断熱性能は地域基準には達していませんが、無断熱からUA値0.88W/㎡Kまで向上しています。

竣工写真

 


新設建具もレトロにデザイン
長い廊下アンティークな再利用建具

反省点は玄関の引き違い戸を既存のままとし、リビングの上吊片引き戸を付けた床付近の隙間から、キッチンの換気扇(同時給排気にしたのだが)を運転中冷気が入る様で、暮らしが始まってから建具下に目張りをしました。
 
 


玄関引き戸は既存のまま

玄関への上吊り引き戸下の隙間から冷気が入る

やはり性能向上リフォームの際(新築では全棟実施)、気密測定をすべきだなと強く感じるきっかけとなりました。
因みに換気は三菱ロスナイセントラル換気システムを採用しています。
 


キッチンの床はタイル張り

照明もレトロなコレクションを設置

 


予算総額は1790万円(税別、設計料込)と少し上回りましたが、満足いただけた様です。
 


当時の趣を変えず、
漆喰を塗り直す
煙突のある屋根が
辺りに溶け込んでいると
感じています

最後に

この案件は住宅医の検定会に発表した事例です。
2度目の挑戦で合格をいただきましたが、性能向上(住宅医としての)の改修工事はとても奥深く、多くの知識や経験を要する為、まだまだ勉強不足だと強く感じます。
今年も新たにスクールが始まり、又新しい発見と勉強の出来る環境に期待しています。今後もスキルアップを目指し、日々精進致します。