№0113 狭小長屋を住み継ぐための改修~下関の小さな長屋

田尻 裕樹(株式会社再生工舎 代表取締役/住宅医/山口県)

所在地 :山口県下関市
地 域 :市街化区域 商業区域 80/400 準防火地域
主用途 :専用住宅(改修前は店舗併用住宅)
建築年 :不明だが、おそらく100年を超えている
家族構成:4人(ご夫妻+長男+長女)

規  模:木造2階建て
敷地面積:58.42㎡ (17.67坪)
建築面積:52.02㎡ (15.73坪)建蔽率 89%
延床面積:89.43㎡ (27.05坪)容積率153%

着  工:2018年3月
竣  工:2018年7月
(工事期間4ヶ月)

今回改修したこの長屋は、奥様のご両親が店舗兼住宅として使用していた建物です。以前は借家として使用されていたのですが、お母さまが逝去したのちに、土地建物を購入し、住み継ぐことを決断されました。建物も古く、改修して住むことは可能か見てほしいと依頼を受けたところから、プロジェクトがスタートしました。奥様は打ち合わせのたびに、暮らしの思い出を語られておりまして、建物に対する強い想いを感じました。場所はJR下関駅の北側で、古くから商店街として栄えた地域です。2戸1棟の長屋であり、敷地境界いっぱいに建っている小さな住宅です。(窓からJR山陽本線が見えます)

既存建物の調査

既存建物の調査調査を行ったのは2017年5月です。長屋であるため、隣戸のある西側の状態は確認できませんでしたが、南・東・北側の外観は目視にて確認を行いました。2階の小屋裏は進入して調査を行い、2階床下、1階床下については、畳と座板を上げて見える範囲を確認しました。床下は土間コン設置してあるところと、土のままの部分があり、何度かの改修工事を経験している建物であることがわかりました。

 



既存の間取りは、南の道路側にかつて店舗であった土間があり、北側である奥に仏壇のある和室、台所とつながる間取りです。西側は長屋の隣戸であるため全面が壁、東側・北側にも窓は少なく、1階については、自然採光がほとんどない状態でした。玄関から奥の勝手口まで狭い廊下がつながり、階段・トイレ・浴室が窮屈に納まっています。浴室は幅80cm・奥行1.6mほどのかなり狭い空間でした。2階は2つの和室と板の間がつながり、南北に窓があって1階よりは明るい状態です。

改修計画

レーダーチャート(左:改修前  右:改修後)

今回の改修計画におきまして、暮らしやすさを向上させることを中心に、耐震性・断熱性他、各種性能を全体的に向上させることを意識して設計しました。狭小住宅ゆえに通路の確保などが難しい部分はありましたが、大きく性能を向上させることで安心で暮らしやすい住まいに改修できたと考えます。



まず窮屈さを解消するために、限られた室内空間を最大限利用することを考えました。道路側は玄関と合わせてフレキシブルに使える土間空間とし、採光確保のため開口部も大きく設けました。土間と隣接して、客間として使える和室を設けています。大切なお仏壇もこの部屋に置いています。和室の北側をLDKとし、土間~和室~LDKと一体空間にできるようにしました。西側は隣戸のために窓を設けることができませんので、階段をリビングの東側に配置し窓を設けることで、東側の自然光が2階からも入るようになりました。キッチンの上部は下屋になっていますので、天窓を設けています。
北側に脱衣室・浴室・トイレを配置して、プライバシーを確保しつつ、キッチンからも出入りしやすく、日々の生活を快適に暮らせるように改善しました。
2階の空間も無駄なく使い、十分な広さの個室を3部屋とそれぞれに収納を設けています。

シロアリ被害

 

解体を行ってみると、構造材が大きくシロアリの被害を受けていました。梁など、1/3以下の断面になっている部分もありました。イエシロアリの被害と考えられますが、生息はみられませんでした。被害を受けた構造材は撤去して交換したり、荷重を負担しないように補強したりと、大変な手間をとりました。シロアリの恐ろしさを改めて感じた次第です。

耐震改修


長屋であり、隣戸は触ることができないので、今回の改修住戸を独立した構造と考えて、耐震改修を行っています。既存建物の耐震要素は土壁しかなく、南北に縦長の建物形状のため、短辺方向の耐震性能が著しく低い状態でした。

新しいプランに合わせて適宜耐力壁(構造用合板)を設置し、構造評点1.0以上を確保するように耐震改修を行いました。基礎については、既存の土間コンクリートを利用し、新たに壁になる部分などには鉄筋コンクリート基礎を増設しました。新設した耐力壁の応力が地盤に伝達できるようにした上で、引き抜き耐力に合わせて柱頭・柱脚金物を設置しています。また、建物全体の耐震構造を適切に成立させるため、1階天井部の水平構面を構造用合板で補強するなど、水平耐力の確保も行っています。

温熱改修

既存建物は無断熱の建物であり、断熱性能は非常に低い状態でした。既存の壁・床・天井を解体した後、床には根太間にビーズ法ポリスチテンフォーム40mm、壁は土壁を残した上で柱に木材を足して断熱充填しろを作り、発泡ウレタンフォーム(アクアフォーム)を吹付け充填しました。屋根も野地板に防水シートを室内から貼り、発泡ウレタンフォームを吹付けました。土壁や小屋組みの構造材などを残しながら断熱する場合は非常に施工性がよく、隙間なく充填できる使いやすい断熱材であると感じました。外部建具も既存のアルミサッシをアルミ樹脂複合サッシペアガラスに改修しています。断熱性UA値を既存3.18→改修後0.89まで向上させています。住まい手さまにも「寒い冬でも暖房がよく効いて暖かい」と断熱性能の向上を体感していただいています。

商店街に佇む住まい

Before

もともと商店だった建物で、道路に隣接して建っていることもあり、工事中から「何ができるのだろう」と道路を歩く人々から注目を集めていました。改修前の建物のかたちは大きくかえることなく、外壁を杉板にして柔らかい雰囲気を出すようにしました。道路は南面になり、採光確保の面からもメインの開口部を設けていますが、窓の前に木製格子を設置することで、歩行者からの視線を遮るとともに、街に好印象を与えることができたと思います。

小さな建物を最大限生かす

面積が小さいだけでなく高さも低い今回の建物、敷地一杯に建っている長屋なので増築もできず、コスト面から屋根・小屋組みを既存利用して高さも上げられません。言葉通り空間を隙間なく利用して実現することができました。リビングの天井は2階の床座板をあらわしとして高さを確保しました。浴室はユニットバスを導入しましたが、下屋の小屋を組み替えたり、既存床下の土を撤去したりして、3cmも余裕がない状態で納めています。給排水配管や、換気扇、エアコンのダクトなど、ルート確保が大変でしたが何とか納まりました。工事が始まる前は、「本当にできるのだろうか?」と住まい手様も不安がっていましたが、実現したことに大変喜んでいただきました。平面的・断面的にギリギリの空間内に納めていまして、楽な工事ではありませんでしたが、実現するにあたり私たちの粘り強さが役に立ったと思える仕事になりました。

田尻裕樹(住宅医・一級建築士)


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住宅医の仕事(事例発表動画)
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