「築52年の窓断熱改修!SII補助事業リポート」住宅医リレーコラム2021年2月

小柳 理恵(住宅医協会理事/和温スタジオ代表/神奈川県)

ステイホームやテレワークで家にいる時間が多いこの頃ですね。筆者の自宅は数年前に購入した築52年の中古戸建。設計者の習性でダメな部分があればどうダメなのか観察しながら住んでいますが、見過ごせなくなってきたのが温熱環境でした。夏暑くて冬寒いThe昭和の家・・・ですが、近年の尋常でない暑さ、停電時の備え、複数人のテレワーク環境などを考えて、断熱改修をすることにしました。

建物概要

    • 立地:神奈川県鎌倉市沿岸部、風致地区内の住宅地。最低敷地面積・建蔽率・境界離隔距離などの制限で隣家との間隔に余裕あり。丘陵地でもあり風通し良好。
  • 建物配置:南道路の真南向き配置で平面は東西に長い矩形。南面する主要居室は朝8時台から夕方16時台まで日射が入り日当たり良好。
  • 温熱環境体感:冷暖房は1F居間と2F寝室のエアコン2台を通年間欠運転。

:晴天時、主暖房室である居間は日射熱により無暖房で過ごせる時もあるが、室外に出た時の温度差が激しい為、防寒着・室内履きで体感温度調節。発熱インナー+フリース+ダウン+室内厚底ブーツが個人的には必須。非暖房室の洗面所や浴室・トイレは極寒で、真冬の洗面所は事前暖房ナシでの脱衣は気合いが必要な寒さ。

:何しろ暑い。2Fが載っている1F居間はまだマシだが、2F全室や1F下屋部は天井からの熱を直に感じる暑さ。エアコンの無い部屋で入った途端に汗が吹き出す環境。5~6年前までは風通しの良さが有効で夜に限ればエアコン無しでも過ごせたが、ここ数年は通風自体が熱気で暑く、夜でもエアコン無しで過ごすのは困難。

  • 温熱計算:開口部からの熱の出入りが多い。他部位も全体的に断熱性能が貧弱。漏気も相応に見込んだ。

熱損失計算ー改修前

 

 

改修方法

こうした温熱環境がどこまで改善されるのか。既存性能や工法を検討した結果、窓を中心に非破壊での断熱改修を行うことにしました。「非破壊」とした理由は、自宅の木質パネル工法が大臣認定での特殊な耐震構造で間取り変更や開口移動が容易でなかった為と、補助金を利用する為です。近年、建築の断熱や省エネでは様々な補助事業やポイント制度があるので、断熱改修となればまずは適用できそうな補助事業を確認します。戸建住宅だと補助金額が大きいのがSII(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)次世代建材支援事業で、補助対象経費の1/2が助成されます。こちらの事業趣旨は「既存住宅の省エネルギー化を図るため、一定の省エネルギー性能を有する高性能建材や潜熱蓄熱建材、防災ガラス窓等を短工期で住みながら導入可能な事業を支援し、市場の拡大と価格低減による次世代省エネ建材の自立的な普及拡大を図る」というもの。基本的には非破壊で室内側から施工することが可能な建材の採用が求められますが、今回の断熱改修方針と合致するもので、申請スケジュールも問題なかったので申請することにしました。

一般社団法人 環境共創イニシアチブ websiteより

  • 補助事業要件に則した施工内容

・内窓新設14カ所(家全体/LIXILインプラス:Low-E複層※遮熱)

・カバー工法窓交換2ヶ所(LDK/YKKマドリモ樹脂窓APW331:Low-E複層※断熱)

・断熱パネル新設(トイレ天井+壁/ネオマ断熱ボードRS20)

・調湿建材パネル新設(トイレ天井+壁、玄関壁/モイスNT内装材)

内窓は遮熱Low-Eを主としましたが、カバー工法窓は外部バルコニーが深い庇となり夏の日射遮蔽ができると踏んで冬季の熱取得のため断熱Low-Eとしました。本当は断熱改修で最も効果の高い窓断熱のみでの効果に興味がありましたが、断熱パネル使用が補助要件にて1F下屋部にあるトイレの天井・壁に20mm厚を採用しました。

断熱パネルはネオマフォームと石膏ボード9.5が一体化したもので、既存壁のまま室内側から付加断熱と壁下地が同時施工できるという製品。厚みは20・25・30の三種類です。

調湿建材は補助対象製品になっていたので使用しましたが、工期短縮に良いですね。断熱パネルの仕上を大工工事で同時にできますし、トイレ・玄関の消臭効果も多少期待して、モイスNT内装材(無塗装6mm)を採用しました。


(ネオマ断熱ボード)

 

  • 補助対象経費額と予定補助金額

SII総括表

補助要件では施工内容と部位面積により補助対象経費が設定されています。補助対象経費の合計は¥1,374,000、工務店の実行見積額は¥1,696,370(税抜)でした。低い方の金額が実際の補助金交付算定額となり¥691,000なので、実行額から減じると¥1,005,370で今回の断熱改修施工ができたことになります。お得ですね!

