「土壁漆喰・風化10選」古建築の壁から左官職人の技を学ぶ! | リレーコラム2022年5月
豊田 保之( 住宅医協会理事・住宅医 / トヨダヤスシ建築設計事務所 )
最近の趣味は、街を歩きながら、土壁や土塀などを観察すること。特に、割れている土壁や上塗が剥がれている漆喰を見ると、なんだか宝物を見つけた気分です。
でも、最近の家は、外壁はサイディングで、室内壁はクロス貼と、そういった左官仕事を目にする機会が減りものすごく残念。そんな時代ですが、歩くだけでも左官職人の技が見ることができるだけでも良い時代なのかもとポジティブにとらえて、いくつか紹介したいと思います。
黒い漆喰の下地は、黒い土だと思う人もいるようですが、普通の中塗土が下地です。よく見かけるのは、中塗り土の上に、白い砂漆喰を塗り、その上に黒漆喰で仕上げていることが多いです。しかし、この壁は、中塗り土の上、黒の砂漆喰を塗り、上塗も黒漆喰でした。黒にこだわった左官職人さんだったようです。
浅葱土の土塀です。この壁も下地は土です。中塗土の上から、浅葱土を塗っています。土塀で良く見かける白のボーダーは、浅葱土を塗ったあとに、白の漆喰を塗っています。
この白のボーダーは、浅葱土を塗る前に、漆喰で土手のようにつくっておき浅葱土で仕上げることもできます。
前の2つは、表面仕上がペロッと剥がれているのですが、この土壁はものすごく引っ付きがよく、下地と上塗がしっかりくっついています。壁に割れが入るとそこから雨水が侵入し、表面素材が剥がれることが多いのですが、この壁はそうなっていない。「そんなことでは剥がれないぞ!」と、職人の技を見ることができました。
風雨にさらされ、土も流れ、ワラ縄もなくなり、それでも壁として維持し続ける土壁。よく見ると、柱の外に割竹が打ち付けられている大壁です。竹と縄と土なので、何度でも作り直せそうな壁。それが、昔から造られてきた土壁なんだと納得できました。
雨が壁にあたると壁の足元は、色が変わり、苔が生えることも。そういった自然現象も風合いになるのが土壁です。この壁は、色が変わった範囲に白い斑点がついています。雨が影響していそうですが、汚れではなく模様ととらえることができるのが自然の壁の良さでもあります。
土の間に瓦を載せて(差し込み)、仕上げた土塀です。瓦と瓦の間は、土のようですが剥がれるようなこともなく、瓦が悪さをして染みになることもなく、荒々しいさま。
土は、粘着性があるような垂れ方をしているので、もしかしたら、漆喰!?と思ってもおかしくない表情です。
黒漆喰の蔵です。この壁の興味深いところは、庇がかかっている部分は、黒漆喰と白漆喰がそのまま残っていて、庇がないところは、黒漆喰の黒が褪せて、黒色だけが流れ落ちたような状態になっていること。まさかペンキ!?と思わせるような壁でした。黒のペンキなら、白で下地を塗る必要がないので、やっぱり黒漆喰か!?
綺麗な漆喰です。下地の土壁は、京都の中塗土だと思うのですが、純粋に中塗土の風合いだけではなく、なんだか錆土が混ざったような壁でした。実は、この建物の室内壁は、左官の技がたくさん。京都でTOP3に入るぐらいの左官壁の宝庫です。それほど知られていないので必見です。
ブロックの上に塗った土が、見事に流れています。この流れ具合が何かの研究に役に立ちそうです。自然素材だけで作る方がよさそうですが、そうできない事情で、果敢にチャレンジした事例です。ブロックの上に接着剤を塗って、土を塗ったのかな?
木摺に荒土が塗られて、中塗土と漆喰で仕上げられていました。思った以上にしっかりくっついています。法隆寺の土壁も、木の上に荒土が塗られていたことが分かっているので、それと同じような作り方でした。でも、土壁は、荒土を塗らずに、いきなり中塗土を塗ると剥がれの原因になるので要注意です。
中塗り土は、セメントが入っていないモルタルのようなものです。昔は、木摺の上に中塗り土やモルタルを塗る事例があり、その壁に雨水が侵入し素材が剥がれたことから、今のような防水紙とラスを張るような仕様になったという話を聞きます。
先人の失敗には学びがありますね。
|まとめ|
「土壁漆喰・風化10選」お楽しみいただけましたでしょうか?
日本には、まだ色々な壁が存在するので、ぜひ探してみてください。こうした視点で、色々な土壁を見るととても面白いですよ。そして、街を歩くだけで技術や歴史が学べます。古建築の壁から左官職人の技を見つけてみてください。
トヨダヤスシ
©Toyoda Yasushi , jutakui
【 トヨダヤスシ建築設計事務所さん過去の記事 】
・昭和49年につくられた土壁を壊してわかったこと!土壁の再利用を考察する~住宅医リレーコラム2021年5月はこちら