№0039〜極小京借家


一級建築士事務所 Atelier 棲咲舎 seisakusya
■工事場所:京都府京都市
■工事期間:2012年8月~2012年10月
■主要用途:専用住宅
■構造・規模:木造平屋建
■築年数:大正末期から昭和初期(推定)
■床面積:1階 61.71㎡(18.67坪)
■施工:坂元工務店


概 要
京都市の西陣地域に建つ、露地裏の賃貸住宅です。元々は織子が住む西陣織の住居兼工房だった建物改修を行いました。露地奥であることと前面の露地は非道路ということもあり、確認申請を通すことはほぼ不可能であったので、改修+減築という形を採用しています。
この地区には一刻も早く耐震補強しなければならない長屋が多数存在しています。しかし、露地奥の長屋は主に借家である事が多く、事業的には、費用を抑える必要がある為に表層的な改装に留めるか、安価で売却の上に建て替えるという事例が多く見られます。
このような状況から抜け出す為に、京都市も細い露地に対する救済処置として、接道巾を2m→1.5mへと緩和する条例を施行しましたが、その場所に関しても京都市が指定するものに留まり本当にどうにかしなければいけない場所に限って、指定から外れるということも起こっています。
今回のこの事例も京都市の条例から漏れる敷地でありましたが、オーナ-の建物の性能に対する意識の高さと、借家としてのグレードを上げ、入居者の満足度を上げるという思い、更に長年に渡る、不動産管理会社のオーナーに対する丁寧なケアからくる信頼関係が生んだ珍しいケースだと思います。又、このように行政・オーナー・不動産・建築が一体となってこの露地裏の文化を守っていく必要があると再認識いたしました。

改修前の外観です。建物が露地側に増築されており、露地を有効に活用できていない状況です。


住居兼工房であった為に左写真の玄関付近からキッチンの方へは恐らく土間であったであろうと考えられ、さらに右写真の床の仕様が違う事で他の床との段差から玄関・キッチン・玄関横諸室が元作業場であったと考えられます。


各部屋は建具のみで仕切られる田の字型PLANとなっており、この状況から室内における間仕切り壁は皆無に等しい状況でありました。

既存キッチンと既存浴室・WCをつなぐ廊下。写真からもわかるように、外部との境界部分には建具がなく、外部となっています。暖房冷房とも垂れ流し、防犯上も決して良い状況とは言えません。



西陣地域の賃貸長屋の特徴である、古材の使用と決してしっかりとした造り方とは言えない状況がわかると思います。床組は全体的に石やレンガを地面に置き、その上に束を立て、古材である丸太や柱材などを土台変わりに使用しています。どこかで解体された建物の材を再利用しているために150年ほど前の材であると考えらます。
この時点で、床組は全体的に新たな材料で組み直し形成し、小屋組に関しては既存利用を前提に解体時に再度検討ということで調査を終えました。床組は床下空間が狭すぎ調査不可、小屋組に関しては極端に梁が少なく足の置場もなかったので、危険と判断し、大工・構造設計者・意匠設計者の3者による目視となりました。
又、この時代の賃貸長屋の作り方の実態を再認識する上で良い経験となりました。この周辺の地域には道路からは見えないこのような長屋が多数存在し、このような作り方とおそらく同様か更に、安易に作っていると考えると早急に対策を施こす必要があります。

現況瓦の調査は屋根の上に上り調査する予定でしたが、小屋裏の調査の状況から、屋根を突き破る恐れがあるので、中止とし、全面的に板金に張り替えることを前提に計画を進めていくことで3者で決定いたしました。

瓦をめくった状況です。屋根の構成としては、垂木1寸角→バラ板9mm→トントン→土→瓦
という構成でした。もちろんそのままの作業では突き破ってしまうので、足場を要所に設置しながらの危険な作業となってしまいました。


瓦と野地を取り、小屋組の状況を確認しました。最大寸法の丸太で約140φ程度で大半は100φにも届かないかない材料ばかりで、出来る限り材料費を抑えるための苦肉の策であることが伺えます。
この時点で既存小屋組利用は費用的にも構造的にも得策ではないと判断し、全面的にやり替えることを決定しました。

床組に関しても土台・大引きの仕口もなくただ石の上に置いてあるだけというものでした。


よって、床組・小屋組の利用を断念し、外壁廻りの柱・梁のみを利用することとしました。現状の地盤を出来る限り触らないようにするために、現状地盤の上に砕石を転圧し、その上に250mm厚の耐圧盤をメッシュ筋10mmをダブル配筋で入れています。


既存軸組の内部側に新たな軸組を形成する方法を取っています。既存軸組と新規軸組はコーチボルトにて緊結しています。

改修後のファサードです。



改修後の写真です。
京都では露地は文化として根付いてきました。どうしても閉鎖的であり他人を寄せ付けない雰囲気を持っていますが、裏返せば、露地自体が庭とも考えられます。そのような観点から露地を出来る限り室内に取り込む為に、又は露地を庭とする為にLDKをすべてタイルとし、土間的な扱いとしました。又、露地と一体的な生活を可能とする為に出来る限り露地に対して開く事を意識して設計しました。
当初の設計では、完成状況よりもさらにOPENな計画でありましたが、この住宅が賃貸であることから、入居者にも様々な人が存在するので、どちらにも解釈できる状況を家主・不動産管理会社・設計者で話し合い今の形に落ち着きました。事業的には、家賃も倍以上としたうえで入居者も決まり、今のところは成功しているのではないかと思います。


Title 事例紹介2014-39
Posted 2014/03/10
Category 改修事例紹介