№0050〜自適荘 住宅医によるストック活用社会への取組み

報告 泉保真史/新産住拓株式会社

物件概要
所在地 熊本県宇城市三角町
建築年 昭和12年6月上棟(改修時築78年)
床面積 95.40㎡(28.86坪)
改修部 76.17㎡(23.04坪)
増築部 19.23㎡(5.82坪)
敷地面積 1128.19㎡(341.28坪)
用途 別荘として使用

主な外部仕様
屋根 天然スレート、粘土瓦
外壁 土壁漆喰
開口部 木製建具
玄関 アルミサッシ(シングルガラス)
設備 汲み取り式便所
井戸水
プロパンガス
立地 三角半島海岸線沿い
南側は急斜面の山、北側は県道を挟み島原湾
近くに本年度世界遺産登録を受けた三角西港
設計 MSD
施工 新産住拓株式会社

2014年3月:Ms/MSD三澤文子先生よりご連絡があり、
熊本県三角町の築79年の古民家の調査依頼をいただく。
3月18日 大阪より6名、熊本より3名により計9名にて現況調査をおこなう。
[調査内容]
調査により床下状況は石場建て。一部布基礎。大引きに蟻害箇所あり。
屋根及び軒下、天井は雨漏れによる一部腐敗あり。
壁は木舞描き桟竹壁 漆喰仕上げ
地盤:地盤調査(スェーデン式サウンディング調査)より健全な地盤と判明
マップ
柳原邸調査 127  柳原邸調査 156  柳原邸調査 178
当初、新築での建て替えか、改修かのプラン打ち合わせが行なわれ、結論として、施主お母様の想い入れの在る建物を残したいとの意向で、改修工事となる。
棟別れのキッチン、八畳間和室を解体撤去し減築。
新たな水廻り、キッチン、UB,トイレを増築。
基礎を新設し屋根をガルバリュウム鋼板にて葺き替え。
Ms屋根 038  Ms屋根 045

10月24日 何度かのプラン変更、施工費のすり合わせが行われ、契約となる。
11月20日 いよいよ工事着手。再利用の既存建具に番号をつけストックヤードに収納。
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11月26日 熊本の加藤神社様により、清め払いの儀。
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11月27日 解体着手。
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南西角柱、腐敗により仕口が完全に朽ちていることが判明。
自適柱腐敗  IMG_0066

12月5日 遣り方。
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12月9日 配金工事。
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石場建ての建物だが、一部布基礎箇所があり、天場をGL設定とし床下空間を
510mm確保。
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12月22日 土間生コン打設 基礎断熱
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12月23日 木工事 新設土台を入れる。
自適基礎コウセイ
レベルを出しサポートで支持しながら柱カット。
鋼製束で支持しレベル調整を行い土台下に配筋行なう。
廻り縁の角柱は、2箇所とも元口が腐敗している為、上部300でカット
追っかけ継ぎにて、柱補強取り替えを行う。
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11月5日 新年明け、屋根の解体着手。
下屋部は天然スレート、大屋根部は陶器瓦。
下屋は既存化粧垂木、化粧天井板をそのまま残し、既存野地板を下地として通気工法としネオマフォーム50mm+45mm施工。
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1月20日 大屋根は垂木から撤去し、入替え。通気工法として施工。
天井断熱は、防湿フィルム、PFB200mm施工。
自適屋根2  自適屋根3  自適屋根通気

2月6日 屋根の下地工事完成。
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土壁と和室天井を既存としたため、雨で濡れることが無いよう工程の組み方には十分に細心の注意をはらう。

2月17日 板金施工 ガルバリュウム鋼板0.35竪ハゼ葺き
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3月2日 内装工事がいよいよ本格化
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3月16日 外壁モルタル工事
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3月23日 建具をストックヤードから出し洗浄。戸車交換・調整を行う。
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3月25日 内部漆喰工事
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3月26日 外壁塗装工事
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3月29日 柿渋紙施工
MSD支給により、リビング天井を柿渋紙としましたが・・
ここで失敗報告、プラスターボードの下地パテに化学反応をおこし、パテ跡が変色。乾燥期間が少ないためか、材料によるものか今後検証する。
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3月30日 屋根完成
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MSDの象徴 舟形の棟包。大工さんと試行錯誤しながら取り付け。

3月31日 トイレ床はトラバーチン施工。
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突き付けると切り口が均等でない為、目地をつけて施工。
玄関はジェットバーナー仕上げの黒御影。石目を互い違いに施工。

4月 仕上げ工程。
造作建具、内部漆喰仕上げ、照明造作など。
床の地板に使用されていた欅板は加工後、カウンターテーブルに再利用。
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4月19日 お引渡し式
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自適荘改修工事は、住宅医スクールを受講するきっかけとなり、講義で学んだ事をそのまますぐ実践、検証が行うことができ大変充実した現場となりました。
施主様及び設計事務所が大阪であり、遠く離れた現場であることから、Facebookを利用し、
工事に携わるすべてのパートナー様と共有しタイムリーな質疑応答、現場報告を可能としました。
自適荘改修工事 改修前後 性能比較/矩計図(画像をクリックすると拡大表示されます)
チャート 矩計図

■GOOD DESIGN AWARD 2015受賞
自適荘 住宅医によるストック活用型社会への取組み
A1パネル
私たちは、今回新しく設けられた「フォーカス・イシュー」をストック活用型社会への取組みと考え、「プラス デザイン」として「住宅医」による改修を提案しました。
総務省の統計によると、平成25年の総住宅数(ストック住宅)は6000万戸を超え、年々その数は増加しています。
「空間資源」と言えるストック住宅を有効活用する手段(solution)として住宅改修が考えられます。しかし、日本では改修に関して学ぶ機関は少なく、その改修方法は設計者や施工者の経験値にゆだねられていました。その現状を変える為、住宅医は生まれました。
住宅医の活動が普及し、建物の再生だけではなく、家族の絆・文化や技術の伝承・地域コミュ二ティの再生にもつながっていく事。
それこそがストック活用型社会への移行が求められる理由であり、我々が取り組むべき課題(issue)であると考え応募致しました。
6月10日~7月1日 一次審査期間 (書類審査)
7月10日~9月9日 二次審査期間 (現品審査)
8月2日 東京ビッグサイトにおいて2時選考
9月29日 受賞発表
11月4日 授賞式

[審査員の評価]
既存の木造住宅を築年数に関係なく劣化部分等を適正に評価し、現在求められる水準に直すための体系「木造建築病理学」に基づいたリノベーションの例として、その方法の汎用性も含めて意味のある実施例である