懸造り秘境3選。400年以上も現存する木造建築の耐久性と職人の知恵を探る。リレーコラム2024年1月

豊田 保之住宅医協会理事・住宅医 / トヨダヤスシ建築設計事務所 京都府 

2023年は、多くの懸造り建築を見学しました。
長谷寺、圓教寺、投入堂、室生寺、日吉大社、石山寺、一乗寺、上醍醐寺などなど、関西から鳥取に建つ長期に渡り現存する木造建築です。いずれも素晴らしい建物でしたが、その中でも、1時間程の登山を経ないとたどり着くことができない、秘境にある懸造りを3選紹介したいと思います。

長谷寺(奈良県桜井市)

圓教寺(兵庫県姫路市)

投入堂(鳥取県東伯郡)

室生寺(奈良県宇陀市)

日吉大社(滋賀県大津市)

石山寺(滋賀県大津市)

一乗寺(兵庫県加西市)

上醍醐寺(京都市伏見区)

1、 日吉大社-牛尾神社本殿・拝殿、三宮神社本殿・拝殿(滋賀県大津市)

山の頂上に建つ懸造りなので、頂上まで登山が必要。地図では、それほど離れていないように見えますが、なかなかの距離です。
登山の前に、まずは、お手洗い。ものすごく美しい建物の横にトイレがあります。地図にはトイレとしか載っていないで穴場ですね。
登山中。お天気もよく琵琶湖が一望できました。
40分ほど登ると建物が見えてきました。紅葉シーズンでしたが、すれ違った方は5~6名ほど。この建物を見たいがための登山なので、マニアックな方しか来ないのかもしれません。
頂上へ到着。牛尾神社本殿・拝殿、三宮神社本殿・拝殿です。文禄4(1595)年、慶長4(1599)年に建築された国の重要文化財。雨風にも負けず400年以上も現存できる木造建築は素晴らしいですね。
柱脚は玉石で、貫が段違いに入っています。山の頂上に建つ懸造りなので、痛みが激しいのかと思いましたが、400年以上も風雨にさらされていたと考えると、その底力は想像を超えるものがあります。
2棟の間から、琵琶湖を眺めました。この背面には大きな岩が飾られてます。見たい方は、ぜひ登山を楽しみならが、見学してみてください。

2、 醍醐寺-清流宮拝殿、客殿・摂受庵、如意輪堂(京都市伏見区)

醍醐寺はとても広いのですが、上醍醐付近までは車で行けません。霊宝館あたりに車を停めて、あとは徒歩。女人堂が登山の受付で、入山時間も14時半締め切りと、かなりの覚悟が必要です。
ここが登山路の入り口。受付の方に「1時間はかかるけど大丈夫?」と心配されました。登山が趣味ではないので、戻ってこれるのか不安になりました。
砂利道や石段などを上っていきます。先は長い。
 
途中で祠がありました。このあたりで1/3ぐらいです。。すでに疲労困憊。
小さな鳥居が見えました。ゴールかと思いきや、まだ半分ほど。ここまでで3人の方とすれ違いました。
頂上付近に到着。ここでお坊さん達とすれ違いました。下山途中のようです。私は、まだ登山中。
60分ほどの登山でようやく、建物群に到着。上醍醐の地図を見ると、建物が点々としています。時刻は15時半なのでちょうど1時間の登山でした。

客殿・摂受庵 詳細不明
重要文化財 如意輪堂 1606年再建
国宝 清流宮拝殿 1434年再建
国宝 薬師堂 1121年再建
重要文化財 開山堂 1606年再建
五大堂 1940年再建

