№0086〜熊本県「菊池の家」改修工事

報告者:Space Lab.一級建築士事務所 佐藤健治/住宅医

■改修概要
設計者:Space Lab.一級建築士事務所 佐藤健治
報告者:Space Lab.一級建築士事務所 佐藤健治
所在地:熊本県菊池市
用途:一戸建ての住宅(農家住宅)
築年数:62年
(1951年:新築→1971年:増築→数度のリフォーム→現在に至る)
構造:木造2階建/在来軸組工法
家族構成:4世帯(7人)
延べ床面積:164.22㎡
改修床面積:164.22㎡(内、増築6.24㎡)
工期:2014年12月~2015年4月(約5ヶ月)

建築地の周辺環境
のどかな田園風景の中に、小さな神社が点在する

改修に至った経緯
希望予算内では、新築で4世帯が住まえる間取りは難しかった為

■改修の希望内容
屋根全葺き替え
外壁全張り替え
電気配線全取替
浄化槽の新設
住宅設備、配管全取替
4世代が住まえる間取り

改修前
〈劣化対策〉

  • 小屋裏換気は設けられていなかったが、気密性が低かったため、小屋裏の状態は悪くなかった。
  • 雨漏れが未補修で、天井材が剥がれたままだった。
  • 外壁は、サイディング及びケイカル板のようなものが構造躯体に直貼りしてあり、コーキングがなく、 浮き、剥がれ見られ、北面はカビが発生していた。
  • 浴室の躯体が水漏れにより腐朽していた。

〈耐震性〉

  • 昭和46年の増築部はブロック基礎、その他は、無筋コンクリート基礎だった。
  • 壁は、一部土壁で、その他は、柱のみで、筋違は全く入っていなかった。
  • 屋根は、セメント瓦葺き。
  • 柱材の本数が著しく少ないうえに、雨漏れにより腐食もしていた。

〈省エネルギー性〉

  • 給湯器は、省エネタイプではない一般的なものを使用していた。
  • 暖房は、エアコンと石油ファンヒーターを使用していた。
  • 照明は、白熱電球及び蛍光灯だった。
  • 湿式の浴室で、保温性が悪く家族が多いので冬場は入浴の都度たし湯を行っていた。

〈バリアフリー性〉

  • 玄関及び土間は200~300mmの段差があり、各部屋間にも10mm~30mmの段差があり、つまずきやすい状態だった。
  • 階段は急勾配で手摺はなく踏面も狭かった。
  • 浴室は、湿式で浴槽は深くて小さく高齢者には、跨いで入るのが大変そうだった。

〈火災時の安全性〉

  • 防火地域の指定はなく22地域外。
  • 収納が少なく物があふれ、避難経路が確保できてない状態だった。
  • 内装は、プリント合板で防火性のないものだった。
  • 電気配線が古く漏電の恐れがあった。
  • 屋根、外壁共に劣化し防火性が期待できない状態だった。

■平面計画
〈一階平面図〉

■改修後
〈劣化対策〉

  • 屋根をガルバリウム鋼板及び陶器瓦に全面葺き替えを行い、軒先及び棟換気を設けた。
  • 外壁をサイディング張りに全面張替え、通気層を設けた。
  • 浴室をUBに取替に伴い腐朽していた構造体の取替を行った。
  • 腐朽している土台や柱・大引きは撤去し、新たな材を使用した。
  • 設備の更新に伴い、配管の全取替を行った。
  • 軒を深くし(1m)、外壁の劣化防止に努めた。

〈耐震性〉

  • 基礎のひび割れ部分は、補修を行なった。
  • 腐朽している構造材は取替え、床束、大引、根太を増し補強を行った。
  • 柱を3尺ピッチで増やし、筋違や構造用合板で耐力壁を設けた。
  • 接合部は、新規金物で補強した。
  • 床は、捨て貼りで構造用合板 12mmの上にフローリング15mm仕上げとした。
  • 屋根は、一部をガルバニウム鋼板とすることで、軽量化を図った。

〈断熱性〉

  • 天井:ロックウール100㎜
  • 壁:ロックウール75㎜
  • 床:A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b50㎜
  • 1階リビングライニングは、天井も他の居室より面積が広く、滞在時間が長い為天井にA種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b50㎜を施した。
  • 窓は、一部を除いてアルミサッシのペアガラスに取り替えた。

UA値 改修前4.11改修後0.92  NA値改修前8.7改修後1.6

〈省エネルギー性〉

  • 設備機器を取り替えた。(給湯器、トイレ、水栓)
  • エアコンは、省エネ性能の高い新型に買い替えた。
  • 照明は、一部を除いてLEDに変更した。
  • 浴室は、ユニットバスに変更し、追炊きのできるものとした。
  • 屋根、外壁の全面交換を行ったことで気密性の向上を図った。
  • すだれの設置し、冷房負荷の低減を行った。

〈バリアフリー性〉

  • 床を張替、室内の段差を解消した。
  • 階段は、掛替を行い、勾配を緩くした。
  • 玄関上がり框、トイレ、廊下、階段には手摺りを設置した。
  • トイレを和式から洋式に、浴室はUBに取替た。
  • 玄関ドア及び各部屋間の建具は、引戸とした。
  • 玄関アプローチにスロープを設けた。

〈火災時の安全性〉

 

  • 平面計画を整理し、室内の段差を解消することで、避難経路の確保及び明確化を図った。
  • 内装は、下地プラスターボード9.5mmに準不燃のヒビニールクロス仕上げとした。
  • 全ての電気配線のやり替えを行った。
  • 屋根を耐火性に優れたガルバリウム鋼板と陶器瓦とした。
  • 外壁をサイディング張りとした。
  • キッチンの取替を行い、周囲には不燃のキッチンパネルを施した。

■性能診断結果概要

※今回、一次エネルギー評価を行っていない為
  省エネルギー性の値は出ていない

■総括

  • 本物件は、住宅医スクール受講以前の物件であり、主に耐震性及び断熱性の知識が不足していました。今後は、基礎補強を含めた総合的な耐震性能の向上に努めて行きます。
  • 4世帯が住まえるプランにすると共に、安心して住まえる住環境の向上を目指し、意匠的に心地の良い空間と耐震性
  • 省エネルギー性の向上を限られた予算の中で追求しました。
  • 屋根の形状は、改修前とほぼ同じだが、外観の雰囲気が変わりつつも、リビング天井には、既存の梁が見えたりすることから、懐かしさと、新生活のわくわく感の両立が出来たのではないかと思います。
  • 省エネルギー性の向上を限られた予算の中で追求しました。
  • 屋根の形状は、改修前とほぼ同じだが、外観の雰囲気が変わりつつも、リビング天井には、既存の梁が見えたりすることから、懐かしさと、新生活のわくわく感の両立が出来たのではないかと思います。

佐藤健治