№0060〜神奈川県「mokusei_House」
報告者:アトリエフルカワ一級建築士事務所 古川泰司
・設計 監理:アトリエフルカワ一級建築士事務所
・施工:株式会社堀井工務店
・設計期間:2011.04~2011.07
・工事期間:2011.08~2014.10
・所在地:神奈川県川崎市
・建築時期:1970年ごろ
・構造:木造軸組2階建て
・床面積 1階31.14㎡、2階24.84㎡
計 55.98㎡/16.9坪(改修工事は主に1階)
・工事費:850万円
■一人で暮らすお母様のために
一度はご病気で身体が不自由になられたために息子さんご夫婦のマンションで一緒に暮らしていたお母様ですが、身体の回復とともにご自宅に戻られたいと思うようになりました。早くに亡くなられたご主人と一緒に過ごした自宅でもう一度暮らしたいと願うようになったのです。ご自宅に戻られたかったのはそればかりではありません。何と言っても、そこには園芸好きのお母様が手塩にかけて育ててきたお庭の植物たちがいました。息子さんのマンションにはお庭がありませんでした。お母様は、息子さんとのマンションぐらしで、ご自宅のお庭の植物たちと再び一緒に時間を過ごしたいという思いが強くなっていったのではないかなと思います。
しかし、戻るとはいっても、今まで暮らしていたお宅は、間取りはお世辞にも使い勝手が良いとはいえませんでした。生活動線も混乱しており収納もあちこちに点在していて納まっていませんでした。玄関も開き戸で道路とのスペースも狭く出入りも大変でした。さらには、洗面所が浴室の中にあって部屋と浴室の段差が30cmと日々の使い勝手も悪く、ましてや半身に不自由が残るお母様にはそのままでは暮らすことが困難なお宅だったのです。
そこで、お母様がひとりで暮らせるようにと、ご実家の改修計画が始まったのです。
■耐震補強計画と間取り提案
改修の相談については、最初は、新聞の折込チラシで知ったリフォーム会社に相談し、次に大手リフォーム会社に相談されたそうです。ただし、どちらの会社も耐震性能を確保するためには建物の角の連続窓のどちらかを耐力壁にしないと駄目だという提案でした。しかし、この連続窓は居間と庭との一体感をもたらしてくれている大切なものです。お母様も耐震性能は欲しいけれども、せっかく庭の木々との生活を取り戻すために戻るのに庭との一体感が無くなってしまうのでは本末転倒です。リフォーム会社の提案にがっかりされたお母様は改修工事への気持ちも無くしてしまっていました。
そのような理由で中断してしまっていた改修計画ですが、やはりなんとかならないものだろうかと息子さんの方が私のところに相談に来られたのでした。
さっそく、現況調査と耐震診断を行いました。耐震改修計画を練りながら、お母様がお一人で暮らすための生活改善の提案を考えました。
その結果、耐力壁をバランスよく確保して2階床面の水平剛性を確保することで、角の連続窓はそのままでも耐震性能を評価点1以上にすることが出来る事がわかりお母様に大変喜んでもらえる結果となりました。改修工事も納得の内容ですすめることが出来たのです。
住宅医は建物の診断をするプロでありますが、改修して直すことでより良い住まい方が出来るように、そして、現況の豊かさな生活を損なうことのない提案ができなければだめではないかと思います。改修工事は技術力も大切ですが住まい手の生活を豊かにする提案力も大切なのだと思います。
■収納とバリアフリーデザイン
元の住まいでは収納があちこちに点在していましたので、何がどこに入っているか煩雑になっていました。そこで、玄関に近いところに収納スペースをつくり、まとめて収納ができるようにしました。ここは長く愛用されてこられたタンス置き場でもあります。
いままでは、6帖の畳の和室ひと部屋で就寝も食事もされていたお茶の間生活だったのですが、布団の上げ下ろしも大変ですし床座の生活も大変です。改修にあたりベットと食卓テーブルの生活にも変えることになりました。
就寝分離をはかるために、使っていないもの、捨てられないもので一杯だった外物置を整理して、室内スペースに転用し、ベットを置くスペースを確保しました。
また使い勝手の向上を考え、ベットスペース、ご飯を食べてテレビを見る居間スペース、そして、キッチン、トイレお風呂の水回りが一本の導線でつながり他の動線と交わらないような生活動線を整理したワンルーム構成としています。
バリアフリーの考えとしては、段差をなくす、少なくすることは当然として、こだわりはドアをすべて引き戸にしたことです。特にトイレは引き戸にするだけではなく正面入りから横入りしています。横入りは室内が広く使えますし、介助が必要になった時も介添えがしやすくなります。
■効果を発揮した温熱改修
庭に面した角の連続窓は木製のガラス戸でした。雰囲気もとても良く、木の格子から眺める庭の木々の姿は格別なものがありました。当初はその雰囲気を残したいと考えていましたが、気密断熱性能を少しでも上げたいということになり、ペアガラスのサッシュに交換することになりました。
解体工事が終わってびっくりしたことは壁の断熱材がまったく入っていなかったことです。床下の断熱材が入っていないことはよくあったのですが壁に入っていなかったのにはびっくりしました。外壁は亜鉛鉄板一枚のサイディングで室内はラスボードに漆喰塗の仕上げでしたので隙間風もどんどん入ってくるような状態で冬はさぞ寒かったに違いありません。
今回の改修では1階のサッシュはすべて交換し、外壁面に断熱材を充填し、床下にも断熱材を充填しました。また、隙間風の侵入思想な箇所を徹底的に塞ぎました。
気密性能、断熱性能は新築に比べれば心もとないものではあるとは思いますが、もともとの仕様から比べれば格段に性能アップすることが出来ました。
お母様も冬に暖かくなったと喜んでおられましたし、改修計画で風の通り道を考えて窓をつけたことも効果を発揮してくれたこともあり夏も涼しくなったと、喜んでくださっています。