大工や左官がいない?11業種の年齢別就業者数(2020年国勢調査)を調べてみてわかったこと| リレーコラム2023年4月

豊田 保之 住宅医協会理事・住宅医 /トヨダヤスシ建築設計事務所 /京都

「大工が20年で半減!」

3月26日の日本経済新聞の記事が目にとまりました。前から指摘があったことですが、少し気になったので2020年の国勢調査のデータから調べてみることにしました。職人さんが、実際にどのくらいの減っているのか、又、若い職人さんはどのくらいいるのか、他業種も含め11業種の年齢別就業者数を紹介したいと思います。

0、大工・左官・畳工就業者数の推移

まずは、日経の記事に掲載されていた就業者数の推移について調べてみました。ピックアップしたのは、大工と左官、畳工の3業種です。結果は、1985年に約80万人いた大工職は、2020年には約30万人に。左官職は、約22万人が約6万人に。畳工は、約3.5万人から約9千人に減っていることがわかりました。
減っていることは予想していましたが、大工職の減り方は顕著です。


 

1、 大工職

では、2020年に大工職が何人いるのか、年齢別に調べてみました。結果は、団塊の世代と団塊ジュニア世代は一定数いましたが、39歳以下から減少傾向のようです。若い大工さんの成り手が少なく、団塊の世代の親方が引退したら、さらに大工不足が深刻化する時代に突入しそうです。


 

2、 左官職

左官職は、大工職の約1/5程度の就業者数で、40代の成り手も少なめです。大工職同様、65歳以上の職人が引退したら、土の仕事ができる職人はほとんどいなくなるのではないかと懸念されます。


 

3、 畳工

畳工は、39歳以下の就業者数の計が1000人を切っています。
大工職と左官職とは違い、39歳以下からなだらかな勾配となり、10代の職人はわずか10人という結果。国勢調査に参加していない方がたくさんいると信じたいです。


 

4、 育林従事者

育林従事者は、39歳以下が減少しているものの、大工や左官、畳工よりは減少率が緩やかです。思ったより山なりの緩やかなカーブのグラフになりました。


 

5、 建築技術者

建築技術者は、25~29歳が若干増えています。資格取得のルールが変わったからでしょうか??理由は不明ですが、少し改善の兆しが見えます。


 

6、 とび職

とび職は、まさかの若手が大多数で、高齢者はわずか。49歳以下は、ほぼ平行線で同じような就業者数です。とび職と、大工・左官の就業者数の差は、丁場と町家の違いなのでしょうか??それとも別の理由があるのか、何かヒントがありそうです。


 

7、 産業廃棄物処理従事者

廃棄物処理従事者は、分別解体やアスベスト処理などの費用が上がっているので、成り手も増えているのかと思ったのですが、減少傾向でした。


 

8、 大学教員

大学教員は、45~64歳までは安定します。少子化もあり、教員数も減るのかと思いきや、それなりに需要はあるようです。


 

9、 医師

医師は、グラフを見てもわかるように、25~64歳まで、安定の職業です。今後、高齢化による需要も高まるので医師が多いと安心します。


 

10、 裁判官、検察官、弁護士

裁判官・検察官・弁護士 就業者数は、若手が多いです。法科大学院ができた影響でしょうか?就業者数が一番多いのは、35~39歳なので、今のところは安心です。


 

11、 保育士

保育士は、共働き家庭の増加が需要を高めていそうです。又、女性の成り手が多いことも要因として考えられそうです。


まとめ

日経の記事は、「大工さんが少なくなることで、今後、住宅の修繕が停滞することが懸念されている」という内容でした。最近、見積依頼した工務店さんから「木を扱える大工さんがいない!!」と悩みを聞いていたところだったので、今後、資金があっても、木を扱える腕のある大工さんがいないという時代になるのは間違いなさそうです。
では、若い職人を増やすためにはどうすればよいのか?
おそらく、原因が一つであればすでに解決されていると思うので、なかなか難しい問題かと思います。ただ、「とび職」「医師」「裁判官、検察官、弁護士」「保育士」の4職種が、比較的安定した就業者数となっているので、何かヒントがあるのかもしれません。又、大工・左官と一番近い関係なのは、「とび職」ですが、「とび職」と大工・左官の給与が大きくかけ離れているようなことはないと思うので、ほかに何か要因がありそうです。
今回は、11種の職業をピックアップし考察しましたが、ほかにも需要が多い職業があると考えています。職人の世界は、今でもFAXでやり取りするような背景があるので、やみくもに動くよりも今把握できるデータを生かして解決策を練っていくのがよさそうです。結果、若い職人たちの育成に力を注いでいければうれしい限りです。

(トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田保之)

※今回、国勢調査の統計データからグラフをつくりそれぞれ紹介しましたが、国勢調査に参加されていない職人さんもいると思うので、人数は過小評価されているかもしれません。今回掲載の数値は、一つの目安としてご覧ください。

豊田保之
©Toyoda Yasushi , jutakui


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