№0061〜京都市「釈迦谷の家」改修事例報告
報告者:一級建築士事務所 FORMA 建築研究室 [http://www.forma-fae.com]
■工事場所:京都市北区
■家族構成:夫婦(70代)2人子供(30代)1人
■工事期間:平成23年3月~平成23年12月
■構造・規模:混構造 RC造地下1階、木造1階建
■地下面積:91.97㎡ 1F床面積:121.40㎡ 床面積:213.37㎡(64.54坪)
■設計:一級建築士事務所 FORMA 建築研究室
■施工:施主直営による分離発注
■平成22年度第1回 長期優良住宅先導事業(国土交通省) 採択
■木造建築病理学・「既存ドック」システム2 に基づいて設計
■概要
昭和55年建築された住宅をクライントご夫婦がロケーションと建物の佇まいを気にいり、別荘として購入され、老後はこの家で暮らしたいという事で耐震性の不安、温熱環境の改善、劣化改修、老後に備えた改修を行った事例です。
1F部分がご夫婦の生活の主たる場で現状の平面計画もご夫婦の生活スタイルに合致していることから間取り変更に主眼を置かず、限られた予算で不安や不満個所の定量化を行い、費用対効果の高いと感じられる、今後の保守を考え今やっておくべき劣化の改修を行う事としました。
【詳細調査を踏まえた設計】
耐震について
混構造なので半地下のRC部分は除き1階(木造部分)で計算
・耐震診断(一般診断)は0.9 (倒壊する可能性がある)
・常時微動は7~9Hz (2F基準の6Hzに比べて剛性を有する)
・基準法 充足率
本建物では、地震力に対しては東西方向及び南北方向において耐力壁の壁量は不足している。また、風圧力に対して東西方向は満足しているが、南北方向は不足している。(詳細調査結果引用)
バランス計算
本建物は東西方向の南端部において充足率が満たされていない。また東西方向の壁比率も50%を満たしていないので耐力壁のバランスが悪い結果となった。南北方向の西端部および東端部において充足率が満たされないていない。南北方向の耐力壁のバランスが悪い結果となった。
建物全体のバランスを良くするため、改修時には東西方向の南端部および南北方向の西端部と東端部に耐力壁を増やす必要がある。その際には耐力壁の配置バランスに充分留意する必要がある。(詳細調査結果引用)
・N値計算では15か所の金物補強が必要という結果です。
◎ これらを踏まえて耐震診断(一般診断)判定値1.20(一応倒壊しない)とし、必要個所に金物設置を行う耐震改修計画を立てました。 接合部、劣化改修の必要な部分と耐震壁改修部分を重ね合わせる事で工事の合理化を計りました。
※色付き部分は劣化改修、開口位置増設による造作と耐力壁を重ねた部分
温熱環境改善
熱損失係数(Q値)は4.79W/㎡Kという結果となった。
これは、現行の次世代基準で建てられた住宅と比較すると、約1.7倍の熱の逃げがあることになり、同じ温度に保とうとすると、1.7倍のエネルギーを必要とすることになる。
部位別の面積割合と熱損失割合を見ると、熱損失が一番大きいのは開口部で44.37%、次いで床18.37%、換気16.54%、屋根・天井9.90%、外壁 9.21%となっている。
天井、外壁に断熱材が入っているため、部位面積の割に熱損失の割合が小さくなっていることがわかる。一方、開口部はシングルガラスアルミサッシのため、部位面積の割合に比べ、熱損失の割合が大きくなっていることがわかる。(詳細調査結果引用)
以上の結果を元に優先個所と工事コストを概算を検討して、アルミサッシガラス部分の断熱性能強化と床下付加断熱そして天井の付加断熱を行いました。この工事においても劣化改修、耐震改修、フロアの段差解消等の工事に絡めて工事経費を削減する事に役立てています。
設計Q値は3.02W/㎡Kとなりました。
一日のうち一番長い時間を過ごす居間、冬場は日当たりが良いこと、床暖房の効果もありますが2月中~後半、朝の気温18度前後、日中(快晴時)は日射のダイレクトゲインにより室温も20度前後になる事もあるとのことでした。
老後に備えた改修
このようにご夫婦の生活においてはワンフロアーで同線はスムーズです。
また、高台の眺望や借景を活かした設計となっているので日々のうるおいも感じられる平面計画です。ただ、各室間の敷居が15mm、浴室と洗面脱衣部分は120mm存在し、膝を患う奥さまの移動時の障害となっています。家の動線の中で使用頻度の多いところを重点的に段差解消を行いました。
劣化改修
屋根については購入前に葺き替えがなされていて、軒が深い建物のため外壁の傷みも心配するほどではなく、床下、小屋裏の蟻害、腐朽は見られませんでした。
気になる部分としては擁壁と家の地下部分外壁が近接していて地震時に擁壁が動いた事により家の外壁にひび割れが起こっていたいました。
雨水が入ることにより将来更に躯体を痛める可能性があるので劣化改修として優先的に改修しています。
佇まいを気に入られていたご家族でしたので、外観や平面の大がかりなリフォームでは無く、保守と各種の基本性能を上げる事に主眼を置いたリフォームでした。
性能を数値化、提案して住まい手と共に目標を定め不満だった個所が改善されたリフォームとなりました。
今回は施主による分離発注のサポートという側面もありましたが施主自ら工事に立ち会う事で思い入れが深まり愛着のある家となったと思います。
改修を機に快適で潤いのある暮らしをされる事を期待します。