№0076〜広島県「まゆの蔵」改修事例報告

設計者:株式会社エヌテック/谷口護、広島工業大学/天満類子
報告者:株式会社エヌテック/谷口護
所在地:広島県広島市安佐南区西原
主用途:改修前/納屋、改修後/住宅(夫婦+子一人)
築年数:昭和2年建築、改修時で築89年
規 模:木造2階建て(地下空間有り)
建築面積:80.59㎡(24.38坪)
延床面積:161.18㎡(48.76坪)
着工:2015年6月
竣工:2015年12月(工事期間7ヶ月)
省エネ住宅ポイント

大正初期に創業した天満製糸工場のまゆの保管庫として昭和2年に建築された蔵を住宅へ改修した事例報告です。
現在は製糸工場も解体され、この蔵と住居棟が1棟だけ残っており、地域の歴史的にも大変重要な建物であると考え、
「記憶の継承」をコンセプトにしたリノベーションを意識し設計・工事を行いました。


 
 
改修直前の蔵の外観は、昭和40年代に改修された状態で、土壁からモルタル外壁に変更され、
1間幅の引き違い窓になっていました。建物内部は、蔵の隣に建つ主屋の改修工事が平成16年に行われた際、
仮住まいとして生活できるよう台所の設置と部屋に間仕切る工事が行われていました。
2階は倉庫として利用したり、洗濯を干したりする場所として利用されており、この蔵の特徴であるトラスが連続した姿は迫力がありました。
ただ、無断熱のため夏は大変暑く、冬は大変寒い場所でした。
 

 


改修工事にあたり、まず玄関と浴室は主屋と共有する計画としています。
蔵の南側に主屋があるため、南からの日射取得が難しい状況です。
そのため、1,2階ともにコアのあるプランとすることで、南以外の方位から採光と通風を取得するようにしました。
コアには、便所・洗面・洗濯脱衣室・シャワー室・収納の機能を集約し、
通り抜けできる動線も確保することで使い勝手の良い空間となりました。
「記憶の継承」のため、モルタル外壁はすべて撤去し、建設当時に近づけるために左官壁としました。
外張り断熱を採用し、壁に厚みをつけることで窓周りの表情を工夫しています。
窓のサイズも半間ピッチの通し柱内に納まるよう入れ替えることで蔵の外観を整えています。
建物内部は、松の梁・トラス・床下地板を意匠として現すことにし、内壁のラワン板も出来るだけ残すようにしました。
 




 
 
【劣化対策】
壁を解体すると、一部の梁に雨漏りによる腐朽が確認されたので、新しい梁で架け替え作業を行いました。
また、屋根垂木の先端や破風はモルタル塗りのため雨水の浸入による腐朽も見つかり、
屋根垂木の一部交換や補強、ひねり金物の設置などの対策も行いました。
今回の改修工事は、住宅医スクールの受講前だったので、基礎の強度試験などが未調査となり、
今後の課題として追加調査を実施したいと思います。ただ、基礎に関してはレベルのばらつきが少なく、
土台の防蟻処理も行われており、地下空間として利用している点で白蟻による害も見当たりませんでした。


 
 
【耐震改修】
昭和40年代の改修工事の際に1間幅の引き違い窓に刷新されましたが、
その際に本来半間ピッチで建っていた通し柱を切断する工事が行われていたので、
今回の改修工事では元の半間ピッチの通し柱に戻す作業を行いました。
外壁と2階の床には構造用合板を張って耐震性を高めました。
 

 
 
【断熱改修】
床・壁・天井と無断熱状態だったので、床は地下空間の高さを利用しセルロースファイバー60kg/m3を200mm、
外壁は外張り断熱部はフェノバボードを合計90㎜、主屋との接続部は高性能グラスウール14kgを105mm、
屋根はセルロースファイバーを250mm吹き込みました。
また、窓はエクセルシャノンの樹脂サッシでトリプルガラスを採用しています。UA値は0.3W/㎡K、ηA値は1.1%となりました。

 
【その他】
まゆの保管庫として利用されなくなった後、倉庫として蔵を貸していたこともあったので、
梁がたわみ2階の床の不陸が大きくなっていました。そのため、コア空間の壁の一部には柱を追加し、
可能な範囲で不陸調整を行いました。また、意匠上、梁は全て現しとしたかったので、
2階床の不陸調整と配線・配管スペース確保を目的に、フリーフロアを採用して納まりを調整しています。


 
【総括】
今回の改修工事は自宅ということもあり、特に断熱性能と意匠とのバランスに拘って改修工事を行いました。
住宅医スクールの受講後の計画となっていれば、他の項目にももっと目を向けていたと思いますが、
その点は今後の課題としたいと思います。改修工事後に地域の方から、温かい声をいただくこともあり、
建物を残してよかったと実感しています。また、温熱的なバリアフリーが実現できたので、ストレスなく家中を移動できたり、
空間を利用できる点も大変満足しています。
基礎に関しては、いつでも点検できる状態なので、強度試験なども含めてさらなる改善を図りたいと思います。