住宅医の改修事例№109~愛知県『亀首(かめくび)の家』

報告者:梅村 裕子(住宅医 / 梅村工務店 / 愛知県)

建築地の気候風土

愛知県豊田市の猿投地区に位置する建築地は、北に猿投山、周囲は畑と田んぼに囲まれた田園地帯です。盆地地形のため夏は蒸し暑く、冬は山からの風が吹きつけ体感温度も低く感じます。
豊田市の中でも北部に位置し、愛・地球博記念公園まで車で15分。農地と自動車関連企業が混在する地域です。

 

改修の背景

※報告者の自宅の改修です
<要望>
父親の建てた家を改修して、快適に安心して暮らせる家にしたい。
<背景>
建築当初、三世帯が住み、自宅で葬儀も想定して建てられた田の字型間取りの家を、昔の面影を残しつつ家族が過ごす部屋を重点的に改修したい。
・二階の直下に壁や柱がないため、大地震への不安があり、耐震性を高めたい。
・冬の寒さは高齢の父親の健康面で心配。家の中での活動範囲を狭めている。
・湿気(結露)で押入れの中のものがカビた。
・設備関係の老朽化が気になるので改修したい。
・孤立しているキッチンと居間をつなげて家族と会話しながら作業がしたい。
・年二回は親族が30人ほど集まるので、可変性のある間取りとしたい。



土台水切りなし。基礎表面にひび割れ、サイディングに割れあり。


床下の基礎は健全でべた基礎。シロアリの被害もなく乾燥しています。


小屋組みは乾燥して雨漏りあともありませんでした。


北側キッチン。


南側居間。不陸も無く、戸の開閉も支障なく行うことができました。


 

住まい手の要望

昔の面影を残しつつ快適に安心して暮らせる家にしたい。
耐震は1.0以上、断熱は6地域基準の UA 値0.87を満たすものとするため、長期優良化リフォーム認定を前提としました。
 

 
 

 
 



外壁を張替え、水切りを設け、基礎のひび割れを直しました。

耐震性について

二階の直下に柱や壁がないこと、水平構面の考え方が少なかったことをふまえ、二階直下に壁を増やし下屋根は水平に面剛性を高めました。合板による面剛性の強化が難しい部分は水平ブレスを採用しています。
耐力壁は、一階は外部側に、二階は内部側に構造用合板を使用しました。上部評点は0.28から1.35に向上。
尚、実際の強度が向上したか否かの確認のため常時微動調査を行いました。調査には岐阜県の森林アカデミーさんにご協力いただき、水平構面の相談にものっていただきました。
改修前:大破(倒壊)から、改修後:軽微な損傷レベル(阪神大震災クラスの地震に耐えうる)という結果にほっとしています。
 



 



 





 
 

 

断熱性について

土壁のみで無断熱の壁、床下に断熱はなく、二階に数年前にグラスウール100ミリをのせた状態。アルミのシングルガラスで UA 値2.03W/㎡Kでした。
実際住んでいて台所は足が冷たく、暖房を切るとすぐ室内の温度が下がってきました。
冬の朝は室内で7度くらいでした。二階寝室の室内も壁を触ると冷たく、窓下は冷気がおりてきました。
改修の計画で一階を構造用合板の外から外断熱とする計画はすぐ決まったのですが、二階の断熱をどうするかが悩みどころでした。二階の壁の断熱をあきらめることも考えましたが、長期優良リフォームの基準を満たすことができませんでした。監督からの提案で室内の柱チリの15ミリに断熱材を入れることで家全体を暖かくする計画とすることができました。二階は下屋根がまわっていましたが、内部からの断熱、耐震工事は可能でした。
断熱性能は UA 値0.68W/㎡ K まで向上し、住んでいても実感できる暖かさとなりました。
結露判定も確認しました。
 




 



 


 

 


 

 


 

 






 

省エネルギー性

給湯や暖冷房設備の仕様は従来型の省エネ性能を考慮しない機器が設置されており、エネルギー使用量は114.54GJ(当時6人家族)光熱費は439,681円でした。
冬場の主暖房として使用されていた石油ストーブをやめ薪ストーブとし、各部屋はエアコンとした。改修後のエネルギー使用量は102.72GJ(現在4人家族)光熱費は356,153円で基準値の82.48GJ より多く、一人当たりも22.25GJ から25,68GJ と増えています。
夏も冬も暖冷房なしでの時間帯の温度は向上している反面、生活範囲が広がったこと、父親が自炊をするようになったこと、各部屋でのエアコンや家電の使用等課題がありますが今後給湯器を交換の際は太陽熱給湯器にするなど検討していきたいです。
 



 



 



トイレは将来東側の3帖の納戸の場所に改装予定です。
 



建設地は22条地域。外壁は防火構造、屋根は不燃材葺き。コンロ、薪ストーブの内装制限は H21 告示225号によります。






総括


改修工事の目的は、高齢の父親が過ごしやすくするとともに季節に応じた温熱の快適性と大地震に対する安全安心を確保することでした。省エネ性の課題は残りましたが、断熱性が良くなったことで家族の生活範囲が広がり、家で過ごす楽しみを見つけることができました。
屋根の改修がなかったため、耐震、断熱を室内側室外側どちらでするかという点で悩みました。結果、一階は外から、二階は中からで納まりもよく工事もまとめられました。
下屋の外側の耐力壁に力を伝えるため水平構面を設けるなど、二階の直下に壁を設けにくい場合の考え方は今後に役立てていきたいです。
最後に、リフォームしてから家族が風邪をひかなくなりました。
この経験をお客様に伝えて、一人でも多くの方に快適に安全安心に過ごしていただけたらと思います。