№0087〜滋賀県「大津の家」2階建てから平屋へ減築改修工事
報告者: 株式会社坂田工務店 市川由美子/住宅医
■改修概要
設計者: 株式会社坂田工務店 市川由美子
報告者: 株式会社坂田工務店 市川由美子
所在地: 滋賀県大津市
主用途: 一戸建ての住宅
築年数: 改修当時築32年(昭和58年新築)
規 模: 木造2階建て(地下室付き)/ 在来軸組工法
敷地面積:240㎡ [72坪]
延床面積:169.68㎡ [51坪]⇒ 113.05㎡[34坪]に減築
<工事範囲 99.51㎡[30坪]>
工 期: 2015年10月~2016年2月
■建築地の気候風土
比叡山延暦寺や日吉大社の門前町として古くから栄え、現在も 趣きのある街並みを形成している地域です。東に比叡山、西に 琵琶湖、その間の緩やかな傾斜地に位置しており、東西の風の 通りもよい状態です。
■改修に至った経緯
ご家族構成:ご夫婦と20代の息子さんと娘さんの4人家族
息子さんが電車好きということと、広めの敷地が魅力で購入された駅近のお住まいは、道路と敷地の段差が80㎝程度あり、建物は地下室付きの 地上2階建て。
重度の知的障害がある息子さんは段差を極度に苦手とされていることと 奥様のご両親の介護の経験から段差が全くない家にしたいとお考えで 当初は地面を全面削り取って道路からフラットには入れる平屋を新築 したいというご相談でした。
地面を削ると、周囲の家にも不具合をもたらす可能性があることや 土留め擁壁のコストのことなどご説明したところ、2階を撤去する減築 改修工事で進めることとなりました。
■既存建物:台所と浴室が2か所づつある二世帯住宅
・立地が気入って購入されたものの建物には不満が多い。
■既存建物調査
・木構造は概ね良好と判断しましたが、解体中に基礎が無筋であり、 一部にひび割れもあることが判明しました。
RC造の地下室の配筋図を確認し、現在のコンクリートの状況も 良好であることから、木造部分の基礎も鉄筋コンクリートであると の思い込みがありました。鉄筋探査機などを使い確実に判断すべき だと反省している点です。
■ご要望① 1段も段差のない住まい
道路から一階床高さまで1350mmの段差解消については 施主様と様々検討した結果、省スペースで年老いても 利用可能な昇降機を設置することにしました。
■ご要望② 2台分のゆったりした駐車場が必要
2台分の駐車スペースと昇降機を設置するため、緑豊かな前庭をやむなく撤去しスペースを確保しました。
・軒先を低く抑え、昇降機を板張りの壁で覆うなどし、出来るだけ柔らかい印象になるよう工夫しました。
・また、両隣の緑豊かな外構に続くよう、ささやかながら植栽スペースを用意し、緑化を促しています。
■ご要望③ 大きな声を出すことがあるので隣家からできるだけ離したい
北側に奥行きのあるリビングとし、南面に深い庇と両袖壁に囲われたデッキを配し、光を取り入れながらも少し奥まった感覚で安心感が得られるよう計画しました。
■ ご要望 ④ リビングの横に着替え部屋が必要
■ ご要望 ⑤ 寝室は一人ずつの個室にしたい
■ ご要望 ⑥ 寝室のうち1室はトイレに直接入れるようにしたい
・長い廊下と主寝室・洋室1は天井までの建具と欄間ガラスでつないで閉塞感をなくし、通風・明かりを確保。また、可変性も持たせています。
・ 耐力壁は既存基礎・大梁・火打ちを活かして構成。
■劣化対策(維持管理)
■耐震性能
・解体時に無筋であることが判明した基礎を全面補強することは時間的のも予算的にも難しかったため耐力壁線を中心に差し筋したうえで鉄筋コンクリートを既存基礎に添え打ちすることとしました。
■断熱性能・省エネ性能
建物全体に深い庇をかけ、全ての居室に掃出し窓を設け通風を取っています。
■バリアフリー性
■火災時の安全性
■性能診断結果概要
■完成
■総括
本物件は住宅医スクール受講前の工事で、基礎が無筋であることを調査時に見落としていたり、省エネ性能が基準値クリアした程度でよいと考えていたことは反省すべき点です。 しかしながら、様々なご要望に一つ一つ応えるだけでなく、採光や通風、耐震性、 周囲の景観や将来的な可変性等、設計者として住まい手様が計画中には気づきにくい部分 を織り交ぜてデザインできたのではないかと思います。
膝がいたいとおっしゃる奥様もできるだけ階段を利用して、いつまでもお元気に過ごして いただきたいと思い、玄関ポーチの階段の両側に無垢の木の手すりをつけたところ、 息子さんが自然に階段を利用するようになられたことは設計者としてもうれしい限りです。
3つの寝室を天井までの建具で間仕切り、開いたり閉じたりしやすいようにしたところ、 3部屋が4人の寝室となり、広い個室が今では娘さんの「ヨガ教室」として利用されています。
住宅医スクールで学ぶ改修内容を6つの性能ごとに分析する方法は、様々な視点で建物や 改修内容を確認でき、出来ていることとできていない点がより明確になりました。
今後は、各性能の向上を目指して取り組んでいきたいと思います。