岡山県 中古住宅の調査と改修

住宅医の改修事例報告 98例目

報告者:スタジオ385 佐藤美也子

概要
設計者:スタジオ385 佐藤美也子
主用途:一戸建ての住宅
築年数:築35年(S60年新築)
規 模:木造2階建て/在来軸組工法
敷地面積:469.00㎡(142坪)
延床面積:174.99㎡(45坪)
改修面積:104.34㎡(32坪)
工 期:2019年11月~2020年1月
環 境:省エネ地域区分6地域
田園が広がるのどかな地域だが、田んぼから宅地分譲された土地が増加している。

改修前:南面前景

調査・改修に至った経緯
中古住宅の購入を検討していた友人から、気になっている物件があるので、一度見て欲しいと、購入前の確認に声をかけてもらったことからスタートしました。
この物件の不動産業者は、インスペクション無しで、仲介販売という形をとっておりました。家を見ることはできますが、買って大丈夫なのか分からず、決断ができないようでした。
家を見に行った時点では既に、不動産業者から紹介された「安くリフォームを行う」という施工業者と、図面が無い状態で、リフォームの概算見積を検討している状況でした。
そこで、住宅調査診断をお勧めしたところ、購入前でしたが、実施していただけることになりました。少しでも早い入居を希望されていたので、急ぎ調査を実施。そして調査診断内容を説明し、家の状況を把握して貰うことが出来ました。リフォームするなら、耐震性も向上させるよう計画した方が良いと、アドバイスさせていただきました。概算見積中の業者は耐震改修ができないため、今回、設計をさせて頂けることに至りました。

 

この中古住宅を選ばれた理由
現在の住まい(アパート)から近いエリアで探されていました。
この物件は、敷地・建物とも大き目です。新築で狭い家を購入するより、新築以下の費用で広い家をきれいにして住むことを選択されました。
そして、将来は1階の和室で着付け教室を行いたいと思う、奥様の想いにも条件があったようです。

 

既存建物
昭和60年の新築後、平成8年に増築されています。
中古住宅として販売されてから、2年程経過しています。
敷地南の道路からアプローチします。玄関は建物中央にあり、着付け教室予定の和室は、ホールを介して左。右に応接間。その奥に台所。居間は台所から入ります。

 

 

既存建物調査

床下

基礎:布基礎(有筋)

土間:土 断熱:無断熱

状況:腐りや蟻害なし

壁(外壁側)解体中の写真

既存部分:土壁t40

増築部分:土壁なし。断熱材(GW)あり

状況:2階外壁と屋根の取合い部分に漏水跡あり

 

天井裏

 

外部

屋根:桟瓦葺。

状況:特に損傷はなし
(調査時の目視と 360°カメラで確認)

外壁:木ずり+モルタル+吹付仕上

状況:1mm 以下のクラックが 5 ヶ所あり
北側の汚れが目立つが、他は特に問題なし

敷地:地盤は全面道路より 1m以上高い
田んぼを埋め立てて建設されている 

状況:液状化の危険性がある地域だが、 調査では建物の不同沈下はなし。

 

性能診断結果(改修前)

耐震性:上部構造評点 0.31
断熱性:UA 値 2.23W/㎡ K

 

 

住まい手の想い・要望
家族構成:5 人家族(夫婦、中学生、小学生、年長)
住まい:鉄骨造2階建てアパートの2階。

現在の住まい(アパート)の不満
・夏の暑さがひどい。
・洗面所の使い勝手が悪い(狭い洗面脱衣を介したトイレ)。朝は特に混みあう。
・キッチンが奥まった場所にあり、料理をしていても家族に気づいてもらえず孤独感がある。
・洗濯ものの量が多いが、干す場所が狭く限られており、朝と夜 2 回に分けて干している。

