№0046〜受け継ぐ家

山根木材リモデリング一級建築士事務所 村田知也(HPはこちら
閑静な住宅地にある築80年のお家。以前はお施主様のお母様が一人で生活なさっていた。お母様が他界されたのをきっかけに、主のいなくなったこの家を、親戚が集い・寛げる家にリフォームする計画をたてられた。

■概要■
・建設地:広島県廿日市市
・構造:伝統工法 平屋建
(リフォーム前:平屋+2階建/伝統工法+在来軸組工法)
・築年数:約80年
・延面積:100.18㎡ (30.30坪)
(リフォーム前:246.52㎡)
・工事期間:約180日

■要望と課題■
お施主様から要望のヒアリングを行い、建物に関して不安・不満に感じていらっしゃる項目と、間取りや生活、意匠面に関する要望が以下のように整理された。

【建物についての不安・不満】
① 地震で倒壊する恐れがある
② 冬は寒く、夏は暑い
③ 建物が大きいので、維持管理にかかる費用と労力が不安
④ 防犯が不安
⑤ 木材や土壁が劣化している

【要望】
⑥ 生活動線をすっきりさせたい
⑦ お掃除を楽にしたい
⑧ 来客を迎える環境を整えたい
⑨ お手持ちのアンティーク家具や雑貨と調和する仕上がりにしたい
⑩ 思い入れのある家なので、昔の面影を残したい
改修前① 改修前② 改修前③
改修前:外観                  改修前:ダイニング               改修前:和室 
■インスペクションと計画■
住宅医になる前の案件であるため、独自にチェックシートや報告書を作成し、それらをもとに、インスペクションを実施した。既存建物の図面が残っていなかったため、まず、図面のスケッチを実施。劣化調査、床下調査等と、耐震診断を行うことで建物の現状を把握し、お施主様の不安と要望に対する計画を立てた。
床下木材の含水率は洗面所の下が一番多く、17.5%であったが、全体的に良い数値が出た。しかし、蟻害状況は広く散布していた。木材(構造材)自体の痛みはそれほどひどくなく、とりかえは少しで済みそうであった。その他、雨漏り跡や床のたわみ、傾きなどの劣化状況がみられた。
現況スケッチ 点検報告書 劣化報告書
現況スケッチ                  床下調査報告書                  劣化調査報告書
 
お施主様との打ち合わせを重ね、不安と要望に対して、調査結果を踏まえて以下のような計画で改修を進めていくこととした。

[1] 耐震補強、劣化状況の復旧 (①⑤の改善)
[2] 温熱、省エネ性能の向上 (②の改善)
[3] 減築 (③④⑥⑦の改善)
[4] あるものを活かし、面影を残しつつ、お手持ちの雑貨と調和する空間 (⑧⑨⑩の改善)

■計画の詳細と完成後■
リフォーム前後の図面は以下の通りである。ポイントは、南面にある離れの減築であり、土地と建物の有効活用、母屋の日当たりの解消などいくつもの効果を生み出した。改修で重要である耐震性能や温熱環境の向上ももちろん実施し、お施主様の思い入れのある意匠面も、現場で何度も打ち合わせを行うことで納得のいく仕上がりとなった。

既存平面図

平面図:リフォーム前(斜線部分は減築) 

プラン平面図

平面図:リフォーム後 

[1] 耐震補強、劣化状況の復旧

耐震補強に関しては、一般診断法により補強計画を立てた。基礎を耐力壁の下部に設置し、耐力壁の不足は構造用合板で補強を行った。柱頭柱脚金物はN値計算を実施し、N値を超える性能を持つ金物を設置した。

基礎補強は思い通りにいかないことが多い。現場によっては基礎補強をした場合でも評点は足固め又は既存のままとし、数値を安全側に算定することとしている。

このお家では補強により、評点は0.25から1.39に改善され、建物の倒壊の危険性が低減された。

補強計画 壁補強写真 基礎補強写真

補強計画                    壁補強写真(制振金物付)          基礎補強謝写写真(一般部)
※補強写真は呉市I邸工事のものを使用

[2] 温熱、省エネ性能の向上

温熱計算を行い、建具の取替え、断熱材の充填を行った。既存の家屋は、天井、壁、床ともに無断熱であり、UA値は3.51、ηA値は10.4であったが、改修によりUA値は1.08、ηA値は3.4まで改善された。広島は、瀬戸内海の穏やかな気候というイメージがあるが冬はとても寒く、住まわれている方の多くが、現在の家の問題点として寒さを挙げるほどである。改修前後の室内環境をグラフなど視覚的に効果の分かる資料と推定室内温度を算定し表現することで温熱改修の内容を理解していただいた。また、性能面ではマイナスになるものの、お施主様の昔の面影を残したいという思いを尊重し、縁側の建具は取り替えずそのままとした。

改修後縁側 改修後の縁側の様子 建具は取り替えず、面影を残した

[3] 減築

これまで増築を繰り返しており、240㎡を超える延べ面積となっていた。建物と敷地の有効活用、維持管理の負担軽減、温熱環境の改善、防犯性の向上を目的とし、もともとあった建物のみを残し、その他の部分は大胆に減築を行った。減築をした場所は貸駐車場とした。

配置図面

配置図/敷地周辺状況

外観①外観②外観③

改修後:建物外観

減築により、空間をコンパクトにまとめることが可能となり、すっきりとした動線が実現された。北側に水周りを設け、居室は日当たりの良い東~南~西に配置。離れを解体したことで、南側からより多くの光を取り込むことができ、道路に囲まれたこの敷地を活かすことができている。また、視界がひらけ、室内にいるときにも意識が外へ向くため、防犯性の向上にもつながっている。

さらに、DKとリビング、応接を建具を開け放して1つの空間になるよう工夫。一方で天井の形状には変化を持たせ、それぞれの空間に表情を持たせた。

LDK-1(加工) 玄関-ホール キッチン(加工)

改修後:リビング               改修後:玄関ホール                改修後:DK

[4] あるものを活かし、面影を残しつつ、お手持ちの雑貨と調和する空間
築80年のこのお家は、お施主様をはじめとして、ご親戚の方々、ご近所の方々の思い入れも大きかった。面影を残して欲しいというお施主様の思いを尊重し、外観は以前の佇まいを残し、内装もあるものを積極的に取り入れ、活かした空間とした。
リビングの天井に見える小屋裏の化粧梁は、お施主様のイメージを参考に、減築した離れから移築。空間に重厚感をもたせている。また、旧家で使用していた建具とガラスを再利用することで、お手持ちのアンティーク雑貨との調和を図れるような提案も行った。
外観和風-1 造作-梁
改修後:外観 変わらない佇まい                        改修後:離れから移築した梁

ホール-広縁 (1) 書院こうもり
改修後:広縁 旧家のガラスをはめ込んだ造作欄間       改修後:蝙蝠のいる書院建具もそのまま活用

お施主様、職人も一緒になって現場で詳細な打ち合わせを行うことで、ご要望以上の古民家リフォームが完成した。古民家においては、築年数の大きさに比例して住まい手やその周りの人々の思い入れも強くなる。性能面を向上させ、住環境の改善を図ることは大前提であるが、それに加えて慣れ親しんだ面影をところどころに残していくことで、これからも永く受け継がれていく家へと生まれ変わる。
今回事例紹介をしたこのお家も、耐震性能や温熱環境の向上はもちろんのこと、以前の面影を残しながらお施主様の好みもしっかりと取り入れた提案に、大変満足頂けた。
昔からの面影を伝えながら、昔の家を知る人が集える、新しい世代へ受け継がれる家に生まれ変わった。