№0062〜 千葉県「生垣の家」改修事例報告
報告者:もりちかぐみ/森本周子
設計監理:もりちかぐみ 森本周子
施工:施主直営分離発注 ㈱工匠 他
所在地:千葉県
設計期間:2014年6月~12月
工事期間:2015年1月~9月,2016.1月~2月
建築年数:1983年 築32年
構造・規模:木造平屋建 延床面積:167.18m2
家族構成:夫婦+子供2人
■ 数寄屋風の家を購入して新たな住まい手のための住宅に
数寄屋風の家付土地を購入して、市街地から郊外に引越す住まい手のための改修である。
この家の購入を決めた理由が、閑静な立地に加えて「有名旅館も手がけた棟梁によるこの建物がイマドキの分譲地として開発されることを残念に思ったため」という木造建築が大好きな住まい手である。
既存の建物の佇まいを残しつつ、元住人の生活感を刷新し、新たな住人の生活スタイルに合わせた改修を行なった。
■ クールなベイヒバからあたたかい杉の住まいに
この建物の玄関に入ると和風旅館を思わせ、所々に建てた大工さんの心意気が感じられた。しかし新しい住まい手の生活や好みには合わない部分も多く屋根、外壁、主な軸組、玄関は残して、内部を解体する大規模な改修となった。
元の軸組は活かしながら、閉鎖的な間仕切りを取り払って明るいLDKにするといった新たな平面プランとしている。
また、新耐震基準以降に建てられてはいるが、建物全体の耐震性と温熱環境にも配慮して性能向上を図っている。
造り直した部分の床、天井、追加の柱、造作材、建具には、住まい手の好きな杉材を用いている。
木工事は元の建物の技術を尊重しながら、若手大工さんと応援のベテラン大工さんの手によって進められた。
こうして建物はクールビューティーなベイヒバの家からほっこりあたたかい杉の家に生まれ変わった。
既存平面図 改修後平面図 (クリックで拡大表示)
■ しっかり施工された建物 床下に蟻害集中箇所あり
調査直前にみつかった建設当初の図面を持って、調査慣れした5名で建物調査を行った。
小屋裏、柱、土台等の軸組には劣化はなく、梁の金物なども取り付けられていた。
床は各所でたわみがあり、北側の部屋の床下の湿度が高く、一部の大引や束に褐色腐朽がみられた。
西南の床暖房付き元寝室の床下の大引、根太、束にはヤマトシロアリの蟻害が集中していた。
床下蟻害の状況 小屋裏の状況
■ 既存束コンクリートを外して防湿シートなしで床下に土間コンを打つ
有筋の布基礎はそのままとし、床下環境向上のため、差筋も含めて配筋して土間コンクリートを打設した。
打設前には床下の点検空間の高さを確保するための労力のかかる人力での土の搬出、防蟻処理を行った。
シロアリの先生と相談して、シロアリの土間と束石の隙間からの侵入を防ぐため既存の束は取り外し、
シート下での生息を導かないように防湿シートは敷かないことを選択した。
■ 耐震の構造評点 1.02→1.64
耐震補強として、既存の筋かい等に構造用金物を取り付け、土台にアンカーボルト追加し、建物内部から構造用面材(モイス)による耐力壁の追加などを行って耐震性能を向上させた。
■ 温熱性能 UA値0.96→0.53 Q値3.62→2.27
断熱補強として、既存の断熱材50mmのグラスウールを撤去して、新たにウールブレス、ネオマフォームを入れ直して、シングルガラスアルミサッシをペアガラス木製建具に取り換えて、熱損失を減らした。
耐震補強用の金物の設置状況 断熱材施工状況
■ before~after
南面の既存収納を撤去して連続させた明るい広縁。軒先は伸ばして垂木あらわしに。
建具はアルミサッシから木製建具に。設計、施工とも苦心した欄間の風窓付。
閉鎖的な元台所は間仕切を撤去して明るいリビングダイニングに。
天井高を抑え、床、天井を杉板で張り替えた書斎。建具もアルミから木製に。
温泉好きの住まい手がお気に入りのさわら浴槽のお風呂。
■ イヌマキの生垣が成長していく中で
引越し前より広さも部屋数も増えた新居だが、もともとリビングで過ごすことが多かったご家族は引越ししてからも広々したリビングに集まることが多いらしい。住まい手が佐倉の武家屋敷を思って植えたイヌマキの生垣が青々と成長していく中で、ゆったりとした風の流れる快適な毎日を過ごされているようである。