購入する住まいの要望
・将来、1 階和室で着付け教室を行いたい。
・朝の混雑緩和のため、ゆったりした洗面所にしたい。
・対面キッチンに憧れがある。
・暗くて汚い居間をきれいにしたい。
・応接間は学校から帰ってきた子供たちが荷物を片付ける場に。(リビングに物を持ち込まない)
・掃除のしやすさは大切。特に水廻り。
・吹き抜けに憧れる。
・中古住宅なので玄関扉の取替、外壁の再塗装など、各所きれいにしたい。
・予算は 1000 万円程までとしたい。

 

改修概要
・基本的に大きな間取り変更は行わないが、2 階外壁位置に耐力壁を設ける。
・既存の洗面脱衣は狭いため、耐力壁の新設に合わせて広げ、廊下と台所からの 2 方向から出入りできるようにする。
・応接間は耐力壁の新設に合わせて、南側をサンルーム(物干しに利用)、北側はフリースペー(自由に物を置いたり使ったりする場)にする。
・対面キッチンは、広さが足りず窓の位置も合わないため、既設キッチンと同じ使い方にする。
・台所と居間はそれぞれあまり広くないため、一体的な空間になるようにする。
・衛生設備は全て取り替え。浄化槽新設(下水計画なし)。
・下屋部分の天井と断熱材の全面取替えと合わせて、耐震改修も行う。
・北側の和室を納戸に変更し、耐震改修も行う。
・1 階 和室は畳の取替え、2 階 子供部屋は畳やカーペットーをフローリングに更新。
・LDK 前の廊下に吹抜を新設。
・足場が必要となる外壁の再塗装は、今回の工事では行わない。屋根を改修するタイミングで行う
(現状の屋根に問題はないため)。

 

改修 [劣化対策]
外部
業者にて瓦屋根の点検を実施。全ての瓦が同じではないため、以前に改修されたことが判明。しかし、改修時期は漏水跡の前か後なのか、記録がないため分かりません。
2 階外壁と屋根の取り合い部分に問題はなく、今回の工事中に水の侵入はありませんでした。
2 階の出窓下端コーナーにクラックがり、さらに、水が壁側に流れやすい状況でしたので、クラックをコーキング補修し、壁側への流水防止用に、水切りを取り付け、簡易的な処置を施しました。
今回の工事では、外部の改修は行いませんので、点検報告書を作成し、処置内容と懸念事項を記し、記録を残すこととしました。

内部
下屋:天井仕上げと断熱材を全て改修。
居間・台所:全面改修。
間仕切り壁を撤去し柱を残す。天井は既設棟を表した勾配天井。表しになった既設柱と梁の傷は、埋め木が施され大工さんの丁寧な仕事が光ります。

 

改修 [耐震性]
当初、改修を行う部分のみ耐震改修する予定でしたが、住まい手より、住宅ローン減税を活用したいとの意向により、全体的に改修することになりました。
・柱と基礎新設:台所、洗面脱衣、フリースペース、納戸
・火打ち材の追加:1階床下・天井裏、吹抜と階段廻り
・接合部:山形プレート VP、かど金物 CP-L 等
・構造評点:0.31→1.03

住宅医検定会において鈴木先生より 1 階和室の間仕切りと 2 階子供室の間仕切りがずれている箇所は、床梁の架け方、仕口状況 を確認すること。下屋部分に耐力壁を設けた場合は、そこに主屋の水平を伝達させるため に、特に引っ張り接合をしっかり行うよう、助言を頂きました。

 

改修[断熱性]
断熱は劣化と耐震の改修範囲に実施。
床下:スタイロフォームt40(根太間)
天井(下屋):グラスウール 16 ㎏/㎥t100
壁:グラスウール 16 ㎏/㎥t100
土壁:スタイロフォームt15
隙間:ウレタンフォーム充填、間仕切り壁に気流止め
浴室:UB、サッシを断熱仕様に更新
開口部:既設アルミサッシ単板ガラスのまま。(浴室以外)
UA 値:2.23→1.71 

開口部は後から対処できるため、今回は行わず、先ずは暮らしてもらってから、今後必要となる点を改善することとしました。改修前の居間は和室仕様で障子付きの窓でしたので、障子を太鼓貼りに貼替えました。

