食事、運動、断熱・省エネリノベーションで 健康寿命を伸ばしましょう!| リレーコラム2023年7月

村上 洋子 (住宅医協会理事 / 愛媛県・大阪府

国の、窓リノベ事業の補助金で、内窓を取り付けたという話をよく耳にします。取り付けた方、この夏、エアコンの効きはどうでしょうか?まだ先ですが、暖房の効果も楽しみですね!

今年 2月に発刊された建築知識ビルダーズNo.52で、「住宅医・三澤文子に聞く 長寿化リノベーションのはじめかた 調査・診断編」が 第2特集 として取り上げられました。その中の「三澤流リノベーションの 5つの流儀」、3番目には「断熱性能と省エネを向上させる」とあり、住宅医が手がけるリノベーションでは、耐震性能はもちろん、断熱性能と省エネ性能も向上させるのが当たり前になっています。

建物の断熱性能と省エネ性能を上げると、一次エネルギーの消費を減らし、光熱費を下げることにつながるのはよく知られていますが、実はそれだけでなく、私たちの健康寿命を伸ばすことにもつながっているのです。この事を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思います。

毎年 20,000人が住宅の温熱環境により亡くなっている

住宅医スクール温熱担当の、岐阜県立森林文化アカデミーの辻先生の講義で、建物の性能に関係する死亡者数について知り、温熱に関してもう少し詳しく調べてみました(以下、死亡者数)。

熱中症 554人(2022年 6〜9月 1,387人 のうち 40%の屋内での死亡者数)
浴槽の溺水 5,097人(2021年 65歳以上)
また、冬には、屋内で低体温症により亡くなる高齢者が毎年 1,000人 を超えています。

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浴槽の溺水はヒートショック関連と考えられます。寒い脱衣室から移動し暖かい湯船につかるなど、急激な温度変化により血管が縮み、血圧が急上昇して、意識不明や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こすヒートショック。

ヒートショックによる死亡者は、厚生労働省「人口動態統計」の浴槽内での溺死者数や消防の救急搬送情報などから約 19,000人、東京都健康長寿医療センター研究所の研究では、2011年の 1年間で約17,000 人と推計されています。

ヒートショックの死亡者数と、熱中症、低体温症の死亡者数を合わせると、毎年20,000人もの高齢者が亡くなっているのです。幸い命は助かっても、後遺症で不自由な生活を余儀なくされている方も、多くいらっしゃると思います。

その他の死亡原因と死亡者数
交通事故(2022年)2,610人
阪神淡路大震災(1995年)6,434人
新型コロナウィルス(2020年 9月〜2023年 4月までの累積、60歳以上)58,621人

こうした死亡原因と死亡者数と比べると、毎年、ヒートショック、熱中症、低体温症で亡くなる「20,000人」という数がどれほど多いか実感としてわかります。建物の温熱環境を改善して、なんとか犠牲者を減らしたいものです。

暖かい地域ほど冬季の死亡が増える

暖かい地域ほど、冬場に死亡者が増加する傾向があります。冬季の死亡増加率は、断熱性能の良い省エネ住宅が普及している北海道で 10%、それに比べ、大分、和歌山、熊本など温暖な県では 20%を超えています。ヨーロッパでも同様で、北欧のフィンランドは 10%、温暖なポルトガルでは 28%と、住宅の断熱性能が健康寿命に密接に関わっているとわかります。

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冬の室温が18℃以上あると健康に過ごせる

冬季の室温が 18℃以上あると、血圧が下がり、呼吸器や循環器系の病気が良くなるという研究結果があります。また、家の中が暖かいと、活発に活動できます。いっぽう、室温が低い場合は、こたつなど局所的な暖房を使うことが多くなり、動くのがおっくうになります。さらに、入浴で体を温める傾向があり、熱めのお湯に長めにつかってしまい、高体温等による意識障害で事故につながる可能性も高まります。

カーテンでエアコンの効果を上げる

冬季の室温が健康につながることはわかるけど、リノベーションにそんなに費用をかけられないと言われる住まい手も多いと思います。ネット検索すると、「窓ガラスにプチプチを貼る」や、「断熱カーテン」など、自分でできることは何でもやってみようという気概を感じるワードが上がってきます。窓ガラスにプチプチはさておき、ほとんどすべての住まいに取り付けられているカーテンは、冷暖房に効果があるでしょうか?

カーテンは現行の省エネ基準では開口部付属部材として評価対象となっていませんが、カーテンを取り付けない場合と比較すると、ある程度の効果はあるようです。

以下の数値は、一般社団法人 環境共生住宅推進協議会にて取りまとめられた、令和3年度 国土交通省補助事業「カーテン等付属部材による開口部の断熱性 及び日射取得性の影響についての検討事業」報告書(概要版)からの引用です。
https://www.kkj.or.jp/contents/build_hojyojigyo/report/R03_passivetool_report.pdf

  • ・レースカーテンを取り付けると、カーテンがない場合に比べ、5〜7% 程度、冷房に使うエネルギーを減らすことができる。
  • ・ドレープカーテンを取り付けると、カーテンがない場合に比べ、5〜15% 程度、暖房に使うエネルギーを減らすことができる。

暖房時は、カーテンの上下左右に隙間がなければ効果的です。
参考:フタ付き、リターン仕様のカーテンレール(ニトリ)
https://www.nitori-net.jp/ec/product/7450717s/

断熱性能の低い家屋ほど、暖房時のカーテンの効果が高いので、手っ取り早くカーテンレールを取り替えてみると良いと思います。でも、やはり、住まいの一部だけでも良いので、断熱・省エネリノベーションを行なって、健康寿命を伸ばしてもらいたいです。

夏の電気代を節約するには

これから夏本番。昨年のコラムでは「夏の節電でSDGs 〜 家電・照明・冷房で光熱費を削減しよう!」を書きました。
https://sapj.or.jp/column220810/
冷房にかかる電気代は思うより小さいし、少しの工夫でさらに料金を減らすこともできるので、進んでエアコンを使って、猛暑を乗り切りましょう!

村上洋子
©Yoko Murakami , jutakui