国宝 清流宮拝殿 1434年再建。建物の角付近だけ懸造りという珍し建物でした。580年ほど前の建物と考えると感慨深い。懸造りの前に樹木が植わっているとものすごく美しいです。桜の季節に来てみたいです。
重要文化財 如意輪堂 1606年再建。懸造りの建物前に樹木があるのとないのとでは印象が違います。樹木がないと風雨に晒されることになりますが、そのような状況を感じさせない、落ち着いた風貌をしています。
「客殿・摂受庵」です。客殿と寺務所のようですが、詳細は不明。GOOGLEMAPには写真投稿がないので現地に行くしかなさそうです。まさに秘境の建物。
山のくぼ地に作られ、屋根の美しさと懸造り、周囲の樹木が見事に調和しています。
上醍醐はかなり秘境。17時に無事下山しましたが、頂上にたどり着いた時間には、だれもいませんでした。個人的に、登りはかなりつらかったです。

3、国宝・三徳山三仏寺奥院(投入堂)(鳥取県東伯郡)

投入堂を見たさに鳥取へ。事前情報で、すべり止めがある靴、手袋、リュックが必要とのこと。鎖で登るところがあると聞いていたのですが想像以上でした。
入山入口で、高校生ぐらいの子や、私より年配の方々が下山されてくるのを見て、思ったほどではないかと感じたのですが、まさかのがけ登りでした。こういうのは得意だったのですが、やはり体力がないのがネック。途中で引き返そうかと思ったぐらいです。
重要文化財の文殊堂。室町時代建築。
鎖坂を登ります。え!まさか!と思うところですが、懸造りの構造に目がいっていました。貫が斜めに入り隅柱と緊結され、筋かいもあり足元にはボルト締め。斜めに貫が入っている建物を初めてみました。
懸造りの横を上りきり、建物内に入ると絶景です。手摺がないのでちょっと怖いですが、デッキに腐りもなく健全。ここまでで約40名の方とすれ違いました。ツアーで来られている方が多く、ガイドさんも一緒に登られていました。
投入堂の手前にある観音堂です。県指定保護文化財。江戸時代前期建築。

建物の裏を通って、投入堂へ進みます。この道は、胎内くぐりというらしいです。

60分の修行の末、国宝・三徳山三仏寺奥院(投入堂(なげいれどう))に到着。平安時代後期建築。
へこみがある岩肌にそっと載せたような建物です。柱は面取りがされ8角柱ですが、最近やり変えたような話でした。磯崎新さんや六角鬼丈さんも見学に来た古建築です。
帰りも鎖を使って降りていきます。70代後半のご夫婦と一緒に下山しましたが、「そんなに早く降りたらもったいないよ、色々楽しみながら行こうよ」と声をかけていただきました。70歳を超えても平然と上り下りする様をみて、びっくりしたものの、登山の楽しみを教えてもらえた下山路でした。

まとめ

懸造り秘境3選は、到達難易度順に並べると、1-投入堂、2-上醍醐寺、3-日吉大社でした。

投入堂(鳥取県東伯郡)
 
上醍醐寺(京都市伏見区)

日吉大社(滋賀県大津市)
懸造り建築は、その様から、柱脚の腐れがネックになり建物が倒れそうなイメージがありますが、実際は、そんな気配もなく現存していました。柱は、根継をしているものもあれば、柱脚端部を10cm程度のみカットし取り換えている建物もあり、時期を見てメンテナンスがなされているようです。一般的な建物は、床下付近が隠れているので定期的なメンテナンスがしにくく放置されがちですが、懸造りは柱脚があらわになっていることが、プラスに働いていそうです。
ただ、今後はこういった仕事ができる職人も減り、木をカンナやノミで加工する経験も少なくなりつつある時代なので、これから私たちが維持保全できるのか心配です。治せないから、新しいものにつくりなおそうという発想になりがちですが、その時は、今一歩立ち止まる必要がありそうです。
自分の足で古建築を巡るのもなかなか楽しいものですが、同時に体力も必要。70歳を超えても秘境建築を楽しめるよう体力をつけておきたいですね。

写真・文章 豊田保之
©Toyoda Yasushi , jutakui


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トヨダヤスシ建築設計事務所 https://www.t-sakan.com/220207fuchu-before-after-kansei/