 

改修[省エネルギー性]
・設備は電気配線以外全て更新。
・給湯器はエコジョーズを採用。
・キッチン、洗面台、UB、トイレ(床と腰パネル)は、住まい手から清掃が行いやすく、且つ、磁石で整理がしやすいホーローを要望されたため、コスト面のニーズも踏まえ、タカラスタンダード社製を採用。

 

改修計画 [バリアフリー性]
・改修する部分は、従来の段差を解消しました。

 

改修 [火災時の安全性]
・ガスコンロ周り:不燃仕上げ。消火器設置。
・火災報知器:必要箇所と全ての居室にも設置。

 

性能診断結果(改修後)
耐震性:上部構造評点「0.31」→「1.03」
断熱性:UA 値「2.23W/㎡ K」→「1.71」

写真

 

 

フリースペースの筋かいと柱は、金物隠しと、整理壁として、有孔ボードを取り付ける予定でした。
住まい手はきれいな柱を見て、「ビスで傷を付けるのがもったいない」と言われました。平金物は見えますが、ボルトを取り付けた穴は、きれいに埋木を施してます。しばらくはこのままにしておきたいとい言われ、金物にマグネットを付けたり、楽しんで暮らしていただいてるようです。

 

●洗面脱衣

「台所と廊下から出入りでき、家事動線がよく使いやすい」との感想を頂きました。

 

●廊下(上部吹抜)

廊下(LDK 出入り前)の吹抜は、1 帖ですが昼間は照明がなくても明るくなりました。
吹抜にはロープを掛けるフックを付けて、トレーニングが出来る空間にしました。(旦那様の要望)
1 階からの声も届きやすく、2 階にいる子供たちを呼びやすいとのことです。

 

2 階の子供部屋室は、床をフローリングに更新。
壁の塗装、網戸・障子・ふすまの貼替えは、住まい手が作業を行い、清潔感溢れる子供部屋に様変わりした。床張りは住まい手も大工さんに教わり、一緒に作業されました。

 

●これから

今回、改修工事を行わない箇所は、今後、住まい手が壁の塗装など作業されます。
業者の入る改修工事は終了しましたが、家の中は徐々に美装される予定です。
住まい手の理解、協力と努力があっての改修工事です。

 

総 括
森林文化アカデミーを卒業後、程なくして本物件に関わることができました。
中古住宅故に改修したい箇所は多く、尚且つ大きめの家のため、改修するには費用がかかります。
中古住宅を選んだ住まい手の想いとしては、費用は購入費と合わせて、新築以下でないと。設計側の私の想いとしては、改修費用は厳しいが、少しでも性能をよくしたい。
住まい手の要望に応えるため、何度も見積調整を行い、「実施すること」 、「実施した方が良いこと」、「実施を見合わせること」、「 今後の工事にすること」それぞれを整理して、住まい手に納得してもらい、工事の内容を精査していきました。中でも、耐震性を向上できたことは、よかったと感じております。断熱改修の範囲は限られましたが、改修を行った 1 階の床にスギの無垢フローリングt30を採用したことで、「木の温もりを感じて心地いい」と喜んでいただけました。
今回、建物の調査診断を行い、状態をよく理解して頂きましたので、改修内容の選別も理解を示していただけました。住まい手は掃除のしやすさ、メンテナンスをして使うことを大切にされおり、使用する材料も自然素材のものを中心に採用することができました。そして、住まい手自ら、出来ることは自分でコツコツと施工していただいたおかげで、家全体が、暮らしやすくきれいになりました。
計画段階から「この家をどのように良くしていこうか?!」といった感覚を、住まい手と共有するこができたかと、私は思っています。
今回の改修工事は、まだ経験が浅い私に、とても貴重な経験・仕事をさせていただきました。大変感謝しております。今後も状況によってベストとなるような提案が出来るよう、勉強していきたいと思います。