令和3年度以降の次世代建材支援事業は公募未定とのことですが、似た内容の支援事業「断熱リノベ」では2021年2月26日まで追加公募をしていたり、新年度も様々な支援事業があると思われるので、断熱改修される前には補助事業チェックをお勧めしたいと思います。

改修後/室温検証

  • 温熱計算:実際はトイレに断熱パネルを付加していますが比較値として開口部のみを変えて計算しています。

熱損失計算ー改修後

 

数値としては当然改善されていますが、実際どうなのか。2021年1月期に各室の室温測定をしてみました。

改修後平面図

 

  • 測定条件:暖房は改修前と変わらず1F居間と2F寝室のエアコン2台を間欠運転として、寒さを感じた時に作動。日射アリ時は熱取得のため南面遮熱Low-E内窓や室内ドア等を全て開放。
  • 測定場所:(1F)LDK・洋室1・トイレ・廊下(2F)寝室(屋外)木ルーバー物置/測定高さ:FL+1.4m
  • 測定期間:1/11~15の各室温度を測定。11・12日は日射ナシ特別寒い日、13・14日は日射アリ暖かい日、15は日射ナシ普通の寒い日。

 

 

※外気測定場所に難があったか日射アリ時の外気温が高すぎですね。近隣アメダスも添付します。

気象庁|-辻堂1月

    • 室温測定結果についての考察と体感
  • 居間:人のいる時間が長く日中は日射熱かエアコンで常時暖房状態だが、熱源がなくなった後の室温下降速度が他室と比べて早い。グラフの傾きが違う。これが二重内窓と一重カバー工法の差なのか。。。

(体感)装備としてダウンとブーツは不要となり背中の冷気は消えたが、壁床の取合・キッチン設備足元・換気扇周辺で気流と肌寒さを感じる。

 

  • 洋室1.トイレ.廊下(1F非暖房室):暖房ナシにて低めだが温度変化がかなり緩やか。

(体感)暖かくはないが改修前と寒さの質が違う。氷点下になるような特別寒い日でなければ、暖房ナシでも12℃位の室温なので、改修前と比較すれば苦ではない室温。

 

  • 寝室:エアコンはごく寒い日の夕方2時間程度だけ使用。1F非暖房室と同様の挙動で温度変化が緩やかだが、1Fより常に3~4℃程度室温が高い。

(体感)外気温が氷点下になるような寒い日でなければ最低14℃位の室温なので、エアコンをほとんど作動させなくなった。

 

  • 洗面所・浴室:(室温測定無/体感)暖房しないと脱衣できない寒さだったが、暖房不要となった。浴室既存窓は単板ガラスの出窓で入浴しても下りてくる冷気で寒かったが、出窓手前での内窓設置で冷気がなくなった。

 

まとめ

全体として断熱改修をした効果は確かに感じられ、改修前と比べれば過ごしやすい環境となりましたが、窓断熱だけでは快適になったとは言えず、みえてくる課題がありました。

    • 居間:他の部屋と比べて気密性に難を感じる。気流を感じるキッチン設備の足元付近では床温度が周辺温度より4~5℃低かった。漏気の穴を探して室温の再測定をしてみたい。
  • 1F非暖房室:居間との温度差を小さくし、より快適な室温とする為には、居間の暖房熱を積極的に送る仕組みを考える必要がありそうだ。
  • 1F全体:周壁面温度をレーザー温度計で測定すると、床温度が周辺温度より2~3℃低かった。気密性の確認と共に床の断熱性能向上を検討する余地あり。
  • 2F全体:人がほとんどいない無暖房状態だが全体が1Fより暖かくなっている。弱点とみられる床の冷気がない、1F暖気が上にいく+2F暖気はとどまる、窓から熱が逃げにくくなった、ことが理由として考えられる。

これらは冬に利点となるが、夏には裏目となる予測が立つ。天井断熱を強化しないと夏の暑さは解消できないと考えられるが、遮熱Low-E内窓の効果だけで夏の室温がどう変わるか興味深い。

「断熱リフォーム」という言葉がよく聞かれるようになり、「内窓を付けるとこんな効果があります!」という宣伝もよく目にしますが、内窓等を付けただけで断熱リフォームは完成しません。今回の検証では特に寒い日のトイレ室温が終日10℃以下でしたが、これがお客様宅で「断熱リフォーム終わりました!」と引き渡したとしたらクレームになることでしょう。窓だけでなく全体の断熱性・気密性や暖房熱・日射熱の使い方、換気状況、暮らし方などで、温熱環境・快適性には差が出るということを事前に説明しておく必要があります。また施工後も予測した温熱環境が得られているか確認することも大切だと思います。断熱リフォームはとてもデリケートな領域です。断熱と合わせて気密や換気などのバランスをとらなければ、求める快適性は得られず、壁内結露など建物を痛める要因にもなります。断熱リフォームを行う際には、調査により既存性能の把握をした上で温熱性能を算出し、求める性能に合致した施工計画と環境予測を立てることが肝要です。

住宅医スクールには「温熱環境の改善と対策~温熱計算をマスターし温熱性能を向上させる」という講義がありますが、講師・辻充孝先生のエクセルプログラムにより温熱性能算出や防露計算を学ぶことができます。

断熱リフォームを仕事にされる方には、今後ますます必須となる知識ですので、自信がないという方には受講をお勧めしたいと思います。2021年度はオンライン講義にて3/27(土)に開講されます。